EX3.どうやら私の従兄が未来にメス堕ちTS転生して人気配信者になっているらしい
今回は、感想に書かれたネタを採用してみました。
西暦2022年2月。山形県のとある家に、一人の女子高生がいた。
彼女の名前は、四葉愛衣。春から女子大生になる、農業大好きっ子である。
「最近、なんか夢見が悪いんだよねぇ……」
そんなことを言いながら、少女は茶碗に盛られた白米の上に、山形名物である〝だし〟を載せる。
ここは、農家を営んでいる瓜畑家の食卓。一家そろっての朝食だが、その瓜畑家に四葉姓の少女がいるのは、ちょっとしたお家の事情があった。
元々、瓜畑家には吉宗という跡取りがいた。だが、その跡取りはある日、瓜畑家の当主夫婦がドライブに出かけている間、家屋ごとどこかに失踪したのだ。
家屋ごとである。帰ってきた夫婦は呆然としたし、大事件に発展までした。家の跡は大きくえぐれており、警察も来たしマスコミだってやってきた。
そして結局、吉宗の行方は知れず、真相は闇の中へ。
住む家がなくなって困った瓜畑家夫婦は新たに家を建てたが、農家の仕事を継ぐ者がいなくなったのはどうにも困る。
そこに新たな跡取りとして立候補してきたのが、瓜畑家の当主である裕也の妹の次女、すなわち姪である四葉愛衣だった。
それから愛衣は自主的に瓜畑家に住み込んで農業を手伝うようになり、さらに東京の農業大学の受験に合格して、順調に農家の跡取りの道を歩んでいた。
「吉宗の霊にでも憑かれたんじゃないか」
納豆をかきまぜながら、裕也が愛衣の言葉に答える。
息子が失踪した当時は悲嘆に暮れた彼だが、今ではこうしてジョークを言える程まで気を持ち直していた。
「やだなあ、ヨシ兄さんは家ごとファンタジー世界に旅立ったんだよ。死んでいないよ」
だしが載った白米をもりもりと食べながら、愛衣が言う。
「まあ、確かにあの跡地を見るに、家ごとどこかに飛んだと言われても納得いくんだが……なんでそこでファンタジー世界なんだ?」
「こういうときはファンタジー世界に飛ぶのが定番なんだよ」
愛衣がそう言うと、今度は当主の妻である、瓜畑小百合が、味付け海苔で白米を巻きながら言った。
「『ネバーエンディング・ストーリー』とか『ナルニア国物語』みたいな展開ね」
「叔母さん、ファンタジー映画も観るんだねぇ」
瓜畑家の食卓。そこには、笑顔があった。
瓜畑吉宗の失踪から一年と二ヶ月。彼らのもとに、日常が戻りつつあった。
「ほじゃま、歯磨いたらハウス見てくるね」
ご飯とおかずを食べ終わった愛衣が、食器片手に席を立つ。
「ああ。でも愛衣ちゃん、うちの手伝いばかりしていていいのか? 合格発表からずっと学校行ってないだろ」
裕也が、納豆をご飯にかけながら、そんなことを言う。
「受験受かった受験生なんてそんなものさー」
愛衣は「ビバ! 自由登校!」とはしゃぎながら、キッチンの流し台に食器を置いた。
21世紀の瓜畑家は、こうして今日も平和な時を過ごしていた。
◆◇◆◇◆
「どうもー。21世紀おじさん少女だよー。今日は告知していた通り、ノブちゃんとグリーンウッド閣下とのコラボ配信だぞ!」
『わこつ』『わこわこ』『よきよき』『待ってた』『コラボだー!』
「はっ!?」
愛衣は、突然聞こえてきた声に目を覚ました。
先ほどまで、彼女は瓜畑家の自室で、眠りにつこうとしていたところだった。
だが、今の状況はどうだろう。自室のベッドの中ではなく、見知らぬ日本家屋の裏庭に素足で立っていた。
「どういう状況!?」
自分の周りでは、何やらコスプレをした大集団が歓声を上げている。
ファンタジー風の鎧だの、SF風のパワードスーツだの、現代風の学ランだのを各々が着こんでいる。
「統一感がなさ過ぎて風邪引きそう……」
さらには、ところどころに猫がいて、その猫がなぜか人語らしきものをしゃべっている。どうも使用している言語は外国語なのか、愛衣には聞き取れなかったのだが。
