62話 おまえよりも強いから
「おっるあぁっ!」
ゴリラが駆ける。
狙うは肉巨人の命。
正確にはそれを制御する核。
桃吉郎が先ほどドラミングを行っていたのには一応わけがあった。
彼のドラミングによる振動波によって、核の位置を割り出していたのである。
まさにゴリラ的発想。
これを今後【ゴリ技】と呼称しようと思う。
完全に桃吉郎オリジナルの武術?となるんじゃないかな。知らんけど。
「こそこそ隠れやがって。引きずり出してやる!」
桃吉郎は妖刀で肉巨人の右ひざを滅多切りにし始める。
肉巨人は慌てて桃吉郎を握り潰さんと左手を伸ばした。
だが、それすらも纏めて切り刻む。
まるでドーム状に斬撃の防御フィールドが展開しているかのような感じだ。
「おらおらおらっ!」
「ふきゅきゅきゅっ」
やがて、巨人の膝の中に潜り込んでゆく。
斬撃は勿論止まらない。
だというのに息を乱さないのは人間の域を簡単に逸脱している証明だ。
「見~つけたぁ」
「……!」
そこに隠れていたのは人間モドキではあるが、そうではない存在。
少女の身体に無数の眼球とイボ、そして血管のような触手を生やした存在だ。
「何故ここがっ!?」
「さっきのドラミングで一番ビビってただろ、おまえ」
「っ!?」
「群れのボスってのはな臆病なのさ。そうじゃなきゃ務まらねぇ」
群れのボスとは危機的状況に一番敏感でなくてはならない。
リスク管理に秀でてなくてはいけないのだ。
桃吉郎はそれを利用した。
先ほどのドラミングは肉巨人の核の位置を特定するためのものであり、ただ単に興奮したから行ったわけではなかったのだ。
……たぶん。
「まぁ、そんな事よりも……おりゃぁっ!」
「ぴぎっ!?」
桃吉郎は核の顔面を巨大な手で、ぐわし、と掴んだ。
そして、そのまま引きずり出す。
ブチブチと千切れる血管。
その度に肉巨人は制御を失って崩壊していった。
「ふんっ!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
そして、そのまま核を体外へとぶん投げる。
肉巨人の核は巨人の制御に特化している個体であり、本体の戦闘能力はそれほど優れているわけではない。
しかし、並のドッペルドールでは歯が立たない程度には強かった。
「ぐっ! お、おのれっ!」
空中で一回転し華麗に着地する核。
その異形の存在にジャックが気付いた。
「なっ……!?」
「っ!」
核は驚くジャックに咄嗟に反応。
彼の命を奪わんと血管を伸ばした。
血管は巨人を制御する管でもあるが、同時に彼女の口でもある。
それをジャックに突き刺して、体液を全て飲み干さんとしたのだ。
しかし、ジャックが動揺したのはほんの一瞬。
すかさず左手でコンバットナイフを抜いて、向かってくる血管を最小限の動きで切り払った。
「おまえ……熊本のっ!」
「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ジャックが動揺したのにはわけがあった。
それは、核の少女が熊本のDAの一人であったからだ。
「ふしゅるるるるるるっ! 殺す! この姿を見た者は全て殺す!」
威嚇する核。
かつての名は【ルリ】という名の銀髪が美しい美少女ドッペルドールだ。
しかし、今は醜い化け物と化している。
「じゃあ、その前に、俺が、おまえを、ぶっ潰す」
「ひっ!?」
桃吉郎はわざと分かりやすいように喋った。
それは強者の威圧。
桃吉郎とルリ。
完全に両者の立場は分かれた。
狩る者と狩られる者。
ふきゅん。
奇妙な音を立てて現れる珍刀。
「咆えろよ! エルティナぁ!」
「ふきゅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!」
マジで咆えた。
怪しく立ち昇る桃色のオーラ。
それは、それだけ珍刀が餌を貪り喰らった証だ。
桃吉郎が上段の構えを取る。
それは一撃必殺の予備動作。
「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ルリにも意地があった。
熊本のDAとしての意地だ。
しかし、それも過去の栄光。
無数の血管を桃吉郎に伸ばす。
ぞぶっ。
ぶちっ。
しゃくっ。
「な―――――」
避けるまでもない。
まるでそういうかのように棒立ち。
だが、その血管のことごとくが半ばで消失した。
血管の損傷部分は何かに食い千切られたかのような状態だ。
「あばよ」
桃色の刃が振り下ろされた。
華奢な肉に食い込む刃。
左肩から右わき腹へと通り過ぎる。
その刃には血の一滴も付着していない。
「ごぽっ……なん……で――――」
敗北した理由が分からない。
ルリは両断され絶命した。
「そりゃあ、俺たちがお前よりも強いからだ。こんな簡単な答えも分からねぇのか?」
ふきゅん、とエルティナを鞘に納める。
肉巨人は完全に崩壊。
桃吉郎たちの完全勝利であった。




