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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第二章 ギルド島
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第五十八話 初出勤


 翌朝。

 ジュンはギルド本部の入り口横にある、三番と札が出ている部屋にいた。

 ジェンナが言うには、ここで待っていると、職員が配属先に連れて行ってくれるらしい。

 職員の採用時期でもないのに、ジュンの他にもう一人待っている者がいる。

 

「あんだも、ここではだらくのかえ?」

 ジュンよりはるかに立派な体をしている男が、人の良さそうな顔で話し掛ける。

「はい。ここで待っていれば良いんですよね?」


「んだな。寮でそうしゃべられだ。おらジョンでいう」

 そう言って手を出されたので、何の握手か分からないが、手を出して言う。

「ジュンです。お互いに頑張って一人前になりましょう」

「んだな」

 朝の本部は忙しそうだが、二人は待つ身なので、のん気にしているしかない。

 

 さほど待たずに奥のとびらが開き、忙しそうな女性職員が二人、急ぎ足で近付いて来て、年配の女性がジョンの前で止まる。

「あら、随分鍛えている体ね。付いていらっしゃい」

 ジョンはジュンに片手を上げて、女性職員の後ろに続いて行く。


 もう一人の女性はジュンの担当らしく、頭からつま先まで視線を動かす。

「君は力仕事、大丈夫? 結構、腕力がいるわよ?」

「大丈夫です。見かけより力はあります」

「そうよね。ここに来る位ですものね。ついていらっしゃい。渡す物があるわ」


 ジュンは小さめの個室の中で、エプロンを渡される。

「見習いの内はエプロンよ。調理場で仕事がもらえるようになると、服や靴や前掛けが支給されるから、がんばるのよ?」

「はい」

 ジュンは願い通りに食堂に配属されたので、うれしそうに返事をする。

 

「では、案内するわ。付いてきてね」

「はい」

「明日からは職員玄関から入って、すぐ右に真っすぐだから、分かりやすいでしょ? 突き当たりが食堂よ」


 彼女に続いて食堂に入る。

 長いテーブルと背もたれのないベンチが並んでいる様子から、セルフサービスであろう事が想像できる。

 正面のカウンター内は仕込みの時間なのか、忙しそうに働く人たちが見える。

 

 女性職員がカウンターの中に声を掛ける。

「ヘルタス料理長。待望の新人君を連れて来たわよ」

「おう。ご苦労だったな。ありがたいぜ」

 その声を聞いて彼女はジュンにほほ笑んだ。

 

「いかついけど、面倒見は良い人だからね。頑張るのよ。私はもう行くわね」

「はい。頑張ります。ありがとうございました」

 彼女が立ち去ると、カウンター横の扉が開き大きな男が現れた。頭の上の耳で獣人族だと分かって、ジュンは少し不思議そうにカウンターの中を見る。

 

(白いコックコートに白いパンツや前掛けは、日本と同じなのに、コック帽ではなくてキャスケット帽? あぁ。この世界は耳が色々あるからなんだね)


「ヘルタスだ。料理長をしている。ここの責任者もやらされている」

「ジュンと申します。よろしくお願いいたします」

「皆に紹介しよう」


 ヘルタスは調理場に入ると声を張り上げて告げる。

「皆。ちょっと手を止めろ! 今日から仲間になるジュンだ。いろいろと教えてやってくれ」

「ジュンと申します。できるだけ早く仕事を覚えようと思っています。よろしくお願いします!」

「ワサン。ジュンに仕事を教えてやれ」


 ワサンと呼ばれた青年はヒョロリと背が高く。そばかすのある顔でうれしそうに返事をする。

 今まで一番下っ端だったのだろう、いよいよ制服が支給されると、周りにからかわれて笑顔をみせる。

 

 それぞれが持ち場に戻るとワサンがジュンに話しかける。

「初めは外なんだ。ついて来て」

 木の柱と屋根だけがあり、大きな(たる)やタライがきちんと並んでいた。

 ワサンは大きな小屋に入ると説明を始める。

 