そもそも、周囲の人々がしゃべる言葉は、どれも外国語だ。日本語らしきものをしゃべっているのは……日本家屋の縁側に立つ、自分と同じ年代の銀髪の少女と、黒髪の少女の二人だけだった。
「改めて、自己紹介だ。俺は21世紀おじさん少女のヨシムネ。21世紀からやってきた元おじさんだ」
「は? 吉宗?」
愛衣は思わずそんなことを大きな声でしゃべっていた。
「ヨシ兄さん? いや、んなわけないか……というか、なんか考えたことが勝手に口に出るんですけど!」
訳の解らない状況に、愛衣は混乱していた。
しかし、先ほどから大声をあげている愛衣だが、周囲にいる人々は愛衣に注目する様子はない。人々は、愛衣を気にもとめず、知らない言語で縁側にいる四人の少女達に声援を送り続けている。
縁側にいるのは、先ほどの吉宗を名乗る銀髪の少女に、翡翠と名乗った黒髪の少女、金髪の小さな少女、茶髪の背の低い少女だ。
何やら話を聞くに、これからゲーム配信を行なっていくらしい。
「ユーチューバーの現地配信? いや、というかここどこ? 家が一軒あるだけで、周囲全部、庭なんだけど……」
不思議すぎる空間を見て、愛衣はさらに混乱する。
愛衣が周囲を確認しているうちに、縁側の少女達の話は何やら進行していた。
「本日のゲームはこちら! 『私立スサノオ学園高等部』! なんと、乙女ゲーだ!」
「わー! 乙女ゲー、ですよ、乙女ゲー! 私の、得意分野ですよ!」
「ノブちゃん、めっちゃ嬉しそうだな!」
「いつにない、はしゃぎようじゃなあ……」
『まさかヨシちゃんが乙女ゲーを配信するときが来るとは……』『コラボじゃなかったら実現しなかった』『というか三人で乙女ゲープレイってどうなるの』『アドベンチャー形式ではないとか?』
どうやら、縁側の少女達はこれから乙女ゲームを配信するらしい。
「アレは多分、英語と……フランス語かなぁ?」
語学が得意な愛衣は、小さな少女と背の低い少女が話している言語に、当たりをつけた。愛衣が知る英語とフランス語とはだいぶ違っていたが、イントネーションからその二つの言葉を話していると推測できた。
「ヒスイさん、ゲーム紹介を」
「はい、『私立スサノオ学園高等部』は、恋愛スゴロクというジャンルの乙女ゲームです。21世紀初頭の学校が舞台で、その学校はある年をさかいに男子校から共学へと変わり、女子生徒を受け入れ始めたという設定です。プレイヤーはその元男子校に入学した女子生徒となり、学校に在籍する様々な男子生徒と交流をしていきます。ただし、どう交流するかは、スゴロクのマスで決まります」
「恋愛スゴロク! もう、この時点で意味不明! しかも男と交流するとか、何も嬉しくない!」
「えー、私は、嬉しい、ですよ」
「そりゃあノブちゃんは女の子だから嬉しいだろうけど、俺は男なの!」
銀髪の少女が男を自称するのを聞いて、愛衣は思わず「バリバリの女の子ですやん」と突っ込みを入れていた。
「いや待って、もしかしたら性同一性障害かも。今時、そういうのセンシティブだからなー。危ない、危ない」
愛衣がそんなことを言っている間に、黒髪の少女が手の中にバスケットボールサイズのキューブを虚空から出現させ、それを上に掲げだした。
すると、次の瞬間、愛衣が立っていた庭が、崩壊した。
「ぎゃー!」
突然の事態に愛衣は叫ぶが、気がつくと彼女は、学校の門の前らしきところに立っていた。
その門の横には桜並木があり、満開になった桜が花びらを過剰にまき散らしていた。
「どういうこと!?」
愛衣はとっさに周囲を見回す。すると、コスプレ集団と猫が消えており、彼女の近くに四人の少女達が立っているのが見えた。
「おー、桜だな。今年はアーコロジーの外で花見なんてありかもしれないな」
「ほう、花見か。話には聞くが、やったことはないの」
「花見……! 芋煮会が、うらやましかったので、今度こそ、私も、呼ばれたいです……!」
「そういや、芋煮会の時はノブちゃんとまだ知り合っていなかったか」
