45.MARS~英傑の絆~(ロボット操作アクション)<3>
地上に飛び出し、大地に降り立つ。すると、モニター越しに見えたのは破壊しつくされた市街地だった。
「うわ、めっちゃぼろぼろやん。破壊対象は研究所だけじゃなかったのか」
『都市そのものを殲滅対象としたようです。どうやら本国は、この居住区そのものをなかったことにしたいようですね』
「なんでまたそんなことを」
『研究所の外に有機コンピュータがあった場合、AIがネットワークを通じてそちらに逃げる可能性があるからではないかと推測されます』
「まあ、電子上の存在だしな……。しかしまあ、ひでえ虐殺だ。アメリカさんはそこまでするのか」
『北アメリカ統一国は、ヨシムネ様がいた21世紀のアメリカ合衆国とは、根本的に違う国だとお考えください』
そんな会話をヒスイさんと繰り広げている間にも、俺は周囲を見渡していた。
「レーダーの類はついていないのか?」
『残念ながら実験機ですから、搭載されていません。ソウルエネルギーを使用してESPで直接感知が可能です』
ESPの使い方がARで視界に表示された。
それに従い超能力を行使すると、敵の位置がすぐさま感知できた。
「地上爆撃を行なっている飛行機械が十、遠くに巨大な空中艦が一つ!」
『飛行機械は宇宙戦用の球体戦闘機ですね。空中艦は宇宙空母です』
「!? 戦闘機が二機近づいてくるぞ!」
『確認しました。念のため、敵空母の通信をエレクトロキネシスとテレパシーで傍受してください。案内を出します』
『ヒスイさんのオペレーションがガチ』『このゲームのオペレーター、初期段階は無能なのにな』『AIと二人プレイかぁ。楽しそうだなぁ』『でも、ゲーム内蔵のオペ子を鍛えるのも楽しいよ』
「さすがヒスイさんですってな。よし、通信傍受したぞ」
視聴者のコメントを聞きながら、俺はまた新しい超能力を行使した。
すると、敵空母から敵戦闘機に向けて、おびただしい量の通信が行なわれていることが判明した。あの球体戦闘機、遠隔操作の無人機だ!
≪ヒュー、おい、研究所から重機が出てきやがったぜ≫
と、無人機を操作しているパイロットの通信を傍受することに成功した。
≪ありゃ、マーズマシーナリーじゃねえか。ははっ、火星人の野郎ども、攻撃が怖くてマーマに泣きつきやがった!≫
≪工事用の重機で何をしようっていうんだか。おっ、もう一機出てきたぞ≫
こちらにゆっくりと近づいてくる敵戦闘機。隙だらけだ。
そんな中、敵が言ったとおりに背後から、マックスの機体が飛び出してきたのが感知できた。が、それよりも今は攻撃の準備だ。
「ヒスイさん、この機体の武装は?」
『実験機のため重火器は搭載されていません。石材加工用の工具を改良した物理ブレードが一つ搭載』
「まさかのブレオン!?」
『ですが、ソウルエネルギーを消費しての超能力攻撃が可能です。サイコキネシス、エレクトロキネシス、パイロキネシス、フォトンキネシスなどが使用可能です』
ヒスイさんがそう言うと、視界に超能力攻撃の使用例がいくつかAR表示された。
なになに、指先から電撃、ブレードに炎を纏う、頭部からレーザー、手の平から衝撃波、敵パイロットへテレパシーで直接攻撃。うーん、いろいろあるな。本格的にスーパーロボットしてやがる。
≪それっ、特別にミサイルをおみまいだ!≫
しまった、先制攻撃された!
