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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第三章 守るべきもの
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第百十一話  招待状?

「あなたがジュン様でしょうか? 初めまして。私はゲーと申します」

 ジュンとワトは同時に振り返った。

 しかし、そこには誰もいなかった……。


 ジュンは足元にある、細長い箱に気が付いて拾い上げた。

「なんだろう?」

「昔に使われていた、文箱に似ているっす」

「文箱? この大きさだと手紙入れだね」


 ジュンが開けた箱の中には、彼宛ての手紙が入っていた。

 箱だけをカバンに入れて、ジュンは手紙を読み始めた。

「ワト……。土の妖精の霊ってすごいね」

「何が書いてあったっすか?」

「イザーダ語が書いてあったよ」


 ワトは小さく息を吐いて言った。

「いや、そうじゃないっすよ。内容っす」

「うん。招待状?」

「なんで質問なんすか」


 ジュンはしばらく考え込んだ後に、ワトに今回の記録を渡して告げた。

「ワト、先に拠点に帰って報告してくれる? 僕はちょっと行って来るよ」

「だ、駄目っす! オレも行くっす! それがオレの任務っすよ」


 ジュンは困ったように眉を上げた。

「妖精の霊は、僕に危害など加えないよ。この手紙は一人用の陣。それもこの場所からの一方通行なんだ」

「それなら、拠点にこの場所から連絡をした方が良いっす」


「ワト、ごめん。時間がないみたいだよ。行ってきます」

「主!」

 ワトが伸ばした手の先で、ジュンの姿は静かに消えて行った。




 ジュンが強制転移させられた先は、穴の中だった。見た感じは落とし穴と言うべきだろうか。

 ぐるりと丸い壁は固められているが、土である。

 そして、天井には青空があった。


 机や椅子がある所を見ると、罠などではなく、ここは妖精の住まいなのだろう。

 その椅子に腰掛けているのは、他の妖精のように子供ではなく、体型は大人だった。そして何より、一番の違いは、顔がモグラである事だった。


「驚かせてすまなかったですね。良ければ少しあなたと、お話がしてみたいと思いましてね」

 モグラの声は違和感のない男の声で、その口調は穏やかなものだった。


「初めまして。ジュンと申します」

「ゲーです。お掛けになって、お茶でもいかがでしょうか」

「ありがとうございます。頂きます」


 ゲーはジュンの前にお茶を置いて、再び腰を下ろした。


「お口に合うとよいのですが」

 ジュンは茶を一口飲んで、首をかしげた。

(香りのない珈琲なのかと思ったのに……)

「おいしいですね。初めての味です。優しい甘みがありますね」

「それは、木蜂に寄生された木の根なのですよ。人族の方には疲労を軽減する効能があるのです」


 ジュンは笑みを浮かべてゲーを見た。

「お気遣いありがとうございます」

「いいえ。ここまで来ていただいたのですからね。世界樹の腕輪はあなたの負担になっていませんか?」


 ジュンは腕輪をなでながら言った。

「この腕輪で僕は何をすれば良いのかすら、分かっていないのです。災いとは何ですか? どんな事が起ころうとしているのですか? ブレイスから聞きました。あなたなら、助言をくれるかも知れないと」


 ゲーは息を吸って上をみあげて、一気に息を吐き出した。

「何も知らされず、ただ妖力の玉を五個も集めろと言われた。イザーダの世界を守るためにと? 世界樹の腕輪があなたを選んだからと? それではあなたが、断る事もできなかったでしょうね」


「はい」

 ジュンは苦笑いをするしかなかった。

「本当にひどい話ですよね? 彼らは昔から成長していません。最後はいつも私任せなのですよ。ところで、あなたはどこまでご存じですか?」


 ジュンはミゲルやシルキーと共に訪れた、遺跡で読んだ日誌やシルキーの話を、ただ知識として感情を交えずにゲーに伝えた。


「そう。戦いでノーア神は倒れました。当然です。神ではなくなったのですから。ただ、私たちには崇拝するお方であることには、変わりありませんでした。あの方が消える事を私たちは阻止したかった。あの方が生きてさえいれば、ノーアの世界は維持できると、愚かにも思ってしまったのです」


「それで五戦士は全魔力をノーア様に? 妖精族は魔力がなくなると生きてはいられないのでしょうか?」

 魔力が底をついても、人族は命を落とす事はないと、ジュンはミゲルに聞いていた。ただ、魔物の前で動けなくなるのは、死を意味する結果にはなるのだが。


「ええ。その通りです。戦いで世界樹も弱っていました。結局私たちの魔力では、あの方の大きな魔力の器を満たす事はできませんでしたが、消える事だけは、何とか食い止めたのです」

 ゲーはそう言ってうなだれた。


「それで、ノーア様は眠っていらっしゃると? あなたたち五戦士は、目覚めを待っているのですか?」

「いいえ。私たちは間違えを犯したのです。あの方の意識がなくなった時、神々しいオーラが真っ黒なオーラに変わってしまったのです。悪神になってしまわれたのです。妖力の玉で何とか今まで封印をせざるを得ませんでした」


 ジュンはゲーに尋ねる。

「目覚めてしまうのですね?」


「私たちの妖力の玉ではもう、封印はかなわないでしょう。あの方に作られた私たちでは、あの方に逆らえません。あの方は倒れた時、世界樹の腕輪をスプリガンに託しました。その時に気付くべきだったのです。あの方のお気持ちに」