芋煮会と聞いて、愛衣の山形人ソウルがピクリと反応する。
「この謎の人達、芋煮会を知っている……? 芋煮会が存在する不思議空間……?」
その後も四人の少女達はワイワイと楽しく会話していく。それを愛衣は遠巻きに眺めた。
「それじゃあ、三人モードでプレイしていくぞー。ヒスイさん、進行よろしく!」
「お任せください。では、ゲームスタートです」
『さて、どうなるか……』『ヨシちゃんは、はたして男になびくのか!』『ヨシちゃんはいつまでもピュアでいてほしい』『中身が30歳超えたおっさんでピュアはないわー』
ゲームスタートという日本語のイントネーションの言葉が聞こえたと思ったら、愛衣の視界は急に暗転する。そして、気がつくと愛衣は学校の体育館らしき場所に立っていた。
あの少女達は……隣に立っている。それも、なぜかブレザーに着替えている。愛衣は、はっとなって自分の格好を見る。だが、愛衣の格好はパジャマ。愛衣はホッと胸をなで下ろした。
「って、いやいや。この状況でパジャマって、ちょっとないんですけどー。着替えプリーズ」
愛衣がそう言うと、愛衣の格好が突然変わる。それは、自分が通う高校の制服。
「あれ……? どういうこと……? は、もしやこれって夢? 明晰夢ってやつ? あー、もう、安心したー」
やっと自分の置かれている状況に納得した愛衣は、再度ホッと胸をなで下ろした。
そして、改めて周囲の状況を確認する。体育館には制服を着た男子生徒が並んでおり、女子生徒はほとんどいない。
「なるほど、元男子校が舞台の乙女ゲームかー」
愛衣の周囲にいたコスプレ集団と猫の群れは、いつの間にか姿を消していた。
「おー、これは入学式か?」
「21世紀初頭の、学校の、入学式風景ですね……!」
「ふむ。これが21世紀の日本の学校か」
「そういえば、閣下は太陽系統一戦争前の生まれだから、学校を経験しているのか?」
「うむ。寄宿学校じゃったの」
そのように少女達がワイワイしゃべっている様子を愛衣が眺めていると、『生徒会長挨拶』とアナウンスが流れた。
すると、体育館の壇上にブレザーを着た、金髪の少年が登ってくる。
「って、舞台日本だよね? えー、生徒会長が染髪って、真面目ちゃんじゃないのか」
「って、日本の学校っぽいのに金髪碧眼かよ!」
愛衣が突っ込みを入れるのと同時に、銀髪の少女が似たような突っ込みを入れていた。
「ヨシちゃん、これ、乙女ゲーム、ですから……」
「ああ、そういうこと。21世紀の日本が舞台でも、金髪とか茶髪とか赤髪とか青髪とか銀髪とかが出てくるのか」
「そういう、ことです……」
銀髪の少女と背の低い茶髪の少女が、何やら会話しているのを愛衣は横から眺める。
「フランスちゃんの言っている言葉は多分、『乙女ゲームだから突っ込むな』かな?」
愛衣は適当に、茶髪の少女の言葉に当たりをつけた。
そして、壇上では金髪の少年が、生徒に向けてなにやら語りかけていた。入学式の生徒会長挨拶。その挨拶は、まぎれもない日本語で、愛衣にも聞き取ることができた。
「それでは、生徒諸君には、スサノオの名に相応しい益荒男を目指してほしい。と、例年なら締めるのだが、今年からは共学だ。男子にはスサノオのような益荒男を、女子にはアマテラスのような大和撫子を目指してほしい」
「うはー、何それー。前時代的じゃーん」
「時代錯誤な会長だなぁ」
愛衣が思わずそんな突っ込みを銀髪の少女と同時に入れると、生徒会長挨拶は終わり、また視界が暗転する。
そして、気づくと愛衣は、再び青空の下に移動していた。
だが、今度の風景は学校ではない。そこは、壁や建物がない広大な空間で、床には等身大のスゴロクのマス目が描かれていた。
『4月1週目!』
そんなアナウンスが流れて、愛衣の横にまた立っていた銀髪の少女の手に、なにやら一抱えほどもある菱形の立体が出現した。
「おー、これ、10面ダイスか? どでかい6面ダイスはよく21世紀のテレビで観ていたが、この大きさの10面ダイスは初めて見たぞ」
