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21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!  作者: Leni
配信者と星の海

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192/229

192.ガルンガトトル・ララーシの大地に立つ

今回、著作権の切れている歌の歌詞を掲載しています。

 宇宙船を降り、宇宙ステーションに入る。宇宙ステーション内部は、ぼんやりと青く光る金属で作られており、さらに天井には照明が備え付けられていてとても明るい。


 発光する金属とか不思議でならないが、異星文明によるものなのだろうか。

 そんな疑問を浮かべながら、集団で施設内を歩いていると、今度は緑色に光る建材で作られた部屋の前に到着した。

 そこで、フローライトさんのアナウンスが入る。


『ここがテレポーター施設です。順番にお入りください』


 そう指示されたので、俺達はきちんと並んで一人ずつ施設へと入場する。

 施設の中は、がらんとした何もない箱状の広い部屋であった。


 全員が部屋に入ると、壁に映像が流れ始める。それは、先ほど宇宙船からも見えた惑星の姿。


『これが惑星ガルンガトトル・ララーシです。青い綺麗な星ですね。でも、この青さは水によるものではありません。惑星の表面をおおう結晶生物由来の色です』


 結晶生物……?

 聞き覚えのない生物だ。フローライトさんがその謎の生物について説明を始めた。


『結晶生物は、惑星テラや惑星ヘルバにおける植物に近い存在です。知性を持たず地面に根を張って繁殖する生命体ですね。ケイ素生物の一種です』


 惑星ヘルバは人類文明が発見した、太陽系外にある惑星の名前だ。

 植物が存在する、惑星テラに極めて環境が近い星らしい。我が家のガーデニングコーナーにいる動く植物レイクはそこの出身だな。先ほどヒスイさんが飲んだモッコスという飲み物も、この惑星ヘルバの植物を煎じたお茶だ。


『惑星ガルンガトトル・ララーシの大気の主成分は窒素。それと酸素と水蒸気と二酸化炭素が少々。平均気温は180℃。重力は約0.94G。熱に関する感覚を切り替えれば、アンドロイドの身体で問題なく活動可能です』


「窒素と酸素と二酸化炭素か。ケイ素系の空気は含まれていないんだな」


 俺が隣に立つヒスイさんにそう話しかけると、ヒスイさんは小声で答えた。


「ケイ素ガスである水素化ケイ素、シランは、引火性の高い極めて危険なガスです」


「そうなのか。ほら、二酸化炭素相当の空気がケイ素であるとしたら、二酸化ケイ素とか……」


「二酸化ケイ素は、いわゆる石英ですね。この気温ではガスにはなりません」


「石英かぁ……そりゃ空気になるわけないか」


 どうやら、ガルンガトトル・ララーシの大気成分は、異星っぽさが薄いらしい。惑星テラに似た星だからこそ、生命が育まれたってことかな。


 と、そんな会話をしていると、フローライトさんが再びアナウンスをした。


『当ステーションは、惑星ガルンガトトル・ララーシの先住種族ギルバデラルーシによって打ち上げられた地表観測用の建造物です。彼らはコンピュータや外燃機関の技術を持たないため、全て超能力による人力で運用されていました』


 人力の宇宙ステーション! すげえな。軌道上に打ち上げるのも、サイコキネシスを使ったんだろうか。


『そこに、我々人類文明が接触し、ステーションを改修しました。照明を取り付け、重力を発生させ、宇宙港を整備しました。ギルバデラルーシは呼吸をしないため、惑星テラと同じ成分の空気を注入しています。ゆえに、本来ならば生身の人間でも活動が可能となっております。ですが、万が一の事故を防ぐため、今回はアンドロイドにソウルインストールしたアーティストのみを招いております』


 何かが起きて、うっかり有名アーティストが死んでしまったとかになると、せっかくの記念祭にケチがついてしまうからな。さもありなん。


『ギルバデラルーシはまだAIとアンドロイドに対する理解が薄く、AIのことを自動で動く道具だと認識しています。ゆえに、AIによる歌唱は本物の歌唱ではなく楽器演奏の類だと感じるようで、今回の記念祭にAIの歌手は招かれていません。AIのアーティストは今回、演奏に専念する予定です』


 なるほど、ミドリシリーズのヤナギさんとか人気歌手なのに、出場者に選ばれていないのはそういうことか。


『それでは定刻となりましたので、地上部の人類基地へと転移します。……転移完了しました。おつかれさまでした。後はAR上の指示に従い、宿泊施設に各位で移動してください。基地内の散策は自由ですが、基地からの外出は許可が必要です。ご了承ください』


