第25話 プライベート 〜南雲一仁〜
みんなで魔法使いについての資料の捜索をした日から、ニ人の様子がおかしい。
魔法使いとして覚醒した彼のおかげで、"お兄さん"も休みが増えて本当に大助かりしているんだけど……。若い子たちには、青春を謳歌してほしい。
だけど、今日も休みをもらって自室の整理整頓に勤しんでいた。
「いやー……若者の成長は早いねー。お兄さん、捨てられたりしないかな?」
誰もいない部屋で独り言を呟く俺は、痛い大人代表だと言われるかもしれない。
ただ、整理整頓って一人だから暇なんだよね。
こうみえて話好きなお兄さんは、班長含めて他の班員とコミュニケーションを取るのが好きだ。
実は班長とは一番長い付き合いだったりする。
残業で帰りが遅くなってあやかしに襲われたところを、まさか小学生に助けられるとは思わなくて、驚いたのがいまでも懐かしい――。
バカ上司のせいで22時を過ぎた夜、初めてあやかしに襲われる。
路上で倒れた俺に、ナイフのようなあやかしの腕が、胴体を真っ二つにしようと横に振り切られたとき、颯爽と彼女は現れた。
「おじさん、大丈夫? 怪我、してない? おじさん、身体強化能力者の中では特殊な形みたい。わたしみたいなものかな?」
諦めて両目をつぶった俺の前にいたのは、砂になって消えていくあやかしの上に乗った可愛らしい女の子だった班長。
俺は、数年前に身体強化能力者として覚醒していたのにも関わらず、協会を拒んだ異端者だった。
俺は命を救ってくれた少女に伸ばされた手を掴む。少女は見ず知らずの俺に理想を語ってくれた。
「あやかしの王を、――殺せる魔法使いを育てたい」と……。
そのとき俺は、彼女に恩返しをしたくて、一度蹴った協会に入ることを決めた。
「そんなあの子も、いまでは好きな男が出来て、明るくなった女子高生だもんなー。人生分からないわ」
一度諦めて死を受け入れた俺は、生かされた班長のために第二の人生を歩んでいる。
班長が思い描く理想に一歩近づいた魔法使いの彼も、順調に成長していた。
きっと、彼女が望んだ姿になってあやかしの世界を終わらせてくれるはず。
俺は身体強化能力者として協会で働いているが、世間体では社会人という形になっていた。
まぁ、今年で30を迎えたお兄さんだから当然ではある。
備え付けの時計を見ると、そろそろ昼食の時間らしい。
元々そんなに汚くはない部屋だったから、模様替えみたいな整理整頓を終わらせ部屋を出る。
「うーん……せっかくだし、雪璃でも誘って食堂で食べようかねー」
確か、彼も今日は休みだったはずだ。
斜め向かいの部屋の扉を叩いて待っていたら鍵が開く音に一歩下がる。
ボサボサ頭に眠そうな雪璃の様子に思わず笑ってしまった。
それに対しては不満を露わにする表情に謝罪する。
「寝てたところ、ごめんねー。そろそろ昼食だけど、もし良かったら……お兄さんが奢ってあげるから一緒に食べない?」
「いえ。寝てたのは、寝てたんですけど……。ちょっと待って下さい。すぐ準備してくるんで」
バタンと閉まる扉の前で待つ間、中から大きい音がしたけど大人の俺は気付かないふりをした。
本当に素直で良い子なんだよねー。
多分、服を着替えようとしてクローゼットをひっくり返した気がする。
お詫びにお兄さんが、あとで部屋の片付けを手伝ってあげようかな。
「すみません、お待たせしました……」
「いいよー。女子の方が時間かかるからねー。それじゃあ、今日は何食べたい? お兄さんは、ガッツリ肉かなー」
「うーん……俺は、朝も抜いちゃったから……お腹に優しくて、沢山食べられるもので」
沢山は食べたいらしいことを主張する雪璃に自然と顔が緩む中、食堂に向かう。新天地では、広場は空っぽで施設内の食堂しかない。
人数も半分になって、シェフも一人だけ。
あやかしに襲われて恐怖したはずなのに、ついてきてくれた昔からのシェフだ。
だから、俺が食べたいガッツリ肉も、雪璃が求めるお腹に優しくて沢山食べられる定食もあるだろう。
「すみませーん。肉料理と、お腹に優しくて沢山食べられる定食あります?」
厨房で忙しなく動き回るシェフに声をかけた。
食堂自体は、ガランとしていて誰もいない。前の施設と比べたら小ぢんまりしていて、席数も少なかった。
「やっぱり、誰もいませんね……」
「そうだねー。雪璃の定食、野菜マシマシみたいだよ。大丈夫?」
「はい。野菜は好きですし。一応、好き嫌いはありません。南雲さんも少し食べます?」
俺が選んだのは野菜が絶滅したようなガッツリ肉しか乗っていない丼物だったことを心配してくれているらしい。
どうしたらこんな優しい男の子が生まれるんだ?
光なんて、チャラ男に成長しちゃったのに……。
いや、あれも個性か。
「有難う。それじゃあ、少しだけもらおうかなー」
「最近は、お互い忙しくて昼食の時間もバラバラでしたからね」
「えー? 忙しくしてたのは雪璃だと思うよー。俺なんてお陰さまで、仕事減ってるからねー」
意外だという顔をする雪璃に首をかしげる。
話を聞くと、上位のあやかしがそんなに頻繁に出るわけもなく、暴走気味の班長を止めるため駆け回っていたらしい。
「まさか、そんなことになっていたなんてねー……。雪璃が魔法使いに覚醒してから、班長やる気に満ちてるからなー」
「色んなあやかしと戦わせようとするから、困るんですよねぇ……。俺、どっちか言ったら戦うの嫌いなんで」
「そうだよなー。雪璃は人間らしいまともな部分が多くて俺は嬉しいわ」
班長は人間らしさがないと言っているようなもので、案の定雪璃は食いついてきた。
「やっぱり、彩って人間らしさがないんですか? 俺が知ってる彩と、みんなが言ってる班長が同一人物に感じなくて」
「あー……。ニ人からも聞いてるかもだけど。雪璃と会う前の班長は、真逆だった。無関心で、冷めてて、戦いでしか自分を見い出せないみたいな?」
「やっぱり……。今の彩しか知らないから、想像がつかないな。ただ、最初に出会った彼女は、なんていうか……とても綺麗だった! でも、同時に消えてしまいそうな儚さ? みたいなものも」
何かしら感じている様子の雪璃に思わず表情が緩む中、出来立ての料理が目の前に置かれる。
湯気が立っていて、香ばしい匂いに自然と腹の虫が鳴った。
ニ人でテーブルまで運ぶ。
施設はすべて地下にあるから、窓があっても見えるのは何もない広場だけ。
「まぁ、それだけ分かっているなら大丈夫だ。てことで、熱いうちに食べようかねー」
「ですね……気が付いたら、俺の腹の虫も元気になってました。あ、取皿もらってきます」
多分、この幸せな空気も今だけになるかもしれない。
願わくば、班長の想いと雪璃の気持ちが通じ合いますように……。
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