92.僕らの地球を守れ! 20世紀地球防衛軍(操縦アクション)<2>
怪獣タトラに向かって円盤状戦闘機を駆る。
21世紀に居た頃はフライトシミュレータ系のゲームもやってきたが、こうやってコックピットに乗って動かすのは初めてだ。
しかも、普通の戦闘機とは違い、慣性を無視して真横や真後ろに移動できたりもできるので、フライトシミュの感覚でいたら機体を使いこなせそうにない。操縦の仕方は頭に叩き込まれたが、だからといっていきなり自由に動かせるわけでもないのだ。
タトラは大都市に上陸し、うつ伏せになって建造物をむさぼり食っている。
ふーむ、ここはどの街だろうか。
『20世紀イギリスのロンドンです』
サンキュー、ヒスイさん! 今日もいい助手しているな。
じゃあ、今バリボリ食われているのは、ビッグ・ベンか。名所は怪獣に破壊される運命にあるから、ロンドン市民の皆様は諦めてくれたまえ。
『あれがビッグ・ベンか』『今じゃ残ってないからなぁ』『インディーズゲーでよくこんな昔の風景再現できたな』『700年前か』
そうか、俺には映像で馴染みの深い風景でも、未来の人達にとってはそうでもないのか。
ともあれ、これ以上歴史ある建物を壊させるにはいかない。
俺は、操縦桿の左手側にあるボタンを押した。
戦闘機から二発のミサイルが発射され、食事に夢中でこちらに気が付いていないタトラに命中して、大爆発を起こした。……周囲の建物を巻き込んでだ。
『ヨシちゃんやりすぎじゃね?』『どちらが文明の破壊者なのか』『これ、最後の決め技の類じゃないかなぁ』『ウェストミンスター宮殿崩壊!』
「無防備なところに最大の火力を叩き込むのは常識だろう。周辺被害はコラテラルダメージだ」
便利な言葉だよね、コラテラルダメージ。軍事目的の為の、いたしかたない犠牲だ。
まあ、タトラがあそこまで近づいていたなら、民間人はみんな逃げているだろう。大丈夫、大丈夫。
と、タトラがこちらを向いた。
俺は操縦桿を操り、タトラの周囲を回りながら、右手のスイッチでレールガンを相手に叩き込んでいく。
だが、気にした様子もなくタトラは立ち上がり、その牙が生えそろった口を開くと、突如火を噴いてきた。
「ぎゃあ!」
目の前のモニターが火で真っ赤に染まる。
『どうしたヨシちゃん、いつもの回避は?』『完全に油断したな』『怪獣と言えば口から噴射だろうが!』『視聴者に怪獣ガチ勢が混じってない?』
く、確かに油断した。
戦闘機が展開している電磁バリアの強度は、残り90%だ。バリアを全部失えば、後は怪獣にスクラップにされる末路が待っている。
タトラがさらに火を噴こうとしたので、俺は慌てて機体位置を下げ回避。反撃にレールガンを撃つ。
だが、あまりレールガンは効いた様子がない。
『ヨシムネ様、タトラの胴体は硬く、さらに背面はほぼ攻撃を無効化されます。手足や頭を狙ってください』
そうヒスイさんからの助言が入る。
「最初のミサイルが効いた様子がないのはそれか!」
あのときのタトラ、うつ伏せになっていたからな。甲羅に命中したのだろう。
俺は、狙いを変えタトラの足を撃ち始めた。すると、タトラは悲鳴を上げてその場に転げた。
『効いてる、効いてるよ』『一匹目から部位狙いが必要とか、難易度高めだな』『ただの兵器一機が怪獣を圧倒しすぎるのもどうかってなるし……』『ヨシちゃん頑張れー!』
「頑張るー! って、こいつ、手足引っ込めやがった」
うつ伏せになり手足を甲羅の中に引っ込める、いかにも亀らしい守りの型を取るタトラ。
仕方ないので頭を狙おうとした次の瞬間、タトラの引っ込んだ手足の穴から火が噴射され、空にいるこちらに向けてタトラがすっ飛んできた。
「ぬお、ぬおおおお!?」
咄嗟に回避しようとしたものの、タトラはバリアをかすめていった。バリア強度残り75%!
さらにタトラはブーメランのように旋回して、またこちらを狙い始める。
「くおー、ぶつかる!」
操縦桿を右に!
