031:それぞれの思惑
黄昏の月による、鮮やかな六体のグレイウルフ討伐の様子は、もちろんリアルタイム配信で会場でも流れ、会場は騒然とした。
『黄昏の月』も一応は優勝候補の一角とされていたが、実力的には『赤城サンブレイク』の足元にも及ばないと思われていた。『黄昏の月』の戦力は、川越ダンジョンで活躍の聖女様であるヒメと、小手指ヶ原ダンジョンで知名度があるアネゴの二人以外はオマケと考えられていた。
それが、魔物とのファーストコンタクトを難なくこなした実力は予想を超えるものだった。六体の魔物とコンタクトして一分も経たずに、全ての魔物を討伐してしまったのだ。
「アイさん、いったいどこであんな子を見付けたんだい。オーソドックスなダンジョンの戦闘とはかけ離れているが、自分の装備を生かした最適な戦い方を行っている。そもそも、あの武器なんて全く見たことがないんだが。しかも何丁も……」
「私も詳しいことは何も知りません。元々は、輝様が赤陵高等学校でダンジョン部を作る際に、友人の美玖様から玲様が依頼されたと聞いてます」
「それが、いつの間にか正式なパーティーを組むことになったと……なるほどなー、赤陵に進学するって聞いた時は少し心配だったけど、お嬢さんは赤陵で、いい出会いに恵まれたんだな」
その言葉を聞いたアイも、その通りと肯定したかったが、何故だかそれは癪に障ったので、肯定も否定もせず黙って聞くにとどめるのだった。
☆☆☆
赤城サンブレイクのリーダー沼田幸泰は驚愕した。いや、リーダーだけでなく、他メンバー五人も同じように感じているはずだ。
このチームを始めてみた時、川越ダンジョンをメインに活動している聖女と言われる『藍澤玲』が、買名の為に作り上げたチームだと考えていた。今回行われた『川越ダンジョンまつり』で関東内での知名度を上げ、それを足掛かりに全国へ広める足がかりにするんだと思っていたが、これは完全に見当違いだ。
全くノーマークだったこのチームのリーダーは、相当のやり手だ。しかも高校一年生とは末恐ろしい。出来るなら、サブリーダーに迎えたいほどだが、そこに納まる器じゃないだろうな。それなら、こういった場で競い合った方が、お互い高め合うことができるかもしれない。
「リーダー、なんか顔がにやけてきもいっすよ」
「う、うるさい!」
☆☆☆
『堕天使の翼』のリーダーでもある黒原は憤っていた。なぜあいつが、これほどまでに評価されているんだ。
さっきから、奴らのチームがモニターに表示されるたびに、会場が盛り上がる。そんなに大したことをしていないだろう。全く見せ場がなく、こそっと卑怯な手を使い、魔物の手が届かない遠方から倒しているだけなんだから。
くっそ! 何としてもあいつらに痛い目を見せてやりたい。
黒原は、サブリーダーの井地北奈須夫に、決勝戦での覚悟を伝える。
「井地北、決勝ではあれを仕掛けるぞ」
「まじっすか。でも、あれは俺達にも危険が伴うんでは……」
「魔物が出現する位置は抑えてるんだから、それは何とかなるだろう」
「りょ、了解っす……」
☆☆☆
ここまでの成績が、会場のモニターに掲示される。それとともに、会場内は歓声の渦に包まれた。
■鴨川キラーホエール
獲得数 獲得ポイント
魔物 3 15,000ポイント
合計ポイント 15,000ポイント
■土浦パープルライン
獲得数 獲得ポイント
魔物 5 25,000ポイント
魔石1 1 500ポイント
合計ポイント 25,500ポイント
■国立イーグルアイ
獲得数 獲得ポイント
魔物 4 20,000ポイント
魔石1 1 500ポイント
合計ポイント 20,500ポイント
■黄昏の月
獲得数 獲得ポイント
魔物 6 30,000ポイント
魔石1 3 1,500ポイント
合計ポイント 31,500ポイント
☆☆☆
グレイウルフ六体を討伐したオレ達は、そのまま通路の突き当たりを目指して進む。念のため、魔物の待ち伏せを警戒しながら進んでいるので、若干移動速度は下がると思うけど、待ち伏せにあって混乱する場合と、警戒して適切に処理をした場合、どちらが効率的かは言うまでもない。
そして通路の突き当たり付近に近づくと、再び魔物の気配に遭遇する。今度はグレイウルフ×2体とゴブリン×4体だ。
二つの種族が同時に出没するのは非常に珍しい。複数の種族との戦闘は、攻撃スピードや攻撃パターンが違うため、予想しづらく戦いづらい。だが、オレ達にしてみれば、そんな程度の振りは造作もない。
「攻撃パターンA。魔力温存、優先ターゲットはグレイウルフ!」
「「「了」」」
今回の戦闘プランを示し戦闘準備。今回の指示は、前回同様の戦闘パターンを踏襲しつつ魔力は出来る限り使用しない=ヒメは魔法の使用をしない。オレの先制攻撃後の攻撃ターゲットは、敏捷力が高いグレイウルフを優先的に狙う。という指示だ。
向かってくる魔物にオレのグレネードで先制攻撃すると、全ての魔物に攻撃は届きグレイウルフ二体とゴブリン四体は一斉にひるむ。
そこへ追撃のアネゴとミクの攻撃。
レーザーサイトを使用しての攻撃は精度が高く、二人とも正確に眉間を打ち抜き……いわゆるヘッドショットを敢行し、グレイウルフの討伐を完了させ、更に苦も無くゴブリン四体も危なげなく討伐。さらにこの討伐で【魔石+1】は三つドロップする。
「とりあえずこんなもんかな」
「この周辺には、もう魔物は存在しないと思われます」
「ぷはぁー。ヒカルっ、さすがに緊張するわね!」
「美玖っち……ミクはダンジョンガチなの初だもんね!」
ここまでは非常に順調で、少し気を抜いてリラックス状態で小休止。特にミクは未経験領域に踏み込んでいるから、消耗は激しいはず。
「アネゴとミクは小休止しながら壁側を警戒。反対側はヒカルとヒメが警戒!」
「なんか思うところがあるけど了」
「ミクっちを思ってのことだからね! 了」
警戒しながらオレも小休止。当然ヒメも同じ気持ち……だと思う。
「さすが輝様……いえヒカル。ここまでは順調ですし、計画通り予選通過は目前ですわね」
「予想以上に順調かな。順調すぎるくらいでちょっと怖いかも」
「よく言いますわ……。行動を抑えながら結果を出すこの状況は、承認欲求を満たす上で病みつきになりそうですわ」
わっ……。なんか、ヒメが秘めている性癖の扉を開けてしまわないように……。
「ヒカル? 何か良からぬことをお考えではないでしょうね?」
「カンガエテイリマセン」
ヒメ……鋭すぎだろ……。
ジト目で見られるヒメの視線が痛いので、そろそろ小休止を終了して次へと向かうか。
「ミク、アネゴ、そろそろ移動したいけど大丈夫?」
「「問題なし!」」
よし! それじゃラストダンジョンバトルに向かうぞ!




