第26話 すれ違い始める想い
あれからは大したこともなく、普段と変わらない彩は俺にハンターのことや、身体強化能力者の詳細、あやかしについて色々と教えてくる。
なんだか生き急いでいるように思えて不安に思いながらも、たまの任務に魔法使いの能力を使って中位のあやかしなら一人でも倒せるようになってきていた。
「さすが、雪璃先輩です! 魔法使いとしての能力も使いこなせるようになってきたんじゃないですか?」
「うーん……そうだな? 最初と比べたら、変身にも慣れてきたし……。ただ、使う魔法を変える度に変身を切り替えなきゃなのがな……」
「仕方ないですよー。それだけ効果抜群なんですから! もしかしたら、上位のあやかしも一人で倒せるようになっているかもしれませんよ」
試してみようといわれて、そんなに上位のあやかしがいるわけもなく。
いても困るけど……。
数日が経ったある日。上位のあやかしに襲われて、反撃したらあっさり倒してしまうという。
『あ……あっ……。人間の、希望…………王……』
「コイツも何か言おうとしてたな……戦闘中は、無言だったけど」
「あやかしの言葉は聞いちゃ駄目ですよー。それよりも、雪璃先輩、おめでとうございます! これで後輩の私から無事、卒業ですね?」
普段と変わらない笑顔で『卒業』と口にする姿に、胸の奥が針で刺されたようにチクッと痛んだ気がした。
そして、俺の嫌な予感は的中する。
昼夜逆転している俺は、昼に目を覚ましてから施設内を歩き回って彩を探していた。
「あっ、東さん。彩見なかった?」
「えっ……班長ですか? 班長なら……夜中に任務で出かけたきり、まだ見ていません」
「そっか……大丈夫ならいいんだけど」
通りかかった東さんに声をかけるが、彩を防犯カメラで追いかけている彼女でさえ夜中から見ていないらしい。
俺が、魔法使いとして覚醒して、一人でも上位のあやかしを倒せるようになってから別行動が増えた。
彩は俺が知らない間に外へ出ていて、会う前のように一人で任務をこなしている。
彩を崇拝している東さんからしても異常事態なはずなのに、平然としているのが不思議で仕方ない。
俺は、施設の出入口まで歩いていく。
すると、どこから現れたのか、いつの間に呼んでもいない双子が背後を歩いていた。
「LapisにLazuli……。お前らって、本当に忍者みたいだよな。ハイテクAIアンドロイド? だけど」
《――戦闘兵器です。雪璃様は、柏野彩を探しているのですか?》
後ろから妹のLazuliが聞いてくる。本当に、声質で判断しないと分からないくらい瓜二つだ。
「ああ……。夜中に出かけたっきり帰ってないらしくて」
LapisとLazuliは、俺以外の人間をすべてフルネームで呼び捨てしている。どうしてフルネームなのかは不明だ。
聞いたら答えてくれそうだけど、まぁいいかで済ませている。
俺のことを名前で様付けなのは、そう呼んでほしいと言ったから。
最初は、魔法使い様で。次にフルネームで様付けされた。
《柏野彩は、任務を終えると、お風呂に入り就寝しています。朝も早く、睡眠時間は3時間から5時間と推測します》
兄のLapisは、施設内のことなら把握しているようで、最近の彩について教えてくれる。
規則正しいとはいえない生活習慣に眉を寄せた。
出入口に来ても、誰ひとりいない開けた扉から見えるのは、シーンと静まりかえった広場だけ。
「もしかして、班長探してる? 東ちゃんと同じで、俺も昨日の深夜から見てなくて心配してるんだよねぇ……」
「光も見てないのか……。あいつ、ちゃんと飯食ってるのかな」
「どうだろうねぇ……。なんていうか。雪ちゃんが巣立ったことで、昔の班長に戻っちゃったようにも感じててさ」
眉を寄せる光が横まで歩いてくると、双子も道を開ける。東さんは冷静を装っているだけだと分かって少し安心した。
その場にあぐらをかいてしゃがみ込む光に視線だけ向けて、肩を落とす。
「前に、昔の彩は全然笑わないし、任務だけに全力で、聞く限りじゃ冷たそうな印象だったけど……どうなんだ?」
「そうだねぇ。前に言ったことと変わらないかな。ただ、昔から優しい人だったけどねぇ……」
