第24話 氷の魔法と戦装束
「うっ……」
「先輩! 雪璃先輩……! 良かったぁ……」
少しだけ涙目の彩が瞳に映る。
ぼんやりする頭を整理してみて、自分が漫画やアニメのような魔法使いの姿に変身したことを思い出した。
「あっ……東さん」
「良かった……どうして、貴方は。私が死んでも、損害は少ないのに!」
「仲間だから――」
気を失った俺は、南雲さんに運ばれてメディカルルームで寝かされていたらしい。
東さんの顔を見て、恥ずかしい思いも蘇る。
なのに、視界に入る姿は女性陣しかいない。
「それに、俺はずっとお荷物で……東さんにも救われた」
「――本当に、お人好しですね。貴方は」
「本当に、ニ人共無事で良かったです! 先輩の無茶にはハラハラされましたけど……おかげで覚醒しましたしね!」
興奮する彩に目を細める。
身体を起こしたところで、ちょうど男性陣が戻ってきた。
「おー。目が覚めたみたいで、良かったわ」
「雪ちゃーん!! 俺は、とても心配したんだよぉ。ハグさせてぇ!」
「光さん……? 私も、先輩とハグしてないからね?」
大人の男らしくドライな南雲さんとは違って、両手を広げて近づいてくる光に凄む彩に乾いた笑い声が出る。
「すみませんでしたぁ。でも、本当に無事で良かったし。覚醒姿も絵になってたよぉ」
「そうそう。まさか、魔法少女みたいに変身するとは、お兄さんも思わなかったなー」
「やめてくれ……。魔法少女はないと思います! 普通に、魔法使いの装いだったし……」
魔女の帽子がなくて良かったと心底思った。
ただ、ローブ姿に服装自体は騎士のような、貴族風の装いがこだわってみえる。
ヒラヒラが多い……。
「魔法少年……は、先輩18ですしね。普通に魔法使いの変身でいいと思います!」
「でも、魔法を使ったあと変身も解けて……気を失った、のか?」
「そこは、アタシが教えよう! もう、大興奮さ! まさか、生きている間に魔法使いの覚醒が拝めるなんてねぇ」
空気のように気配でも殺していたのか、まったく気が付かなかったナギコ先生の登場に肩が揺れた。
しかも、彩以上に興奮している。
「実際には、覚醒後のキミだけど。魔力器官は、正常に動いているけど、気を失った理由は1つ! 魔力の注ぎ過ぎだねぇ」
「魔力の注ぎ過ぎ……? 言われてみると、無我夢中で手に力を込めたけど」
「ほぼ全部の魔力を注いだんだろうねぇ。それで、魔力切れで気を失ったわけさ」
顔が近いナギコ先生に引き気味になりながら、教えてくれる内容は納得できた。
「でも、魔力量のコントロールとか、どうしたら良いんだ?」
「先輩、あの部屋に行ってみましょう! まだ全然探せていませんし、人数いたら見つかるかもしれません」
「えっ? でも、あそこはニ人だけの――」
自分の唇に人差し指を当てる彩に、言葉を噤む。
みんなに、あの部屋のことを話して再検査で異常がなかった俺は、双子を呼び出して地下室に向かった。
「うへー。こんな場所があったなんてねー。班長も水臭いなー」
「ちょーっと雪璃先輩とニ人だけの秘密を共有してみたかったの!」
「そうなのか……? アレ、此処にあった本が無くなってる……」
スチールシェルフが立ち並ぶだけの空間にも関わらず、三人ともに興味をそそられるような反応をして、部屋を見て回っている。
部屋に入った直後は、三人とも変な顔色をしていたが、無くなった本が気になってチラッと彩に視線を投げるが、普通に談笑していた。
俺は彩に気づかれないように、双子を呼ぶ。
「……ニ人共。この部屋から持ち出した本について、調べられたりしないか?」
《――調べられます。柏野彩が、持ち出した本は……ニ冊です》
「一冊は、彩が見せてきた恋物語だろう。もう一冊は?」
双子に声のトーンを落として話しかけると、俺の意図を察するように辛うじて聞こえる音で返してきた。
もう一冊あることは分かったが、その刹那俺がいないことに気がついた彩の声が聞こえてくる。
「雪璃せんぱーい! そんな端っこで、双子ちゃんと何を話しているんですかー?」
「あっ……ちょっと、此処には何冊の本や資料があるのか聞いていたんだ」
「なるほどー。まだ、読んでない本とかが分かると便利ですよねー」
双子に向き直って聞いてみると分かるらしく、特殊な光線によって仕分けしてくれた。
「えっと、赤く光ってるのは読み終わっててぇ? 青い光が、読んでない本ねぇ。了解っ」
「それでは、私はこちらを探します。魔法の使い方を探したら良いんですよね?」
「うん! みんな、宜しくねー」
スチールシェルフは10列分あり、合計で20台ほどあったらしい。
ニ人でなんて到底探せない数だ。
腕時計を確認して夜を回った頃、ようやくすべての本に目を通し終える。
「人海戦術で、ざっと五冊だねー。人数も丁度五人だし、みんなで読書会しようか」
「ですね。そうだ……さっきは、言いそびれちゃったんですが。俺のこと、運んでくれて有難うございました」
「あー。全然大丈夫だよ? 班長も怪力だけど、俺は力持ちだからねー。それに、雪璃は軽かったし」
悪戯っぽい笑みを浮かべる南雲さんは、俺に気遣わせないようにしている。
やっぱり、憧れの大人の男だ!
