第28話 後輩でセーラー服の美少女
外に出る前に他のニ人とも合流した俺たちは、施設から少し離れた路地裏にたどり着いた。
すぐに上位のあやかしニ人と戦う彩の姿が視界に入る。
上位のあやかしは俺たちを横目で見るや、急に大声で叫び始めた。
『前王にも肝が冷やされたが、今回はさらに悪いときた!』
『あやかしの時代を終わらせようなどと考えに至る王は、殺すしかない……悲しい噺です』
「えっ……? なんの話をしているんだ」
混乱する俺の前後にLapisとLazuliが囲むように立つ。少し離れた場所で黙る南雲さんたちと、空中に舞い上がった彩が跳び下りてきた。
《雪璃様のバイタルの異常を察知しました。並びに、柏野彩の全体的数値の上昇を感知》
《この状態が、味方なのか不明のため、危険分子に加えます。及び、他三体のバイタルも上昇。判断予測不明により戦闘態勢を取ります》
「えっ……? Lapis、Lazuli……それは、どういう意味だ?」
下を向いて表情が読めない彩に加えて、無言の三人に視線を向ける。
LapisとLazuliは、魔法使いである俺に、絶対的な忠誠があると言っていた。そんな双子が、彩だけじゃなく、南雲さんたちまでも敵視している。
混乱を狙ったように上位のあやかしが一人、鋭く伸びた尻尾のような全身刃物を俺に向けて振りかぶってきた。
すかさずLapisが応戦して、腕が変形する。その形状は、あやかしと同じ刃物のように光っていた。
だが、伸ばされた尻尾のような刃物には、トカゲの尻尾切りのように外れてLapisの間をくぐり抜け地面をえぐり反転する。
そのまま、俺の首を狙って跳ね上がった瞬間、光の足蹴りによって吹っ飛び、建物の壁に刺さった。
『――そんな小細工。俺には通用しないんだよねぇ……。それと、俺たち"アヤ様"に忠誠を誓ってるから、雪ちゃんの味方だよぉ? 騙して、ごめんね』
「へっ……? それって、どういう……"彩様"?」
《――西条光、並びに他ニ体の敵意を感じません。味方と判断して、敵対数――三体に更新します》
頭が混乱して、光の言葉も、Lazuliの言葉も理解できない。
ただ、上位のあやかしに狙われているのだけは分かる。
自然と魔法使いの戦装束に変身した俺は、漆黒に裏地が茶色をしたローブをまとった。
『うーん……これは、"アヤ様"が雪璃に暴露するために、俺たちを呼びだしたって解釈でいいわけねー?』
『……急な展開で、少々ついていけない部分もありますが、"アヤ様"が望んだことでしたら、私はそれに従います』
「南雲さん……? それに、東さんまで……。えっ? 俺の周りには人間がいなかったのか……?」
巨人のようにギリギリまで巨大化する南雲さんに目を見開く。
まさか、あの足や手が変化していたのは、身体強化能力者の能力じゃなくて、あやかしの能力だったのか?