「そっか……。冬の終わりに出会って、夏の終わりが近づく少し前までずっと一緒だったからさ……少し、寂しいな」
魔法使いとして成長出来たことは、自分も嬉しい。これで、彩の役に立てるし、重荷を少しでも減らせると思ったから。
おもむろに立ちあがる光に左から肩を抱かれるが、傷心中の俺は振り解くことはせず彩を思い浮かべる。
「こんなことしたら、速攻で彩にボコボコにされていたのにな……」
「いやぁ……哀愁漂わせながら、俺のフルボッコシーンを懐かしまないでくれない?」
《――雪璃様の精神に多少の揺らぎを感じるため、西条光の行為は認められないと判断します》
彩の代わりに、兄のLapisに腕を締め上げられて叫ぶ光を、俺は冷めた目で眺めた。
昼食の時間になって食堂に向かう途中で妹のLazuliが何かに気がついた様子で、背後に視線を投げる。
《――雪璃様。柏野彩です》
「えっ? 彩……っ!」
「ひゃうっ!? せ、先輩……。ごめんなさい! 忙しいのでっ」
逃げるように走り去る彩に思わず手を伸ばすが、距離的に届くはずもなく空を切る。
追いかけても魔法使いの俺が身体強化能力者である彩に追いつけるはずもなく、その場でしゃがみ込んだ。
「……明らかに避けられてるよな」
《柏野彩のバイタリティからして、嫌悪感に似た数値を観測しました。本人の意思で雪璃様を避けています》
「うっ……そこまで正確に言われると、胸にくるんだけど……」
謝罪を口にするLazuliに対して、うなだれる背中に何かが触れて振り返る。
顔を上げる俺に、眉を寄せる南雲さんが視界に入った。
「あー……なんだ。乙女心は分からないからな……。確実に言えることは、雪璃のせいじゃないってことだ」
「南雲さん……。俺は彩のおかげで命を救われて、あいつが望むから此処まで頑張ってこられた」
慰めるような大きな手と言葉に目を細める。
スッと立ち上がった俺は、自分の気持ちを吐き出した。
光とは違って南雲さんは全面的に話を聞いてくれる姿勢らしく小さく頷いてくれる。
「あいつ言っていたんです。みんなも、最初は自分が守っていたって。なら、彩は誰かに守られていたのかって聞いたら、最初から強かったからって……」
入ろうとしていた食堂に視線を向けるが、閑散としていてシェフが一人で食事の準備をしていた。
「だから、俺が彩の求める魔法使いなら、今度は俺が守ってやるって言えるように、力が欲しかっただけなのに……」
「うん……。魔法使いとして覚醒した雪璃は、凄い速さで成長して今じゃ俺たちを遥かに上回る存在になった。俺たちも誇らしいし、おかげでお兄さんも仕事が減って日常が戻ってきた気分が味わえてるよ」
「そう言われると、嬉しいです……。みんなは、変わらず接してくれるのに、彩だけは遠くに行っちゃったみたいで」
俺から逃げていったあと、どこに向かったのか色々と考える中で不意に胸が熱くなる。
彩のいない非日常は、俺にとっても昔に戻ったような感覚で、ただ日常には戻れないけど。
「そうだ……。彩とニ人で行動していた日々は、とても充実していて温かかった。怖い経験も沢山したけど……俺、いまではあいつのこと、一人の女性として見てます」
「そっかー。青春って、若いときの特権って感じがして良いよね? 男なら、諦めちゃ駄目なんじゃないかなー?」
「Lapis、Lazuli! いま彩が施設内のどこにいるか、分かるか?」
LapisとLazuliが施設内を調べ始めた直後だった。
耳を刺すような緊急警報が鳴り響く。
つまり、どこかで上位のあやかしが現れたということだ。
だけど、30分以内の間なら俺たちは全員、施設内にいたはず。
《――柏野彩を調べましたが、10分前に施設から出ています》
《加えて、ただいまの緊急警報システムを起動させたのは、柏野彩です》
「えっ……? 彩が? どういうことだ……」
頭が真っ白になって混乱する俺とは裏腹に、双子から居場所を聞き出す南雲さんに両手で肩を掴まれた。
言葉を交わすことなく頭がハッキリすると、強く頷いて外に向かって走り出す。
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