 そのアナウンスが終わると、視界に矢印が表示された。これがARでの指示か。


「じゃ、移動しようか」


「はい」


 俺はヒスイさんを伴って、転移用の部屋から出た。

 すると、視界の上部に空が見えた。時刻は夜なのか、空は暗く、星がまたたいている。


「ヨシちゃん、空すごいですよ、空!」


 そんなことを叫びながら、ノブちゃんが俺の方に駆け寄ってきた。


「おー、綺麗な空だな」


「私、アーコロジーの外に、出たことないので、夜空を見上げるのって、初めてなんです!」


「そうなんだ。確かに俺も、この時代に来てから夜空を見上げる機会ってなかったなぁ……」


「両親から聞いていたとおり、とても綺麗です……」


 ノブちゃんに釣られて顔を上に向けて空を見上げると、一面の星の海。


「知的生命体が高度な文明を築いているのに、空気は汚れていないんだなぁ。これは21世紀の田舎でも見られなかったレベルの光景だぞ」


「うふふ。あの星のどこかに、惑星テラが、あるんですかね……ロマンチックです」


 惑星テラは恒星じゃないので、見えてもそれは太陽だと思うが、無粋なので黙っておく。


「なんで宇宙船から見た光景より、ここから見える夜空の方が、素敵に、感じるのでしょうか……」


「あー、確かに、星が綺麗な気がするな」


 空を見上げながら、ノブちゃんとそんな会話をする。

 疑問が浮かんだときは、ヒスイさんの出番だ。


「大気の影響ですね。上空には温度や密度が異なる空気の層がいくつもあり、その境界で光が屈折するため、地上から見た星は光がゆらいで、またたいているように見えるのです」


「なるほどなー」


「はわー、学術的です……」


 しばらく星を眺めていた俺達だが、ふとノブちゃんが背中のギターケースを下ろし、中からギターを取りだした。

 それは、弦の張られていないエレキギターだ。フライングV。ギターケースの形状から薄々予想していたが、ノブちゃんがフライングVだと……? アコースティックギターとかの方が、似合うんじゃないかな!


「ヨシちゃんとヒスイさんに、私の修行の成果を見せます! 聞いてください、『きらきらぼし』」


 ノブちゃんがギターを構え、手を上に振り上げる。すると、光る弦が6本ギターにかかり、ノブちゃんの手に光るピックが現れた。

 エナジーマテリアルだろうか? 未来の楽器は弦もこんなんなのか。確かにエナジーマテリアルでできているなら、弦が演奏中に切れる心配がない。


「Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are」


 ノブちゃんの演奏は続き、俺はその歌声に聞き惚れる。

 エレキギターで演奏する『きらきらぼし』というインパクトにも負けない、ノブちゃんの美しい歌声。

 なるほど、吟遊詩人を一年やり遂げたのは、嘘ではなかったらしい。


「Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are...」


 やがて、歌が終わり、ノブちゃんはギターの弦を弾いて曲を締める。

 すると、いつの間にか集まっていた人間やアンドロイドの聴衆達が、一斉に拍手をした。


「あ、どうも。ありがとうございます。ありがとうございます」


 ノブちゃんはその拍手に、笑顔で手を振って答えた。

 てっきり恥ずかしがるのかと思っていたが、彼女も立派な配信者ということか。受け答えがしっかりしている。


 そうして五分ほどノブちゃんは聴衆達の相手をした後、俺達は解散することにして宿泊施設へと移動し始めた。

 宿泊施設は、廊下に扉が並ぶホテルのような場所で、俺とヒスイさんは相部屋だった。


 宿泊施設の部屋の中は、リビングに寝室、遊戯室、トイレがある。風呂場はない。ナノマシンで洗浄できる時代だから、用意されていないのだろう。

 遊戯室を確認すると、革張りのソウルコネクトチェアが二台並んでいた。


「おっ、ちゃんとあったな。これがあれば、楽器の練習もはかどるぞ」


 俺はソウルコネクトチェアを手で撫でながら、そんなことを言った。

 すると、ヒスイさんが横から半目で告げる。


「覚悟してくださいね」


 か、覚悟……?


「今回の記念祭は、一流のアーティスト達が集まる祭典です。そんな中で、素人丸出しの演奏を披露するわけにはいきません」


「お、おう……」


「ヨシノブ様は、ゲームで一年間ギターを練習してきたと言いました。グリーンウッド卿は昔ピアノを習っていたと言いました。では、素人のヨシムネ様はどれだけの期間、練習が必要でしょうか」


「ええと、時間加速して三ヶ月くらい……?」


「三ヶ月で済ますなら、練習時間をみっちり詰めこまなければなりませんね」


「うぅ、お手柔らかに……」


 久しぶりのVR修行か……震えてきやがったぜ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >宇宙船から見た光景より、ここから見える夜空の方が、素敵に、感じる 知らんかった。やはり地球の最高の空を楽しまねば! [一言] 歌だけじゃだめだったのね(;´Д`)
[一言] 弦楽器から入りアンプ、エフェクター、ミキサーとこれを機に是非ともAV機器沼にズブズブと入り込んで欲しい所ですが、未来だとそういうアナログデジタル楽器間の相互作用の楽しみがどうなってるのかが心…
[良い点] モチベか目的あればVR時間加速鍛練で道具や環境に支払うコストもなく技術習得をいくらでもできるから活力ある趣味人にはいい時代だなあ
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