敵のミサイル攻撃は、俺ではなくマックスの機体に突き刺さる。
ミサイルは大爆発を起こし、あたりは埃と煙に包まれる。
『マックスゥ!』『ノルマ達成』『惜しい奴を死なせた……』『マーックス!』『この後おどろきの展開が!』
視聴者のみんな、ノリ軽いなぁ! こっちのテンションとの落差がひどいぞ。
やがて煙は晴れ、そこには……。
『あ、危なかったぜ……』
マックスの機体は半透明のバリアを展開しており、無傷のままたたずんでいた。
『マックスゥ!』『ちっ、無事か』『安心安全のサイコバリアでございます』『機体性能に救われたな』『バリア便利だよね』『勝手に超能力行使される感覚はぞわぞわするけどな』
へえ、バリアが守ってくれるのか。バリアさえ張っていれば、エネルギーが続く限り被弾しないと考えていいのかな、これは。
『敵戦艦の主砲などは防げませんので、一応の注意を』
おっと、ヒスイさんの助言だ。従っておこう。まあ、この場に空中戦艦はいないけれど。
≪おい、どういうことだ。壊れてねえぞ≫
敵の通信を再び傍受する。
≪ソウルエネルギーの反応を感知! あれはサイコバリアだ!≫
≪なんだと!? マーズマシーナリーがサイキックを使うってのか! 軍でも実験段階の代物だぞ!≫
「よし、マックス。敵が驚いている間に反撃だ。行けるか?」
『お、おう。行けるぜ!』
武装の選定が終わったので、マックスに話しかけ戦闘をうながす。
そして、俺は背中のスラスターを噴かして、ぼんやりと浮かんだままの敵戦闘機に突っ込んだ。
「俺は右をやる! マックスは左だ!」
『おう!』
≪こ、こいつらやる気だ!≫
≪レールキャノンで撃ち落とせ!≫
おっと残念、サイコキネシスで上の方向いていてもらうぞ。そのままサイコキネシスで敵機を固定し、その間に俺はブレードを抜く。そして敵機にブレードを突き刺すと、そこにエレクトロキネシスで内部に電流を叩き込んだ。
ブレードを抜くと、敵機はそのまま墜落していく。
『ヨシちゃんやるじゃん』『超能力使うの初めてだったんじゃないの?』『流れるような近接攻撃』『空中放電したら威力減衰するエレクトロキネシスを上手く使っていますね』『成長が楽しみだ』
ふふ、視聴者の称賛が気持ちいい。これでも、ロボゲーは21世紀にいた頃、結構やっていたから、機体の動きをイメージしやすいんだ。
≪ガッデム! やられた!≫
≪こっちもだ!≫
視界の端では、マックスの機体が頭部からレーザーを発してもう一機の敵を撃ち落としていた。やるじゃん。
『やったぜ! 行けるぞ、俺のテラ!』
そう通信越しに叫ぶマックスの声が聞こえた。
「テラ?」
『スノーフィールド博士の乗るマーズマシーナリー、スピカの開発コードネームですね』
ヒスイさんが俺の疑問に答えてくれる。
そうか、火星と地球とは、対照的な名前をつけたもんだ。
「よし、マックス。残りの戦闘機も駆逐するぞ。これ以上、市街地をやらせるな」
『おう!』
『ヨシムネ様、バンカーバスターを防ぐのもお忘れなく』
と、横からヒスイさんがそう注意を促してきた。
「忘れてた。どこから撃ってくるんだ」
『敵空母から直接発射されるようです』
「なるほど。で、あの空中空母を落とせばいいのか?」
『いえ、敵の注意を引きバンカーバスターを撃たせず、一定時間耐えきればこちらの勝利です』
ヒスイさんがそう勝利条件を掲げてくれる。
時間経過で勝利か。チュートリアルとはいえ、それでいいのか?
『あの研究所ではナノマシン研究も行なわれており、研究中のナノマシンを付近に散布する作業を現在行なっています。電気の流れを狂わせる妨害力場を発し、電子機器を停止させるナノマシンです』
「妨害力場って……」
『電気で動いているこの時代の兵器は、これによりことごとく機能を停止させるでしょう』
「そんな物を散布して、こっちも無事で済むのか?」
俺は、機体を操作して敵空母に近づきながら、そうヒスイさんに尋ねる。
ナノマシンで俺の機体も停止しました、じゃあいまいちすっきり勝った気になれない。
『マーズマシーナリーは電力ではなくソウルエネルギーを力の源としていますから、問題ありません』
「ソウルエネルギーねえ……」
『はい、魂から抽出される超能力の源です。現代でも、テレポーテーション通信に使われているエネルギーです』
なるほどなー。
『今じゃテレポーテーション通信だけ残った』『宇宙軍はAIしか軍人いないからね』『人類はソウルエネルギー抽出装置』『人がロボットに乗って戦うロマンの時代は過ぎ去った……』
ほーん。まあ、AIのみで構成されて人命を守れるなら、それはそれでいい軍隊の未来絵図だろう。今の敵の戦闘機だって、無人の遠隔操作機だったしな。
それよりも、一つ気になったことが。
「しかし、こちらのロボットだけが動く妨害力場とか、都合がいいな」
本当に歴史上に存在したナノマシンなのか?
『そうですね。しかし、こちらの電子機器が動かなくなる、諸刃の剣です。特に、AIには致命的です』
「ああ、遠隔無人操作とか、AIに操作を任せるとかができなくなるんだな。人が乗って超能力で操る必要があると。なんたら粒子的な便利ギミックだな」
古いロボットアニメで聞いたギミックだ。それとはだいぶ理論や仕組み、結果が違うが、人が乗るロボットで戦争をする必要性が作り出されているという点では一緒だ。
その類の代物が実際の歴史で使われていたというのだから、歴史にはロマンが溢れている。
そうして敵空母に近づいていくうちに、複数の球体戦闘機がそれを阻止するようにと襲撃をかけてくる。
それを俺とマックスは超能力を駆使しながら撃ち落としていく。このスラスター、性能いいな。
『核融合炉のエネルギーをそのまま推進力に変えています。電子制御ではなく超能力制御の機構ですので、妨害力場の下でも動きますよ』
「そりゃすごい」
『核融合、こんな昔から使われているんだよなぁ』『縮退炉と違って安全だしな』『ゲームでよくある燃料に誘爆とかしないのは、見栄え的に残念ですけれど』『高性能アンドロイドとか車とかに内蔵されているくらいには安全』
放射線を撒き散らす核分裂と違って、この核融合は安全ってことだな。
『サイコキネシスによる機体駆動と違って、スラスターはソウルエネルギーをほとんど消費しませんので、存分にご活用ください』
なるほど。機体を動かすのもバリアを張るのも攻撃するのも全部ソウルエネルギーだからな。消耗を抑えられるっていうなら、スラスター移動をマスターしないとな!
