表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!  作者: Leni
配信者と星の海

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

209/229

209.St-Knight 年間王座決定戦<1>

 宇宙暦299年12月31日、大晦日(おおみそか)

 最後のリハーサルを終えた俺は、ヒスイさんと一緒に宿泊施設の自室でくつろいでいた。

 俺はボディの内蔵端末にインストールされたモンスター育成RPGをやりこみ、ヒスイさんはその俺の様子をじっと見守っている。


 なんともゆったりとした時が流れるが、突如、部屋に来訪者を知らせるインターホンの音が鳴った。

 すぐさまヒスイさんが動いて、対応に出る。

 ヒスイさんが扉の近くで、二、三喋ると、そのままゆっくりと扉を開けた。


 扉の向こうには、マザー・スフィアと……なぜかゼバ様がいた。


「ヨシムネさーん、ちょっと出てきてくださいー」


「はいはい」


 俺はゲームをスリープさせると、ゼバ様がくぐれそうにない高さの扉を通り、部屋の外へと出る。


「どしたん?」


 俺がそう尋ねると、マザーではなくゼバ様が答えた。


「記念祭まであと数時間なので、皆を率いて会場入りしたのだ。それで、ヨシムネに挨拶をと思ってな」


「まだ結構時間あると思うけど、もう会場入りしたんだ」


 俺達だって、まだ会場の控え室には向かっていない。談話室で年越し蕎麦を楽しめる時間の余裕すらあるぞ。


「うむ。それで、少々暇でな。もしこれからの予定がないなら、暇つぶしに付き合ってくれ」


「あー、ごめん。ちょっと予定埋まっちゃっているんだ。『St-Knight』っていうゲームの年間王座決定戦の決勝戦を見にいくんだ」


「そうか。それは残念だ」


 明らかにテンションが下がった感じで、ゼバ様が言う。

 悪いことしたなぁと思っていると、マザーが横から声を投げかけてきた。


「それなら、ヨシムネさん。ゼバさんを連れて、決勝戦の観戦に向かってください」


「え、いいの?」


「いいですよー。特等席のチケットまでつけちゃいますよ!」


「マジで。そりゃ、太っ腹なことで」


 年間王座決定戦の特等席ってあれだ。公式配信に映る特別会場の座席だ。

 その特等席の競争率はすさまじく、抽選のみでのチケット販売だったはずだが、マザーは特権で当日だというのにまだ空席を確保していたってことか。


「ふむ、よく解らないが、どこに出かけるのだ?」


「ああ、とあるVR格闘ゲームの対戦を見にいくんだ」


「ほう。年間王座決定戦と言ったか。王とは、人間の群れの中で一番偉い存在を言うのだったな。つまり、そのゲームの頂点を決める戦いか」


「いや、ちょっと違うな」


 俺は、ニヤリと笑ってゼバ様の言葉を否定した。そう、これから行なわれるのは……。


「VRゲームで一番強い奴を決める戦いだ」




◆◇◆◇◆




 特別会場へと入り、指定席へと移動する。

 本来、VRゲームの試合を観戦する時は、システム側が位置情報の重複も問題なく処理してくれるので、各々が好きな席を確保できる。人がいくら同じ場所に重なろうが、上手いことやってくれるのだ。

 だが、この特別会場だけは事情が違う。リアルと同じように人が重なることはできず、チケットで指定された席に座らなければならない。

 それも全て、この特別会場が、公式の配信に流すための場所だからだ。全員が最前列にいて、後列に誰もいない風景とか映せないよな。通常会場では、各々が好きな席を自由に確保できるようになっているので、この特別会場は好き者のための場所ってことだな。


 そんな収容人数2000人の特別会場、その比較的前の方の席に、俺達は座る。

 右から順に、ヒスイさん、俺、ゼバ様、メイドさんの並びだ。


 そう、俺達三人だけでなく、もう一人観戦に付いてきた人がいる。

 見覚えのある顔だ。具体的には、芋煮会でチャンプが連れてきた道場メンバーの中にいたり、『Stella』でチャンプのそばにいたりした黒髪のメイドさんだ。そんなメイドさんの正体をヒスイさんが明かしてくれた。


「こちら、本日の出場者の一人、クルマム様の母親であるトウゴウジ・ハナガクレ様です」


「どうも、解説に呼ばれましたトウゴウジです。よろしくお願いします」


 トウゴウジさんが、頭を下げて挨拶をした。チャンプの母親か。めっちゃ若くて背が低いので、全然そうは見えない。

 しかも、チャンプの親なのにクルマ姓じゃないんだな。夫婦別姓ってやつかな。


「よろしくお願いします。確か、芋煮会の時にいらっしゃいましたよね?」


 俺がそう話を振ると、トウゴウジさんは笑顔で答える。


「その節は、大変お世話になりました」


「お若いっすねー。正直、お子様がいらっしゃるようには見えない。十代に見えますよ」


「アンチエイジングしていますから。これでも五十歳を超えています」


 この時代のアンチエイジングはすごそうだ……。


 さて、そんな合法ロリメイドさんに衝撃を受けている間にも、会場の熱気は少しずつ上がっていく。

 開始まであと五分となり、客席は満席となっていた。


「トウゴウジさんも、空手をたしなんでいるんですか?」


 待ち時間で手持ち無沙汰になったので、俺はトウゴウジさんに話題を振っていた。


「はい、リアルでもゲームでも、来馬流の空手を。元々は、薙刀(なぎなた)をやっていたのですが、クルマ家に(とつ)いでからは空手一筋です」


「はー、トウゴウジ家って、薙刀で有名な家系とかです?」


「いえ。代々の近衛の家系というだけですね」


 近衛って、ファンタジーものでよく出てくる、王様を守護する役割のことか。


「えっ、やんごとない一族の護衛役? すごくない?」


「そうですね。まあ、本当の護衛は専用のアンドロイドがやりますので、人間の近衛は儀礼的な意味合いが強いのですけど。そして、私はこのように背が低く、背を伸ばす施術も受けなかったので、近衛の役にはつきませんでした」


