川越ダンジョンエントリー
待ちに待った夏休みの初日。
今日は川越ダンジョンまつり登録開始の初日でもある。
ダンジョンまつり登録にはチーム名が必要とのことで、昨日、一学期終業式の後に部室でメンバー全員で緊急ミーティングを行った結果、チーム名は『黄昏の月』と命名された。
チーム名の由来は『黄金色に輝く夕暮れ時の美しい空のように、何事にも後ろめたさを感じさせないことを指針として進む』なんて感じで三人は盛り上がっていたけど、オレ的には『お天道様から隠れるように目立たずこっそり活動していこう』って感じで、オレもこのチーム名は気に入っている。
ちょっと洗練され過ぎていて、ダンジョンのパーティー名としては力強さはないけど、うちのチームは女子三人が中心なので、こんなチーム名があってもむしろ目立っていいかもしれない。
そのチーム名を引っ提げて、川越ダンジョン受付けにいざ行かん!
ということで前回の反省を踏まえて、藍澤さん家が所有する車に自宅でピックアップしてもらい、川越ダンジョンへ向かっているんだけど、今日はセカンドシート隣には何故か藍澤さんが同乗している。なんと、今日迎えに来てくれた車に、藍澤さんが同乗していたんだ。
どうやら、受付前に藍澤さんからオレに相談事があるらしい。やっぱり藍澤さんは参加拒否なんてことはないよね? そんな不安を抱えながら、車は川越ダンジョンへと進路を取る。
「天真様、まずはこちらをご覧ください」
車が進み出すと、膝上に抱えていたアタッシュケースを開ける。そこには、スポンジでかたどったクッションに、何個かのゴーグルとドローンらしきものが収納されていた。
「これはアイザワの技術部が開発中の、ドローンとその受信機になります」
藍澤さんがゴーグルを手に取りオレに渡してくるので、そのゴーグルを受け取る。
「このゴーグルを装着しても大丈夫?」
「どうぞ、お試しください」
装着すると同時に、藍澤さんはドローンを起動する。
すると、クリアで視界良好だったゴーグルには、別映像が映し出される。これは、ドローンの映像を受信して映し出されえているのか。
「お分かりになりましたか。この起動したドローンの映像が、そのゴーグルにリアルタイムで送信されております。将来的にはドローンを先行させて偵察を行えるよう、現在開発調整中のものですが、現在のところはゴーグルの無線を受信して、受信者の場所を中心に周辺情報を録画するよう設定されています」
なるほど……。イメージ的には、スマホと無線でリンクさせて、上空からその周辺を録画するような感じなのか。市販でも、そんな感じのものはあった気がするけど……。
「その表情を見る限り、天真様は少し勘違いをなされているようなので、補足させていただきます」
ざっくりと追加情報の説明に驚愕した。
このドローンのカメラは360度撮影することができ、その情報を専用ソフトで解析することで、撮影したダンジョン内を疑似的にあらゆる視点を映像で再現できるらしい。
例えば、オレや他のメンバーがダンジョンを進行する際の視点とか、魔物の動きとかが確認することが可能なので、もしダンジョン内でPKが発生した際には、その時のデータを解析すれば、犯行の状況を一部始終再現できるかもしれない。
前回川越ダンジョンでは立証できずにあいまいな結果になったけど、このツールがあれば証拠取得の可能性は激増するはずだ。いつまでも泣き寝入りはしたくないしな。
いや、そんなことよりも、ダンジョンでの行動の再確認が容易だから、成功体験、失敗体験ともあらためて確認していけば、チーム全体の成長にも大いに役立つ。
「藍澤さん、これはすごい。サイコーだよ」
「お喜びいただき恐縮です」
そう返答する藍澤さんもにこやかで、なんか癒されるー。この優雅な笑みは、やっぱりお姫様を彷彿とさせる。ヒメって命名したオレ、グッジョブ!
ドローンに感動してどう使うかを妄想していると、気が付けば川越ダンジョンに到着している。
到着すると、そこはVIP専用地下駐車場だった。
どうやら前回は早朝ということもあり、1F正面玄関に横付けしたそうで、今日は来場者が不特定なので、セキュリティー上こうなったらしい。
受付開始は十時。あと二十分ほどあるので、それまではダンジョンのアイザワ控室で待機した後、全員で受付へと赴く。
受付には、すでに十組以上のチームが列を作っていたので、その最後尾へと並ぶと、前に並んでいる同年代の男性がこちらの様子見ながら接触してくる。
「もしかして、あなたは川越の聖女、藍澤玲さんか?」
ああ、そういうことか。藍澤さん有名だもんな。特にダンジョンに入っている高校生から見たら、それは注目の的だろう。
「聖女かは存じ上げませんが、藍澤玲はわたくしでございます」
「悪い悪い、聖女って呼ばれるのはいい気はしてないようだったんか。うちらの地方でもその呼び方が定着してたんで、ついそう呼んでしまったわ。これからは改めるから勘弁してくれ。俺は赤城サンブレイクってチームのリーダーをしてる沼田だ」
「お初にお目にかかります。わたくしはトワイライトムーンという設立間もないチームに所属しております。こちらがそのリーダー天真輝様でございます」
「天真です。よろしくおねがいします」
この沼田って人は、いかにもリーダーって感じで堂々としてるな。高校二年生にてこの風格か。
いきなり藍澤さんから振られたから軽く自己紹介しちゃったけど、流れ的には問題なかったかな? こういうのにもこれから慣れていかないと、何事も経験だ。ただひとつ分かっていることは、向こうのリーダーがオレのことを観察し、値踏みしていることだけは間違いない。