俺はスラスターを噴かして縦横無尽に市街地の上空を駆け、敵戦闘機を落としていった。
「どうせなら空母も落としたいな」
『居住区の上に落とさないよう注意してください』
俺のつぶやきに、ヒスイさんが注意をうながしてくる。
「そっか。でも電気妨害が発動したら、どのみち落ちないか?」
『その通りです。ですので、誘導をお願いします』
うーん、チュートリアルなのに難しい注文をしてくるな。でも、市街地には逃げ遅れた人が残っている可能性が高い。人命は可能な限り救うことで、ステージ評価を上げることにつながるだろう。いや、ステージ評価とかあるゲームなのかは知らないけれど。
「マックス、どうにかして敵空母を市街地の外に誘導するぞ!」
俺は、マックスに通信でそう呼びかける。
『任せろ! 俺はサイコキネシスが一番得意なんだ! 地の果てまで押し込んでやるよ!』
なんと。頼りになる奴だな、マックスは。
『ちなみに主人公のサンダーバード博士は、エレクトロキネシスに最も高い適性を示しています』
「サンダーバードだけにってか?」
『実際、それが異名にもなってるからなぁ』『サンダーバード・ベル!』『惑星マルスのやべー奴』『単機で宇宙戦艦沈めた逸話とかもあるぞ!』
うへえ。すごい人に乗り移っているんだな、俺。
女の子の見た目にして罰当たりだったりしない?
『うおおお!』
おっ、マックスが敵空母を動かしてる。すげえな。
俺はそれを援護するため、敵空母についている砲台をブレードで破壊していく。ブレードの耐熱性能が極めて高いとのことで、パイロキネシスでブレードを赤熱させての一撃だ。気分はヒートホークである。
『ナノマシン散布完了まであと一分』
おっと、ヒスイさんによるアナウンスが来た。
敵空母の位置は市街地からすでに外れている。どうせだから落としてみよう。俺はブレードを深く敵空母に突き刺すと、全力でエレクトロキネシスをブレードの先から放出した。
敵空母が電撃に包まれ、やがて落下が始まる。俺はブレードを引き抜き、敵空母から離脱した。
『ソウルエネルギー残り50%を切りました』
おっと、使いすぎたかな? でもまあ、これで戦いは終わりなのでかまわないだろう。
『敵性宇宙空母の沈黙を確認。ナノマシンの起動を中断します』
大きな音を立てて、敵空母は緑がちらほらと見える火星の大地に落下した。
俺達の勝利だ!
『うおお、やりやがった!』『空母落とし! ヨシちゃん豪快やね』『放っておいても落ちるから意味ないけどな!』『いや、今ので乗組員全員感電死してるから、生き残りの地上部隊の展開を未然に防げるいい判断だよ』『捕虜とかとっても負担になるだけだからなぁ』
なにやら、俺は敵空母の乗組員を虐殺してしまったらしい。まあ、墜落していたらどのみち大半が衝撃で死んでいただろうから、どっちでも一緒か。
『お疲れ様でした。帰投してください』
「よし、マックス、帰ろうか」
『ああ……実は、墜落前に敵の通信を傍受していたんだが……』
勝利したというのに、いまいち声に覇気がないマックスが、何かを言いよどむ。そして、彼は言葉を続けた。
『奴ら、軌道上の宇宙軍のステーションに、救援要請を送っていたんだ。もしかしたら、本国の宇宙軍が本格的に攻めてくるかも……』
「そのときはそのときだ! 俺達のマーズマシーナリーがあれば次も勝てるさ!」
『……ああ、そうだな。研究所のみんなもいる。来るなら、やってやるまでだ!』
そう互いに気合いを入れて、俺達は研究所へと戻った。
こうして、火星人と地球人の戦いの幕が切って落とされた。俺達は、終わりの見えない戦争に身を投じ、歴史の一ページをつづっていくのであった……。
どう、ヒスイさん。それっぽいナレーションになった?
『100点満点中50点といったところでしょうか』
『すげー微妙』『ヨシちゃん文章の才能ないよ』『今度は文豪ゲームで特訓を……』『そんなゲーム聞いたことないよ!』『でも、ヒスイさんなら、ヒスイさんなら探しだしてくれる!』
「いや、文章はさすがに配信に関係ないので、勘弁してください!」
そんな会話を視聴者達と繰り広げながら、俺は荒れ果てた市街地の上で機体を勢いよく飛ばすのであった。
悲壮な戦争が繰り広げられようとしているが、俺の心境としてはただ一つ。……ロボットゲーム、最高だな!