どうやら、銀髪の少女はスゴロクのダイスを手にしたようだった。
そして、そこから少女達によるスゴロクが始まった。
ダイスを振り、マスを進み、マスに止まると視界が切り替わり、学校でのイベントが開始される。
そのどれもが、美男子達との絡みであり、銀髪の少女は引きつった顔で、茶髪の少女は満面の笑みで、小さな金髪の少女は子供らしい笑顔でそれをこなしていった。
「これは……もしかして体感型ゲームをしているのかな?」
愛衣は、巨大なアミューズメントパークでスゴロクを遊んでいるのではと当たりをつけた。
だが、彼女は自らそれを否定した。
「場面転換が異次元過ぎるから、現実のスゴロクじゃないよね。あ、もしかしたらフルダイブVRゲームかも! そうだ、ここは技術が発展したSF世界で、VRゲームを遊んでいるのかも! 今日の私、さえてるなー」
愛衣は少女達の遊びに当たりをつけ、一人キャッキャと盛り上がった。
「でも、VRゲームの実況配信を夢に見るとか、ウケるなー。別に最近『ソードアート・オンライン』を観たわけじゃないのにねー」
愛衣がそんな感想を述べている間にも、スゴロクは進行していく。
最初は男に近づかれるのを「顔が近い!」と本気で嫌がっていた銀髪の少女だったが、スゴロクが進行して行くにつれ、男達にちやほやされるのをまんざらでもない表情で受け入れるようになっていた。
「というかあの銀色の子、ヨシ兄さんじゃね!?」
愛衣は先ほどから銀髪の少女の言動にデジャヴを感じていたが、とうとうデジャヴの正体に気づいた。
銀髪の少女の言葉が、明らかに行方不明になった従兄の吉宗に似ていたのだ。
「なに、ヨシ兄さん、ファンタジー世界じゃなくて、VRゲームとかあるSF世界にトリップしたわけ!? なにそれウケるー!」
愛衣は男に背後から抱きしめられて、あたふたしている銀髪の少女に指を指して、大笑いした。
「今朝ヨシ兄さんの話をしたから、夢に見たのかなー。SF世界だか未来だか知らないけど、あのヨシ兄さんがTS転生してるとか、爆笑ものなんですけど!」
それからというもの、愛衣は男とイチャつく推定吉宗を笑いながら見守った。
「TS転生して男にちやほやされてメス堕ちとか、こりゃ妊娠エンドまったなしですわ……」
夏休みを美男子達と海で過ごし、クラス一同で学園祭を乗り越え、体育祭でチアガールに扮し、クリスマスでデートをし、バレンタインではチキンにも友チョコに逃げた推定吉宗は、とうとうゴールに到達した。
それまで何かと推定吉宗に絡んでいた、俺様系イケメンとのエンディングだ。
俺様系イケメンは、推定吉宗を抱きしめ、愛の言葉をささやく。
それを愛衣は大笑いしながら眺めていたが、推定吉宗は突然、男の胸の中で暴れ出した。
「やっぱ無理!」
推定吉宗は、男のあごに見事なアッパーを決めていた。
男はよろめくが、すぐに体勢を整え、笑う。
「おもしれー女」
そんな言葉と共に、ゲームは終了した。
そして、また愛衣は日本家屋の庭へと戻っていた。周囲には、最初にいたコスプレと猫の集団が再び出現していた。
そこから縁側で四人の少女達が、また会話を交わし始める。
愛衣が理解できるのは推定吉宗と黒髪の少女の二人の言葉だけだったが、どうやら先ほどのゲームについて感想を述べているようだった。
五分ほど感想を交換しあうと、そこで今回の催し物は終わりなのか、終わりの挨拶を口にし始めた。
「以上、もう男はこりごりな、21世紀おじさん少女のヨシムネでした!」
そう言って締めると、愛衣の周囲からコスプレ集団と猫の群れが消え去る。
「あ、配信が終わったってことかな? いやー、笑った笑った」
縁側の少女達は消えておらず、キャッキャウフフと会話しながら、日本家屋の中に入っていく。
「夢はまだ覚めないのかな? それじゃ、家の中でも見ていくかな。お邪魔しまーす」
愛衣は縁側でローファーを脱ぐと、日本家屋の中に入った。そして、廊下を進んでいくと……彼女の前を塞ぐように誰かが立っていた。