それからしばらく、俺とタトラとのドッグファイトが続いた。タトラは体当たりだけでなく、飛びながら口から火炎噴射も仕掛けてきて、なかなかスリリングな戦いになった。
そして。
「よし、地面に叩きつけたぞ!」
俺は地面すれすれを飛んでから上に飛び上がることで、タトラの体当たりを回避。すると、タトラは体当たりの勢いで地面へと突き刺さった。
頭からウェストミンスター宮殿の瓦礫に突っ込んだタトラは、完全に無防備である。
俺は、手足を出してばたついているタトラの足に向かって、電磁ビーム砲をお見舞いした。
発射するには溜めが必要だが、威力は十分。電磁ビームによりタトラは吹き飛び、今度は仰向けになって無防備な姿をさらに晒す。
今度は頭に向かって電磁ビームを叩きつけると、タトラはその場で鳴き声を上げ、やがて動かなくなった。
『ミッションコンプリート』
そんな音声が流れ、BGMがいかにも勝利しましたという風な曲調に変わる。
『ご苦労だった。帰投してくれ!』
そんな総司令だかの声が聞こえ、視界が暗転する。
セーブしますか? とシステムメッセージが流れたのでセーブをしておく。
そして。
『ステージ2 バフラ出現!』
そんなテロップが黒い背景に白文字で表示される。
次の怪獣はバフラというのか。
そう思っていると、視界が晴れ、俺はどこかの都市の上空を見下ろしていた。
アバター視点ではなく、第三者視点のようだ。
『ソビエト連邦 モスクワ』と表示されたが、その都市は怪獣に蹂躙されていた。
芋虫を彷彿とさせる、それでいてグロテスクさの薄い巨大な怪獣が、地を這いモスクワの市街地を進む。
怪獣バフラの進む先は、白い立派な建造物……。テロップに、『ベールイ・ドーム』と表示される。
ふむ、ベールイ・ドームとは?
『ソビエト連邦の最高会議ビルですね。ヨシムネ様に解りやすく言うと、国会議事堂です』
さすがヒスイさん、的確な説明だ。
ふーむ、なるほど、つまりはソビエトの中心地ってことか。その中心地さん、何やら怪獣バフラにのしかかられているぞ。
そして、バフラが口から白い糸を吐き出し始めた。
糸はバフラを覆っていき、見る見るうちに繭へと変わった。
国会議事堂に繭を作る芋虫怪獣。うーん、この20世紀の特撮へのリスペクトよ。本当に27世紀人が作ったゲームなのか。
そう考えていると、また視界が暗転し、モロボシ・アンヌへの視界へと変わる。
『ソビエト連邦に宇宙怪獣が出現! 対宇宙怪獣特務隊は速やかに出動の準備をせよ!』
そんなアナウンスがなされると、身体が勝手に動き、格納庫へと駆けていく。
さて、次の秘密兵器は何を選ぶかな。まずは、怪獣の情報をチェックだ。
ふむふむ、宇宙を回遊する蚕型宇宙怪獣バフラとな。
彼らは産卵するのによい場所を求めて、惑星に降り立つと。
かつて地球に成虫状態のバフラが来襲したことがあり、地球防衛軍によって撃退されたが、今回のバフラはそのときに産み付けられた卵が孵化した可能性が高いとな。
アフターケア全然なってないな防衛軍。
「しかし、なんでベールイ・ドームを繭作る場所に選んだのかね?」
『形がしっくり来たとか?』『高くて安定している場所が、飛び立つのにいいとか』『それだ』『製作者の人そこまで考えているのかな……』
ともあれ、今は繭だが戦うことになるのはおそらく成虫だ。きっと空を飛ぶだろう。
ということは、選ぶならこちらも空を飛べる秘密兵器だな。
「うーん、円盤状のはもう乗ったから、こっちの流線形の戦闘機で行くか」
使う兵器を決め、戦闘機に乗り込む。
操縦桿を握ると、視界が暗転しBGMが発進シークエンスの曲へと切り替わる。
俺はまたもやアバターから離れ、地球防衛軍本部のある島を上空から眺めている。
その島にある山には崖があり、その崖の下にある岩肌が突如下にスライドし、四角い穴をぽっかりと開ける。その穴は人工的なトンネルとなっており、奥から流線形の戦闘機がゆっくりと前へと進んできた。トンネルは格納庫につながっていたのだ。
戦闘機は底部の車輪で舗装された道を進んでいき、やがて道の途中で停止した。
すると、戦闘機が乗った道の一部が突然動き出し地面から浮き上がり、戦闘機の機首を持ち上げるように斜めに傾斜し始めた。
