コードネームNo.2【依頼】
『ああ、もちろん報酬は保証する。』
「俺は報酬の事を問題してるんじゃねぇ。もし綾瀬が狙われるようなことがあったのなら相手の処分はどうすればいいのかと聞いてるんだ」
俺は今、校舎裏の影で依頼人の奴に電話をかけている。
依頼人は『綾瀬 浩史』
綾瀬の実の父親で大企業の経営をしている現役社長だ。
そして『元裏社会の経営者』だ。
『その事なんだがね。出来れば殺さずに生かして捕らえて欲しい』
「ほぉ。それは何か理由があるのか?」
『もちろんだ。今回の護衛を頼んだ理由にも繋がるのだがね、どうやら狙ってくる者達は皆単独では無くどこかの集団に属しているようなんだ。』
「…一殺し屋集団が1人の女の子を狙っているってことか?」
本来殺し屋の仕事は対象の規模や人数によって派遣される人数が変わる。
大きな集団の抹殺するというのなら大人数が派遣され、4人ほどの少人数なら腕の立つ者なら単独、一般の殺し屋なら2人ほどで派遣される。
しかし今回のターゲットはただの一般人1人。それも普通の女の子だ。
『その通りだ。私も初めは疑ったのだが関与していたもの達を調べあげると全員に共通してワシのようなロゴが付いていた』
「…ワシのようなロゴか。明らかに殺し屋集団員である証明の為の物だな」
『だから捕らえた者をこちらで尋問し、所属集団の情報を吐かせて元から潰そうという訳だ』
「そういうことなら良いだろう。今回は殺し屋として雇われた訳では無いからな、依頼主が殺すなと言ったのなら殺す訳にはいかないだろう」
『君も丸くなったな【不見の死神】紅月くん』
「その名前で呼ぶな、もうその名前は捨てたんだ。お前こそ随分立場がでかくなったじゃねぇか、嫁を貰ってから人が変わったな」
『そりゃあ嫁に『裏社会の人間の妻』というレッテルは貼りたくないからねぇ〜』
「は!そりゃあめでてぇこった。それじゃあ依頼内容も聞いたしそろそろ切るぞ」
『ああ、ちょっと待て。君に最後に言っておかなければいけないことがある』
「言っておかなければいけないこと?」
引き止めるおっさんの声に俺は返答して続きの言葉を待った。
『紅月くん。君は私の娘と許嫁という立場におきたいと思っている』
「はぁ!?」
+ + +
「おいおっさん。冗談きついぞ?なんで急に俺を綾瀬の許嫁にするんだ?」
『君が夏の許嫁になったら君が学校内でも外でも夏のそばにいる理由ができる。それにこの依頼を君が受けたということは少しなりとも夏を悪くないと思っているんじゃないか?』
こいつは昔から人の心を読む天才だ。
こいつは5分ほど対面で話すだけで相手が何を企んでいるかを読み、それを徹底的に排除する。そうして今の会社が大企業に成長したのだろう。
『それで、この条件を君は飲むのか?あ、夏がどう思っているかという言い訳はあの子からの提案だから通用しないよ』
「…マジかよ。…まぁいい、その話引き受けるよ」
『よし来た!いや〜うちの子男の気配も無かったけどこれなら安心だねぇ』
「…てめぇこれが狙いだろ」
『おやおやそんな人聞きの悪い。あくまで副産物としてあったらいいな〜と思っただけですよ』
「どうだかね…」
『まぁ時間もいい頃合いだ。それじゃあよろしく頼むよ』
「ああ、依頼は完璧にこなすのが俺の流儀だ」
俺はおっさんとの通話を切って教室に向かった。
時刻は13:10。もうすぐ昼休みが終わる時間帯だ。
+ + +
「拓夢くん。お父さんから事情は聞いた?」
昼休みも終わりに差し掛かった時、いつも界羅が座っている前の席に綾瀬が座ってきた。
「ああ、あいつの手の上でしっかり転がされたよ」
「お父さんが『拓夢くんは昔から依頼していた護衛の会社の人だから心配無い』って言ってたけど拓夢くんって凄いんだね!すごくかっこいい!」
「お、おう。」
おっさんは綾瀬に俺の事を『よくお世話になっている護衛会社の人』という説明をし、『元殺し屋』という部分は黙っていると言っていた。
そりゃあ殺し屋なんて説明したらすぐさま『この人が護衛は嫌だ』と言って切られるだろうからな。頭を使ったらしい。
「それで聞いた通り私と拓夢くんは『許嫁』という関係になったんだけどそれは学校で言っとく?」
「先生の方に関しては俺の内通者が居るからもう話は通っている。あとは生徒たちだが正直そっちは少しづつ光景を見ていったら気づくだろうから放置でいいさ」
というかいちいち説明しようがしまいが知られることに変わりは無いので面倒というのが本音だ。
「ふぅ〜ん。じゃあなんでもいいや!それじゃあ早速今日の帰り道寄り道していこう!!」
「…急だな」
「遊びに行く予定なんて急なぐらいでいいんだよ。もしかして今まで誰かと遊んだことない感じ〜?」
「今までは仕事ばっかりだったからな。友人と遊ぶなんて経験は一切ない」
そりゃあ今まで学校にも通わなかったし友人なんて1人も作ったことが無いから遊ぶもクソもないのだが。
「えぇ…可哀想…」
「そんな憐れむな、慈悲も要らん。まぁ今日の放課後は空いてるしいいぞ。」
「やったあ!駅前の気になってたクレープ屋さんがあるんだ〜」
年相応な反応で可愛いと思ってしまった。




