第27話 プライベート 〜柏野彩〜
これ以降は8:00過ぎ〜固定で投稿しますので、宜しくお願いします。
深夜から出かけて、ようやく施設に戻ってきたら……。
一番会いたくない相手に会ってしまう。
呼びかけられて思わず走って逃げてしまった私は、なんて臆病者なんだと笑っちゃった。だけど、身体強化能力者じゃない先輩の足じゃ追いつけないから……私は、またひとりぼっち。
すぐに施設を出た私は、空腹で鳴るお腹をさすりながら、路地裏を歩いている。ちょうど昼食時だからか、大通りが見える建物の隙間から歩く姿や、声が聞こえてきた。
「――いいなぁ。魔法使いとして、覚醒する前の先輩と一緒だったときが……一番、楽しかった」
初めて、あの路地裏で出会ったのは本当に偶然で。ひと目見て、分かった。
奇跡的な運命の出会い。逃さないように、見た目で後輩キャラを演じてみたら、思いのほか上手くいって驚く。
実は、あの資料庫で前代あやかしの王については知っていて嘘をついた。
人間と恋に堕ちるあやかしの王なんて、笑える……。どうして、前の魔法使いは殺さなかったのかって。
殺していたら、苦しむ人間も、身体強化能力者も生まれなかったのに……。
「あやかしなんて、つくづく分からない存在。人間が生み出した、かつお節みたいな感じ?」
魔法使いを見つけたら、私が全身全霊をかけて育ててあやかしの王を殺せる人間の希望にしてみせると思っていた。
私は先輩を一人の人間じゃなくて、魔法使いの卵としか見てなかったって。
私のミスで、先輩が初めて死にかけて怖いと思った。
最初は、魔法使いを失う恐怖かと思ったけど。一緒に過ごして、温泉旅館の中庭で話をしたときに雪璃先輩を失うのが怖いと感じていた。
魔法使いとして覚醒して本当に高揚する私と、同時に胸が締め付けられるような戸惑いが生まれる。
それでも、まだ死んでしまうかもしれないから、たくさんのあやかしを葬らせた。先輩は優しいから、戦いを嫌がっていたけど……。
「クリスマスイブに出会って、夏の終わりにお別れ……。初めての浴衣デート……楽しかったなぁ」
私は、先輩が大好きだったけど、他のみんなに思う感情と同じだと思ってた。
考えごとをしていた私は、真っ直ぐ歩いていたことで路地裏の終点に差し掛かる。つまり、行き止まりだ。
踵を返して、振り返った私は集中力がかけていたみたい。
「――中位のあやかしに背後を取られるなんて。私も舐められたものだね」
言葉を知らない中位のあやかしに向かって私は、地面を蹴って上空に舞い上がる。反転したまま、背後に回るとあやかしが反応する前に心臓に左手を突き刺した。
いつものように砂のように消えていくあやかしを見て、自分の胸に手を当てる。
「人間は、砂になんてならないよね……」
中位のあやかしも人間に近い形をしていた。きっと、この現場を見られたら私は警察に捕まる。
不意に誘われるようにぽっかり空いた細道を見つけた。
「私の身体なら、辛うじて入りそう」
建物の間をすり抜けるようにゴールにたどり着いた私の前には、花畑が広がっている。
この間読んだ小説の異世界にでも来てしまったかのような光景に目を細めた。色とりどりの秋を告げる花に、不釣り合いの看板が目に入る。
「えっと……『迷い人へ向けて』? 管理人……カイロス。なんで、カイロスが!? でも、あの目は全部お見通しだもんね。先輩も連れてきたいなー」
あやかしの中では、最高齢ともいわれているハンターの仲間で、上位のあやかしでもあるカイロス。何を考えているか一切分からないし、協力的な理由も不明。
ただ、争う姿勢のない時間を操る化け物。実は、カイロスがいる施設は空間ごと隔離しているらしい。
私たちがいた元施設とは、回路を繋いでいるとかで行くことが出来た。だから、時間軸が違うとか……よく分からない話をしてくる。
「たまには、いいこともするんだね」
カイロスの作った花畑と知った私は大胆に、大の字で寝そべった。
視界に映る青空に思わず手を伸ばす。秋が近いことで心地いい風が頬を撫でて気持ちがいい。
私が戦装束に選んだ桜色のセーラー服は、大昔に私を助けてくれた人が、桜を好きだったから。
◆ ◇ ◆
「――――でさえ、人間を殺したことはある。小さくても――――なら、殺してみせてください」
まだ小学生の低学年だった頃。ある理由で、見ず知らずの人間を殺すように言われた私は頭が真っ白くなる。
寒い冬で、22時に住宅街で人間の帰りを待っていた。
白い息を吐きだして、背後からの足音に気がついたときには、知らない子供に手を引かれ家の中に押し込まれて驚いた。
「22時はあやかしの時間だから出歩いちゃダメだよ!」
「えっ……?」
今でも覚えている言葉。
こんな弱い人間の子供に反応出来なかった自分を心の中で笑う。同時に殺そうと殺意を向けた。
だけど、子供はまったく気がつかず、あろうことか手を引っ張ったまま自分の部屋に招き入れてくるお人好し。
「危ないから、朝まで一緒にいよう?」
モヤモヤと同時に熱いモノがあふれてきて、子供に頬を触られて気がついた。
「泣かないで? 怖かったよね。大丈夫だよ? 僕がそばにいてあげる」
私は子供の部屋にあった小さな姿見に映る自分を見て、泣いていたのだと気づくと号泣してしまう。
子供は小さな身体で、ぎゅっと抱きしめてくれて朝まで一緒にベッドの中で過ごした。
家の中に入るつもりはなくて、招かれてしまったのなら仕方ないと、毎日のように会いに行って、その子が不幸に見舞われないように過ごす日々。
私は、能力のせいか成長が遅くて彼に正体を突き止められる前にあるモノを渡して立ち去った。
「まさか、先輩が瓜二つで驚いたなー……これも、また運命だったのかな? ただ、あの"お守り"は持ってなかったみたいだけど」
あやかしの中には人間を幸せにするモノもいる。家や、特定の人間を気に入って幸せを振りまく妖精のような存在。
ただ、そのあやかしが家や人間から離れると、不幸が訪れる。
それを回避するために、分け身を渡したりするって書いてあった。
私の気持ちは、貴方から離れていないことを示すために。
「よしっ! 前から気持ちは決まっていたんだから。先輩は、無理だって……」
魔法使いも男性だけじゃない。歴史上、女性の魔法使いもいた。
私は背中に力を込めて勢い良く立ち上がる。
おかげで気分が良くなった私は、施設に戻るため細道から元の道に出た瞬間。目の前にいるモノと、嫌な妖気に眉を寄せた。
「――こんなときに、上位のあやかしがニ体? いま、凄くいい気分なんだけど。手加減なしで、すぐに葬ってあげる」
両手を前に突き出して戦闘態勢に入る私の耳に、あやかしの声が届く。
『へえ……そんなこと言ってもいいんだ? オレたち、君の正体知ってるんだけど』
『はい……我らが"あやかしの王。アヤ様"――』
嘘……。
――そうだ。
ずっと"知られる前に殺してきた"のに、あやかしと会話をしてる!
先輩には、あやかしの話を聞くなと言ってきたのに……。
『アハッ!……ははっ……ハァ――』
私は絶望して狂ったように笑う。同時に、緊急警報のスイッチを押した。
幸せだった日々に終わりを告げるように、歯を食いしばって上位のあやかしに向かって走り出す。
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