だけど今日は、千堂さんも美玖もわきまえていて、オレにべったりすることなく同行しているから、ハーレムチームなんて揶揄されることはないだろう。
「天真君。君らは有名な藍澤さんが所属しているチームだ。ハーレムチームだなんて言われないよう頑張ってくれ」
はちゃー。やっぱ思われていたのか。そりゃそうだよなー。これだけ綺麗な女子三人の中にオレだもん。
「ありがとうございます。まあ、浅慮な奴らは、おまつり当日には度肝を抜かれることになるでしょう。当日は楽しみにしていてください」
「ハハハッ、言うなー。ああ、楽しみにしているよ」
何故か握手を求められたので、がっちりと握手していると前の方から沼田さんを呼ぶ声が聞こえる。
「リーダー。そろそろ順番回ってきますよ」
「それじゃ、いずれダンジョンで」
「はい、いずれダンジョンで」
そう言い残し、沼田さんはチームが並ぶ列へと小走りで戻っていった。
「ふうっ。さすがは関東ナンバーワンと言われているチームのリーダーだなー。圧倒されちゃったよ」
「そう?」
「先輩相手に、輝っちは堂々としてたよ」
いやいや、今のオレには、あの風格を出すことは絶対にムリだって。近づけることさえままならない。ただ、目標にするにはうってつけかもな。
どうやら先ほどのチームの受付が終わったらしい。会場に設置された大型モニターには、今受付が完了したチーム名が映し出されている。
チーム名は赤城山サンブレイク。リーダー名が沼田幸康か。メンバーは六名、そのうち一名が女性。このチームのことは覚えておこう。
そしていよいよオレ達チームの順番が回ってきた。
受付前まで向かうと、そこにはとんでもないことが記されていた。
『受付で記載した情報をお渡しください(部の顧問による情報以外は受け付けられません)』
何だこれ? オレはすごくアナログに考えていて、当日は会場で参加メンバーの名前を書いて提出するって考えていた。不覚っ……。
「こちらでお願いします」
えっ? アイさんが携帯端末を持って受付をしてる。どういうこと?
端末に表示されたQRコードを受付のお姉さんに読み取ってもらうと、お姉さんは備え付けのPCで何か確認を始める。
「赤陵高等学校ダンジョン部所属。チーム『トワイライトムーン』メンバー数は4名でお間違いありませんね」
「はい。間違いありません」
「イベント十日前まではメンバー変更の受付は可能です。それを過ぎますと、当日お貸しする生体認証リングの関係で受付出来ないのでお気を付けください」
「承知しました。では戻りましょうか」
えっ? ちょ、ちょ、ちょ……。
颯爽と受付を後にするアイさんとオレ以外の三人。慌ててオレも足をもつれさせながらそれに続く。
「ま、まって、どういうこと?」
「おや? 美玖様、ご説明されてなかったのでしょうか」
「あっ、そういえば……」
いったいどういうことなんだ。
「では、わたくしからご説明差し上げます。アイは、今年度から赤陵高等学校ダンジョン部の顧問を受け持っております」
全く理解できない。アイさんが顧問ってことはうちの学校の教師ってこと? 校内で一度も見かけたことないんだが。
「えらく端折ったね、玲っち。輝っちが理解に追いつかなくて、ヘタウマ落書きみたいな顔になってるよ。おもろー」
「もう! 私がフォローするわよ。輝もダンジョン部には顧問が必要ってことは知ってるわよね」
「ああ、それはもちろん」
「うちの学校のダンジョン部は、今年度から始まった政策のため、強制的にダンジョン部が設立されたんだけど、担当顧問がいなくて廃部の危機になってたんだよね。その時手を上げてくれたのがアイさん。そのおかげで廃部の危機を逃れたってわけ」
大体理解できた。オレが知らないうちに廃部の危機があり救世主まで現れていたなんて驚きだ。
「玲様が所属する部を無くす訳にはいきませんから。それに玲様からもご依頼がありましたし」
「分かりました。では、これからもよろしくお願いします。アイ先生!」
「ひゃっ」
あれ? アイさんが変な声を出して赤面してる。先生呼びが功を奏した感じ? そこまで照れるなんて思いもよらなかった。
「アイ先生?」
「ひぃ」
「アイは小さい頃から教師になることを夢見ていたので、今は幸せ過ぎて先生呼びをされると極度に緊張してしまうようです。大目に見てくださいませ」
経緯は分かった。しかし、いつもクールなアイさんのこんな表情が見れるなんて、何とも得をした気分だ。本当はこの後川越ダンジョンに入りたいところだけど、川越ダンジョンは混雑しているようなので、試したいことは神条ダンジョンに行ってやってみるかな……。
そんなことを思っていると、もっとも出会いたくない男がオレ達に接触してきた。
「おいおい、お前ダンジョン祭りに参加するのか。やめとけ、やめとけ。実力がないお前が参加したところで、命に係わる事故に巻き込まれるのが落ちだぜ」
こんなところで黒原と会うとか。どんな罰ゲームだよ。
「それって後ろからクロスボウで攻撃される、とかか?」
「はぁ? 何をっ!」
「まあ、今度またそんなことをされたとしても、次の反撃じゃあ怪我じゃすまないかもな」
「くっ!」
あらあら、こいつの挑発には腹を据えてるので、ついつい言い過ぎちゃう。ただ、黒原相手だから躊躇も後悔もない。
「と、とにかく、川越ダンジョンでお前をコテンパンにしてやって、三人共解放してやるから安心して待っていろよ。そうしたら、三人共俺のチームに迎えてやるからな」
絶句。ホント絶句しかない。コテンパンとか解放してやるとか、最後は語彙力が全くなくなってるじゃん。オレを筆頭にパーティーメンバー全員が、黒原の言動に辟易している。
捨てゼリフを吐いた黒原は、パーティーメンバーたちと共に姿を消したが、最後の最後で疲れたわー。