傾斜する道は、さながら発射台のようであった。板状になった道に持ち上げられ、空を見上げるように斜めを向く戦闘機。
そのまま数秒静止状態が続くが、やがて戦闘機のアフターバーナーが火を噴き、戦闘機は勢いよく空に向けて飛び立った。
そこでBGMが、光の巨人が出てくる特撮でお馴染みのワンダバへと変わる。もはや様式美である。
そして視界がコックピットへと戻る。
操縦桿を握る戦闘機は、またもや俺に操縦方法を伝えてきた。
俺は調子に乗って、機体を横に回転させ、一ひねり、二ひねりと回って見せた。
「よし、良好!」
『円盤のやつより速そうやね』『見た目も格好いいし』『普通の戦闘機と同じ動きなら、円盤より自由度はなさそう』『ヨシちゃんに扱いきれるかな?』
「任せてくれ、フライトシミュ系のゲームは21世紀で結構やりこんだぞ」
円盤の動きが真横や真後ろに動くシューティングゲームの自機だとしたら、こっちの戦闘機はオーソドックスなフライトシミュレータ系の動きだな。
と、コックピットのモニターにモスクワの市街地が見えてきた。
冷戦期のソビエト連邦にこんな怪しい戦闘機がやってきて、スクランブル発進とかされないのかと思うが、そこはゲームだからと気にしないことにしよう。
その代わりに、ベールイ・ドームを覆う繭に向けて、複数の戦車が砲撃を加えている。
効いている様子はないが……どれ、俺も一発お見舞いしておこう。流線形戦闘機の装備、ビームバルカンを繭に向けて撃ち込んだ。
すると、繭は弾け、中から怪獣が飛びだしてきた!
「来た来た。おっ、綺麗な蚕の成虫だな。もふもふしている」
『虫苦手だけど、これは可愛い』『虫特有の複雑さがないからかな?』『グッドデザイン』『これ、倒す必要ある?』
「放っておけば宇宙に勝手に飛び立っていきそうだよな」
と、怪獣バフラの周囲を旋回しながら視聴者コメントに言葉を返していると、空に滞空しているバフラに戦車が砲撃を加えた。
すると、バフラが反撃とばかりに羽をはばたかせ、鱗粉が光ったかと思うと、複数のレーザーへと変わり戦車隊を襲った。
戦車はなすすべもなくレーザーに飲まれ、消滅した。
「はい、怪獣さん人類を襲いましたー。ギルティです。処刑します」
俺はそう言うと、操縦桿を操り、戦闘機の機首をバフラの方へと向けた。
『ねえ今の怪獣、正当防衛……』『いやあ過剰でしょう』『あくのうちゅうかいじゅうをやっつけろ!』『このまま空中戦かぁ。コックピットからの眺めじゃなくて、空から第三者視点で観戦したかった』
まあ、視点に関しては、VRゲームである以上仕方ないことでね?
ともあれ、戦闘はすでに始まっている。俺は狙いをつけてビームバルカンを撃ち込んでいく。
ビームは直撃し、バフラは身をくねらせてもだえ、そして羽をはばたかせて空を移動し始めた。なかなかに速い動きだ。
それから俺とバフラによるドッグファイトが始まった。
背後を取ってビームバルカン、上空を奪って対地爆弾。
的確に攻撃を加えていくが、相手も負けてはいない。
はばたき鱗粉レーザーに、口から雷撃まで放ってくる。雷撃は避けても追尾してこちらの電磁バリアを削ってくるので、背後は絶対に取られないようにしなければならない。
そうして、空中戦を繰り広げること五分あまり。
「よっし! 羽損傷! 落ちたぞ!」
ビームバルカンの連射でバフラの右羽が傷つき、バフラはモスクワのクレムリン大宮殿らしき場所に墜落した。
『チャンス!』『今です!』『いけー、ヨシちゃん!』『立派な建物ごとやれっ!』
俺は地面に機首を向け、ミサイル発射のボタンを押す。すると、機体から二本のミサイルが飛び出していく。それと同時に俺は操縦桿を操り、機首を空に向け地面との衝突を免れる。
次の瞬間、機体の背後で大爆発が起きた。
機体を旋回させバフラを確認すると、その身体は宮殿ごとバラバラになっていた。
『ミッションコンプリート』
そう音声が流れ、BGMが勝利曲へと変わり、総司令から通信が入る。
『よくやった。都市の被害は甚大だが、それは我々上の者が気にすることだ。胸を張って帰投してくれ!』
さあ、残りの怪獣は二体だ。はたしてどんな怪獣が待ち受けているのか。
俺は期待に胸を躍らせ、暗転する視界に身を任せたのだった。