トレードマークだった眼鏡を放り投げる東さんの周りも空気が寒く感じると、周囲が凍り付いている。
『ごめんなさい……。雪璃先輩。実は、私……"あやかしの王"、やってるんです』
「なっ……嘘、だろう……?」
『あやかしの王を殺すより、混乱に乗じて魔法使いを殺った方が楽だと思ったのに。そう上手くはいかないかー』
尻尾が元に戻ったようにくっついているあやかしが頭を掻きながら何かを言っていた。
ただ、俺の耳には彩の言葉しか聞こえなくて、走馬灯のように半年ほどの思い出があふれて積み上げた石が崩れるように身体が揺れる。
何かが俺の肩に触れて横を見ると、いつの間にか双子のすき間を抜けてきた光がいた。
ただ、双子は光を敵対者と認識していないため、気にしていない。
俺が気にしたのは、明るいオレンジに近い茶髪の両サイドに伸びるニ本の赤い角。
腰には古めかしいスキットルが覗くシザーバッグが見える。
『雪ちゃん、大丈夫? って、大丈夫じゃないよねぇ。あっ、コレ気になる? それともこっち?』
「いや……もう、なんだか分からないけど……鬼? で、酒?」
『うん、そう。酒を飲むと強くなるんだよねぇ。雪ちゃんと一緒じゃないときは、いつもこのスタイルかなぁ』
普段と変わらない口調でだらしのない笑顔を向ける光に拍子抜けした。
《――柏野彩のバイタルチェック……あふれる数値が、"雪璃様への好意"だと判断しましたので、危険分子でないと判断します》
「えっ……。LapisとLazuliも、冷静に分析したことを口にしないでくれ……」
『ちょっ……!? やめてください。先輩に対しての好意は、その……後輩としてですから! 人間たちが持つ、恋愛感情では一切ありませんから!』
否定するだけ肯定に聞こえる彩の声に、俺は思わず笑ってしまう。
――彩は、俺の好きな女性になんら変わりはない。
いつもと変わらない彼女に、俺は上位のあやかしニ人を睨みつける。
「もう、御託はいい。俺の心は決まった! お前たちを葬ることが先決だってな」
『そうですか。人間の希望である魔法使いなのに、周りにいる上位のあやかしは放置すると……"今回も"、人間は救われなさそうで安心しました』
「あやかしの言葉は聞かない! 頼れる後輩が、そう言っていたからな」
横目で見る彼女が一瞬だけ、目尻を熱くしているのが分かった。
俺は片手を地面につくと、戦闘態勢に入るもう一人のあやかしに向けて大地をせり上げる。
器用に後方へ避ける姿に、背後からドリルのようにせり上げた硬い土で胸に風穴を空けた。
『ハッ……後悔しても、知らな――』
『……先輩が覚悟を決めてくれたのなら、私も仕事をします!』
『さっきまで、俺たちを殺せなかった弱いあやかしの王が、よく吠える』
一人が砂になって消えても気にする素振りもない上位のあやかしは、人間のような感情がない本来の姿を物語っている。
俺から標的を彩に変える尻尾の生えたあやかしは、その刃を空中で振り回して喉元に伸ばした。
ノコギリのような得物は、彩に届く前に細腕によって真っ二つに折られ、吹き飛んだ一つは地面に刺さる。
その直後、視界から消える彩はあやかしの背後に立っていた。
気配を察知して振り返るあやかしより先に、彩の腕が胸を突き抜けると、手には脈打つ宝石のような輝きが見える。
『……最強の、王だと……訂正する――』
手の平が握りしめられ、ガラスのように粉々に砕ける心臓によってあやかしの姿は砂になって風に運ばれていった。
同族? に殺されたのにも関わらず、晴れやかな表情もあやかしなのだと思い知らされた。
ただ、他の三人とは違って、彩の姿に人間と違う部位は見えない。
「彩……」
飛び散った青い血に濡れた顔と、セーラー服に視線を向ける。
あやかしの血で戦装束であるセーラー服が汚れることに反応していた彩はもういなかった。
ゆっくりと歩み寄って来る彩は笑顔を向けてくる。
『雪璃先輩。すべてを、お話するので……場所を変えましょうか?』
《雪璃様にとって、最適で安全な場所は、施設と判断します。そこ以外は、認められません》
「分かった……それじゃあ、みんな施設に戻るってことでいいか?」
妹のLazuliが導き出した答えを採用した俺の言葉に全員がうなづいた。
元々施設に帰る予定だったのか、先頭を歩きだす彩は、再会したときよりも生き生きした表情で鼻歌を歌っている。
だけど、俺の足は錘が鎖で巻き付いているように重く、胸には「あやかしの王を殺す」という言葉が深く突き刺さっていた。
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