 ジュンは腕輪に触れて言った。

「この腕輪は世界樹の住む世界を、守るためにあるのですね?」

 ゲーは大きくうなずくと、沈んだ瞳で言った。

「ええ。動けない世界樹の代わりに戦う、世界樹の武器なのです。世界樹の腕輪は、あの方の排除を決めたのです」


「悪神ノーアを倒して、この世界を守れ。それが世界樹の腕輪と五戦士の気持ちなのですね?」

 ジュンはゲーを真っすぐに見た。


「封印が弱まった今この時に、世界樹の腕輪はあなたを選んだ。私たちには、願ってもない事ですが、あなたにとっては、命がけの戦いを押し付けられた事に違いはありません」

 ゲーはすまなそうに、そう言った。


「待ってください。それは五戦士も同じですよね? この世界が崩壊しても、責任を感じる必要はないと思いますよ? 霊になってまで、責任を負う必要はない。この世界はこの世界の者が守れば良いのです」

 ジュンの真剣な顔を見て、ゲーは小さく笑った。


「随分と乱暴な結論ですね。でも私から、今のあなたに妖力の玉を差し上げる事はできません。あぁ、勘違いをしないでくださいね。私の妖力の玉は自ら人を選ぶのですよ。」


「面接があるのですか?」

 ジュンの質問に、ゲーは穏やかな笑みを浮かべた。

「いえ。あなたに玉を受け入れて頂きたいのです。難しい事ではありません。こちらにどうぞ」


 ジュンは歩きだしたゲーの後に続いた。

 彼が土の壁の前に立って手をそえると、壁の一部がまるで扉でもあるかのように開き、ゲーの肩越しには自然光ではない明かりが広がっていた。


「あのゴレームは、私の作った物です。見ていてください」

 三十メートルほど先に、土でできている人形が並んでいる。

(あれって、絵が趣味の義姉さんが持っていた、デッサン人形だよね。関節が動くのかなぁ)


 ゲーが一歩も動かず剣を向けると、足を投げ出し力なく座っていた一体のゴレームが、頭を上げてから起き上がった。

 それから、歩いてゲーのそばまでくると、まるで兵士のように彼の前で(ひざまず)く。

 ゲーはためらうようすもなく、そのゴレームの頭を跳ね飛ばした。


「え?!」

 驚いて思わず声をだしたジュンの目の前で、ゴレームは静かに土に変わり、床に吸い込まれていった。

「あなたは驚くだろうと思っていました。このゴレームは妖力の玉で動かしたのです。ゴレームは頭を離すことで、土に戻るように作ってあります」


「腕輪から玉が出るのでしょうか?」

 不安そうに尋ねるジュンに、ゲーが言った。

「その玉は妖力の器です。そこに、アネモスから受け取った妖力の玉がありますね? その玉は、アネモスが作った物ですが、その腕輪に収まった時点で、主はあなたなのです。アネモスの命令にはもう従いません」


「僕の妖力の玉って事ですか?」

「そうです。向こうに四体のゴレームがあります。ここから四種類の玉を使い、この場所まで移動させて跪かせてください。妖力の玉を身につけていても使えなければ意味はありませんからね。練習と思っていただくと良いでしょう」


「はい。でも僕に動かせるでしょうか?」

 不安そうな顔をするジュンに、ゲーの眼差しは優しい。

「玉と心を通わせる事ですよ。自分で作った物ではないので、そこから始めましょう。急ぐ必要はありません」


(心を通わせるって……。人ならば何とかなる。しかし、妖力の玉ってどうやるの? 通わせる心があるとは思えないよ)


 ジュンはブレイスからもらった赤い玉を見つめた。

(心の中で願うだけでは、やはり無理みたいだ。どうしたらいい……)

 しばらくは、ゴレームを見つめたり、腕輪を見つめたり、ブツブツと独り言をつぶやいては、ため息をついていたジュンの表情が明るくなった。


「そうか、もらった時を思い出せば良いのかも」

 ジュンはブレイスにもらった、赤い妖力の玉を見てからゴレームを見た。

 しかし、いくらたってもゴレームは動かない。


「あ、そうだ。魔法を使うのに全員が剣だったんだ」

 ジュンは剣をかまえると目を閉じて、そのままじっと動かなかった。

 それから、目を開けると人形に剣を向けた。


 一体のゴレームが赤いオーラを発すると顔を上げて、ゆっくりと立ち上がった。

 それから、ジュンのそばまで歩いてきて、跪いた。

 ジュンは振り返ってゲーを見る。

 ゲーはにこやかに大きくうなずいた。


 ジュンは、火、風、水、そして最後に雷の妖力の玉で、ゴレームを跪かせた。

 しかし、ゲーは何も言わない。


(多分、ゴレームを土に返せばいいんだろうなぁ。良い気分じゃないよね。僕に応えてくれて、そして跪いてくれたゴレームなんだよ。僕は鬼じゃない。でも、それでは土の妖力の玉が手に入らないのかぁ。僕はイザーダを守りたいからね。嫌な試し方をするよね)


 ジュンは四体のゴレームの頭を、次々に跳ね飛ばした。


「お見事でした。世界樹の腕輪をだしてください」

 ジュンは腕輪のある腕を前に伸ばした。


「守りのスプリガンの力を継ぐ者よ。五つの妖力が認めたその知恵で、この世界を守れ」


 ゲーの剣が土の床を突き刺した。そのそばの土に茶色の玉が現れた。

 その玉は、浮かび上がるとジュンの顔の前で止まる。

「よろしくお願いします」

 ジュンは思わず、そう口にすると、玉は腕輪に収まった。


「ゲーさん。ありがとうございました」

 ゲーが少し難しい顔で言った。

「いいえ。それでは、私からの助言をいたしましょう」


「はい。お願いします」

 ジュンは嬉しそうな笑顔をゲーに向ける。


「このままでは、あなたは命を落とします」










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