「ここは土の付いている野菜が運び込まれる場所なんだ。この板に書かれている数が今日洗う分。濡れると腐るのが早くなるから、多目に洗っては駄目なんだよ」

 そう言うと芋の入った袋をジュンに持たせ、自分も持つと外にある樽にゴロゴロと入れる。

「この蛇口から水を出して、これでこうする」


 丸い木の棒をクロスさせた物の二本を水に入れ、残りの二本を両手に持ち、樽の中を動かす。

「この後はそこの藁でこするんだ。芽のところに土が残っていると、切り場からドヤされるから気を付けて。葉野菜はタライで洗ってあの階段みたいな棚で干して置く。手が冷たくなるから葉野菜と根野菜は交互にやるといいよ」


「急ぐ物はないのですか?」

 ジュンの問いにワサンが答える。

「大急ぎの物は前日にやるからめったにないかなぁ。あぁ、忙しい時は切り場の手伝いがあるからね?」

「包丁を持てるんですか?」

「皮むきだけだけど、少しずつ慣らすみたいだよ」


 ワサンと作業を始め出して、一時間もしない内に切り場から声がかかり、ワサンはジュンに任せて切り場に行く。

 

 ワサンがいなくなると、ジュンは樽を全て並べ、板を見ながら野菜を放り込む。

(土汚れは水に入れておけば、落ちやすいからね)

 タライに入れた葉野菜を、軽い水圧の水魔法で次々に洗い棚に干す。

 

 樽に水を足しながら風魔法で回して、洗濯機のすすぎ状態にする。

 それらを桶に移す時に左目を使い、土の有無を調べて倉庫から新品の歯ブラシを出して土を洗う。

 

 そんなジュンを調理場の窓から見ている者がいた。

「ほぉ。今回は大当たりだな」

 料理長のヘルタスの横で、見ていた男がうなずいた。

「既に終わりそうですから、むかせてみますか?」

「あぁ。どの程度か見てみよう」



 ワサンが呼びに来て、ジュンは芋の皮をむくように言われる。

「ここの包丁は特殊だから気を付けて」

 この世界の包丁は日本では中華包丁と呼ばれる四角い物なのだが、見せられた包丁は日本にはよくある柳葉包丁だった。

 

 使い慣れていた包丁で、ジュンは次々と皮をむいていった。

 

 その時、調理場のカウンターから声が聞こえてきた。

「だから人事の間違えだと言っているだろう! ヘルタスを呼べ!」

「煩い。なんの用だ」

「こいつはジョンだ。そして今日から食堂勤務だ」

「そうか。では引き取ろう。人手はあっても困らん」


「で、うちに来る新人はどこだ?」

「知らん」

「ヘルタス、お前アホなのか? 今日二人の新人が入った。一人はこのジョンだ。魔力は一級、水魔法のみ。剣を見たら珍しそうに眺めているだけ。なぁ。特務隊で使えるか?」

「使えないのは、お前が無能だからじゃないのか?」


「ふざけんな! さっさとうちの新人を出しやがれ!」

「さて、お前のところの新人など知らんわ」


 二人のやり取りを聞きながらワサンがジュンに言った。

「あの二人は、あれで仲が良いんだ。料理長はジュンが気に入ったようだな。とぼけ通せると良いけど……」

「誰なんですか? 僕はここで働けないのでしょうか?」

 近くの男が、それを聞いてジュンを見た。

 

「特務隊のチェイス副隊長だ。ジュンは特務隊の新人なのか? 見えないけどよ」

「聞いていません。食堂に空きがあったら、お願いしますと頼みましたが」

「なんだと? ちょっと待ってろよ」

 男はそう告げると、料理長のそばまで行って耳打ちをする。

 

「本人が食堂を希望して、入ってきたようだぞ? 人事の間違えだな。二人ともここの新人だ」

「んな訳あるか! ちょっとどけ!」


 特務隊の副隊長はカウンターをヒラリと超えると、辺りを見回し、迷わずにジュンの元にきた。

「なにをしている」

「芋の皮むきですが」

「そうではない! なぜ、ここにいる」

「食堂勤務を希望して、採用されたのですが? 僕はなぜ、怒られているのでしょうか?」


 副隊長の後ろで、料理長が面白そうに笑う。

「出直せ! これからここは戦場だ。うろうろしてたら、こき使うぞ!」

 副隊長はジュンを見て告げる。

「帰宅したら、自分がどこの部署なのかを聞け。そして明日は出勤する場所を間違えるな。いいな?」


 副隊長の背中をジュンは見ていた。

 

(間違えてないでしょ? 短気なのかなぁ?)


 その日ジュンは定刻まできちんと仕事をして、初出勤を終わらせた。

 







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