それは、黒い服を着た、銀色に光る巨大な人形。その異様な姿に、愛衣はぎょっとして足を止めた。
「ふむ、ヨシムネの無意識が導いたか、君に才能があるのか……そのどちらもか」
銀色の人形は、愛衣に理解できる日本語で、そのような言葉をしゃべった。
「な、なんだぁ。今度はモンスターの登場? 脈絡のない夢だなぁ」
「もう帰りたまえ。君の未覚醒の超能力では、これ以上、深入りするとよくないことが起こる。未熟な予知夢は精神に悪影響を及ぼすからな」
「えっ、予知夢?」
「どれ、経路を閉じておこう。もうここへ来ることがないように」
「えっ?」
銀色の人形は、指が八本ある奇怪な手を愛衣の頭に向けてきた。
愛衣は恐怖に駆られ逃げようとするが、足が動かなかった。そして、叫び声をあげようとするも、口から何も言葉が出てこない。
人形の手が頭に触れると……愛衣は何か、大きな存在に包まれたような心地よさを感じた。
そして、気づく。
ああ、この人、ヨシ兄さんの無事を前に知らせてくれた人だ。
そう考えると同時に、愛衣の意識はまどろみの中に落ちていった。
◆◇◆◇◆
「なんか今日は、めっちゃ夢見がよかった」
瓜畑家の食卓で、今日も愛衣は瓜畑夫婦と一緒に朝食を取る。
今日は、だし巻き卵と焼き鮭で白米を食べている。
「あら、どんな夢を見たの?」
瓜畑家当主の妻、小百合が味噌汁の椀をテーブルに置きながら、愛衣に尋ねる。
「覚えてないけど、ヨシ兄さんが出てきた気がする」
「あらあら、本当に吉宗の霊が憑いたんじゃないの?」
小百合が愛衣の言葉に、カラカラと笑う。憑かれた、とは昨日の朝に交わした会話を引き継いでのことだ。
「やだなあ、ヨシ兄さんは未来に転生して、女の子に生まれ変わったんだよ」
「あいつはファンタジー世界に行ったから、死んでいないんじゃなかったのか?」
焼き鮭の身を皮から箸で取っていた裕也が、愛衣に言う。
「いやー、家ごと未来に飛んだけど、女の子の姿にサイボーグ化したんだよ、きっと」
「愛衣ちゃん、今度一緒に『タイムマシン』でも観ない?」
小百合が、笑顔で愛衣に向けてそんなことを言った。
「またド直球なタイトルの映画だねぇ」
そうして、瓜畑家は朝の一時を終える。
農閑期の2月でも、ハウス栽培を行なっているため休みはない。
今日も愛衣は、大好きな農業の手伝いに励む。作業の合間に、「実際、ヨシ兄さんどこ行ったんだろうなー」などと考えながら。
◆◇◆◇◆
「と、このような時空観測の結果が出たわけですがー」
ここはヨコハマ・アーコロジーの実験区にある歴史学研究所。そこで、21世紀おじさん少女の俺は、人類の統治AIであるマザー・スフィアに叱られていた。
「いやー、本気で申し訳ない。まさか無意識で超能力を使っていたとは……」
先ほどまでの光景は、この研究所の器材を使った過去視の映像である。夢の中まで追えるとか、すごい技術だ。
「ただの予知夢で済んでよかったですね……過去から本人を呼び寄せていたら大変なことになっていました」
「気をつけます……ゼバ様にも感謝しておかないといけないですね」
異星人ギルバデラルーシの元長老であるゼバ様が、俺の配信風景を愛衣ちゃんが予知夢で観ていることに気づいてくれた。
俺の従妹である愛衣ちゃんは、どうやら超能力を暴走しかけていたらしい。それも、俺の無意識による過去に干渉する超能力行使の影響を受けてだ。
危ないところだった。
「しかし、愛衣ちゃん達、元気そうだったな」
「んもー、ヨシムネさん、別にあなたに家族の様子を見せるために、この設備を使ったわけではないんですからね」
「解っていますって。本当に申し訳ないです」
俺はマザーに謝りつつ、家族の姿を見せてくれたことに、心から感謝する。
そして、マザーには申し訳ないが、俺がこっちで無事に過ごせている様子を愛衣ちゃんに見せてあげられてよかったな、などと思うのであった。




