最終話 無敵な脳筋美少女
あれから数日が経ち俺の気持ちも落ち着いてきた。
あやかし国際協会であるハンターに在籍する身体強化能力者を含め、ナギコ先生のような一部関係者が"上位のあやかし"であるという現実を受け止めている。
ただ、あやかしの王が能力を失ったことは、あやかし側に知れ渡っていた。
どこの区間よりも毎日のようにあやかし共が押し寄せてくるという、"迷惑行為"。
『雪璃先輩! おはようございますっ』
「おはよう? な時間じゃないけど、おはよう彩。他のみんなは?」
『そろそろ起きてくるんじゃないですかー? あやかし達がいつ来るか分からなくて、寝不足になってますからね』
あやかしの王が死んで、戦いは終わったはずなのに、前より活動的で本当に迷惑な連中だ。
上位のあやかしなんて、自由気ままに人間を襲っていたくせに、力が半減したら調子のいいことを言って昼間に暴れまわっている。
ただ、自己中心的な恨みがハンター側に向けられるのは有難い。
いまでは一般人の被害はほぼなくなっている。
『ふぁあ……雪ちゃんは朝早いねぇ。人間なのに、俺たちより頑丈じゃない?』
『俺たちも雪璃を見習わないとかもねー。眠れるときに眠れって』
『――光永さんを見習うんですか? ……考えておきます』
仲良く起きてきた三人も、もう隠す必要がないからか、素の姿をさらしていた。
ただ、南雲さんだけは人間の施設に入れなくなるから変わらない。
起きて早々に酒をあおる光の頭には二本の角が生えているし、東さんはたまに俺を氷漬けにしてくる。
南雲さんは、日本にある一番広い土地で俺に最高の景色を見せてくれると言って手の平に乗ったが、恐怖しかなかった……。
『おや? 全員お目覚めかい? 僕の施設にも慣れてきただろう』
「あっ……カイロス。身体強化能力者全員が、上位のあやかしだったことも驚いたけど……。まさか、ハンターを作ったのがお前だとは思わなくて一番驚いたぞ」
『そうかな? まぁ、僕も人間側の味方として生まれた古株だからね。人間が信仰する神になるのも悪くないかなって』
実は、あのあと施設は半壊してしまい再び行く当てがなくなった俺たちは、カイロスが暮らす施設を間借りさせてもらっている。
相変わらず含んだような言い方をする食えない男であるカイロスは、ハンターを作った"創設者"だった。
「知らず知らずのうちに、俺たち人間が生み出したあやかしに殺されて、助けられていたなんてな」
『まぁ、難しく考える必要はない。これも"世界の意思"だろう。自然災害に、魂が宿ったようなものだ』
「急にオカルト話だな……。でも、言われてみるとそうかも」
――ジリリリリリリィィィイ……
まったり話をしていると、緊急警報システムが作動して鼓膜を震わせる。
俺についてきたLapisとLazuliによって、上位のあやかしが施設周辺に現れたことが分かった。
ここは、カイロス曰く隔離されている場所らしいから基本的にあやかしに見つかることはない。
『先輩出番ですよ! 行きましょう』
「いや、お前はもう能力を失っているだろう」
『あー、そんなこと言っていいのかなー? 先輩が半年近く戦闘出来なかったって言っちゃいますよー』
誰にだよ。
ツッコミを飲み込んで、魔法使いに変身する俺は相変わらずセーラー服姿の彩に視線を向ける。
こうした日常的なあやかしの猛威に、実は"応援"も来ていた。
三つ編みを撫でながら見た目女子にしか見えないゴスロリ美少女であって、男の娘である"萌葵"。
寝起きなのか頭がボサボサのまま引きずられてきた"夜市"には、大きな耳と尻に太い尻尾がついている。
「まさか、あの甘く感じた赤い飲み物が、まんま人間の血だったとはな……。それに、夜市が狼男かぁ」
『ふぁあ……。なんや、おかしくないやろ』
『私は見た目が可愛くて高貴だから、すぐにバレちゃうと思ったんだけどなぁ』
萌葵は吸血鬼でも太陽には弱くないとかで、むしろデタラメだと豪語していた。
二人のおかげでなんとかローテーションが組めている。
急いで現場に向かう俺たちの前に、なぜか一般人の姿があり、気分屋のあやかしに襲われていた。
危害を加えられる前に俺は魔法を放つ。
被害者に当たらないよう針のような細かな氷の矢があやかしの背に当たった。
その隙をついて力を失った彩が飛び出して駆け寄っていく。
「おい!? 彩は戦えないだろうっ!」
他のみんながあやかしの気を引く間、二人のもとへ走った。
すると、彩はうずくまる被害者に手を差し伸べる。
『ねぇ、"アナタ"も一緒にあやかしを葬らない?』
「彩? 何を言っているんだ?」
『先輩みたいな、将来のヒーロー育成計画ですよー』
あやかしの王を殺したことによって、本当に新たなあやかしの報告は聞かなくなった。
だけど、こんな風に上位のあやかしが攻めてきたり、中位以下のあやかしを完全に葬るためハンターとしての仕事は当分なくならないだろう。
彩は力を失ったけど、前王の加護によって無敵の身体を武器に、毎回俺についてきた。
被害者を施設にいるハンターに任せて油断していたとき、後方から別のあやかしが鋭い刃を振るってくる。
『先輩、危ない!』
「えっ? うおっ!」
あやかしの刃が喉元に届きそうになったところで気がついた俺は、彩の無敵な肉体に守られた。
『もー。雪璃先輩は、"美少女"の私がいないと殺されそうなので! 死が二人を分かつまで、この私が守ってあげますね?』
「美少女は関係ないんじゃないか? でも、いまも力を失った彩に守られてるしな」
『フッフッフ。私は、元! あやかしの王ですからねー。大船に乗ったつもりで頼ってくれて良いですよ!』
彩との変わらないやり取りに胸が弾む。
俺の第二の心臓である"魔力器官"も軽快に踊っている気がした。
背後にも頼りになる仲間が七人いるし。
いまが一番充実している俺は、彩に守られながら、あやかしの胸に風穴を空けた。
最後までお読みいただき有難うございます!
これにて、この物語は完結となります。
今回で10万文字↑の長編完結は2作品目となります。
少しでも面白いと感じていただけたら幸いです。
この作品やキャラクターのファンが増えたら嬉しいなと願っています。
次回作は、来年を予定していますが、今後の作品(残念ながら非恋愛で、キャラクター、物語重視です!)も追いかけていただけますと嬉しいです。
引き続き宜しく願いします。