「でも、空手はやると」


「はい。昔から武道は好きですから」


 うーん、全然知らない世界だ。でも、元公爵のグリーンウッド閣下だって、今でもメイドとか家令を雇っているんだよな。特権階級って、この時代でもあるんだなぁ。


 などと思っていると、会場にアナウンスが入り、いよいよ開始の時間となった。

 リングアナウンサーがリングに上がり、右手のマイクを口元に当てて、叫んだ。


『ナーイト!』


 すると、観客が一斉に叫ぶ。


「ナーイト!」


 お、おうっ! 突然だったので、反応できなかった。

 なるほど、今のは『St-Knight』配信のゲーム開始時の挨拶と同じやつだ。もしかすると、これがあの作法の元ネタなのかもしれない。


 さて、いよいよ始まる年間王座決定戦。その決勝戦の対戦カードは、予想通りの組み合わせだ。元チャンピオン対現チャンピオン……すなわち、チャンプことクルマム対ミズキさんだ。


 いきなり決勝戦が始まる、ということはなく、まずは前座からだ。

 行なわれるのは、三位決定戦。選手紹介が男性アナウンサーの声でなされ、選手がそれぞれのテーマ曲と共に入場する。


 二人の選手の武器は、それぞれ長槍と双剣。『St-Knight』は武器を使っての格闘ゲームなのだ。

 武器を使うからこそ、ただの格闘ゲーム好きだけでなく、様々なMMORPGから強豪プレイヤーが集まっているのだ。


「さて、どっちが勝つかな」


「リーチが長い方が有利ではないのか?」


 異星人という正体を隠すため、身長180センチメートルほどの黒人男性のアバターに扮したゼバ様が、そんな疑問を持つ。


「いえいえ。リアルですと確かにリーチが長い方の有利ですが、ソウルコネクトゲームですと、そうとは限りません」


 トウゴウジさんが、俺の代わりにそんな説明をしてくれる。


「そうなのか。すまないな、ゲームにはうといのだ」


「あ、トウゴウジさん。こちら、ゼバ様です。惑星テラのとあるやんごとない一族の元代表者の方です」


「や、やんごとない一族ですか……それはまたすごいですね」


 俺がゼバ様の嘘のプロフィールを紹介すると、トウゴウジさんは腰が引けていた。


 宇宙暦300年記念祭はまだ開始していないので、ゼバ様の正体は秘密だ。

 トウゴウジさん一人になら、正体がばれてもどうにでもなるだろうが、ここは他の観客の会話が横から聞けてしまう特別会場。うかつな発言には、注意してもらいたい。


 そんなやりとりの最中、三位決定戦が始まった。

 試合は二ラウンド先取。先に相手の体力ゲージを削りきった方がそのラウンドを取り、次ラウンドに残り体力は持ち越さないルールだ。


 選手二人の実力は拮抗しており、激しい攻防が繰り広げられる。そして、戦いは最終ラウンドである第三ラウンドまでもつれこんだ。


「強い、強いんだけど……」


 二人は強い。でも、正直に言うと……これは前座でしかないと感じる。


「超電脳空手道場でのチャンプとミズキさんの動きと比べると、正直、見劣りするな」


「あらあら」


 俺の言葉に、嬉しそうに笑うトウゴウジさん。

 いまいちリング上の戦いに乗り切れない俺だが、ゼバ様は試合展開にいちいち驚き、全力で楽しんでいた。


「ふう、超能力を使わない武器同士の戦いが、これほど熱いものだとは思わなかったぞ」


「一応このゲーム、超能力も使えるんだけどね。今の二人は、武器のみで戦うスタイルみたいだ」


「ふむ。超能力と武器を組み合わせて戦うのか?」


「そうだね。そういう人もいるよ」


「それはまた、興味深い……」


 そうして、試合は決着がついた。勝ったのは、双剣使いの方だ。

 会場が歓声に包まれ、双剣使いは嬉しそうに右手の剣を上に突き上げた。そして、双剣使いと槍使いはリング上で互いに健闘をたたえ合い、音楽と共に退場していった。


 なるほど、リアルの格闘技と違って、全力で戦っても怪我はしないから、さわやかな終わり方になるんだな。


 そう感心して見ていると、アナウンスが入り決勝が行なわれる旨が伝えられる。

 会場のボルテージはさらに上がる。俺は、体感気温が上昇したような錯覚を覚えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] メイド服なのは趣味かな?
[良い点] 初心者さんがいきなりチャンプの試合を見ちゃうと、人間の基準が高くなってしまいそう いや、その人がおかしいだけだからっ!!
[一言] ナイトはゼバ様以外の割合温厚なギルバデラルーシには向いてなさそうな印象( ˘ω˘) …ゼバ様?戦争での英雄だからヤンチャでしょう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