そう。俺は軽くない……身長も男性陣ニ人よりは10センチ以上低いけど。最後に測った際の身長は170センチを超えていた。
体重だって、平均の60キロは超えている。
「……南雲さんは、軽くもない俺を女子みたいに優しく扱ってくれているだけだ」
俺は自分に言い聞かせた。
それなのに、横から余計な口を挟むこの男は……俺の理想とは真逆である。
「そうかなぁ? ああ見えて、あの人も結構やり手だからねぇ……。まっ、俺には敵わないけど」
「チャラ男の光と一緒にするな……さてと、読むか」
ため息混じりに眉を寄せる俺は、光を無視して本を読み始めた。
大体が本というよりは、資料のように紙の束が多くてタイトルがない。
「情報を共有して分かったことは、知られている魔法の数は五つと言うことですね!」
「そうですね。未知の魔法も存在している可能性はありますが、この本を読むだけで魔法が使えそうです」
「でも、一つの魔法でも使いこなすのは大変ぽいから、慣らしていくのが良さそうだねー?」
まさか一度に五つの魔法を扱えるようになるとは思わず、オタク心に深く刺さった。
魔法少女は嫌だが、魔法自体は誰もが憧れるはず。
「それじゃあ早速! 訓練室で、練習しましょう先輩っ」
「お、おう。先ずは氷魔法だな……でも、またあのコス――魔法使いになるのかぁ」
「魔法少女みたいで可愛かったし、俺は推せるけどねぇ?」
光の戯言は、あやかしの言葉と同様に無視だ。
ずっと立ちっぱなしだったため足に疲労感はあるが、興奮する彩に言われるがまま訓練室に移動する。
「先ずは、変身しましょう! 魔法を使うとき限定で衣装チェンジするんですよね?」
「衣装チェンジって……まぁ、某魔法少女みたいに裸にならないだけ良いか?」
「ちゃんと避けるので、魔力量のコントロールを意識してどうぞ!」
やる気満々の彩に対して俺は眉を寄せた。
いつも一番そばで俺を守ってくれる相手に、練習とはいえ魔法という刃を向けることに加えて、なぜか本能的に心がざわつく。
「いや、やっぱり彩に向けて試すのは気が乗らない……」
「んじゃあ、俺ならどう? 普段のうっぷん晴らしてもいいよぉ」
「よしっ! やろう」
少しだけ目線を下げて彩に断りを入れた。
目を丸くする彩の代わりに、だらしのない笑みを浮かべる光が手を挙げる。
軽いノリだったのか、俺が即座に頷くと大ダメージを受けたかのように胸を押さえていた。
俺は、そんな小芝居を無視して意気揚々と胸に手を当てて魔力器官を感じ取り変身する。
初めて見たナギコ先生は拍手喝采というように両手を叩いて興奮していた。
「それじゃあ、手加減なしで行くぞ」
数回撃っただけで音を上げる光に攻撃を止める。
上位のあやかしと戦っていたときよりも疲れ切った顔で、その場に崩れる光に元気な俺は首をひねった。
「容赦なさすぎて、チビるかと思ったじゃん。雪ちゃんも、男の子だったんだねぇ……」
「――どういう意味だよ……」
「わんぱくだってことだよぉ。氷の魔法を使いまくって、熱くなった雪ちゃんも可愛ねぇ」
あぐらをかいた状態でウインクする光に興冷めした俺は、自然に変身が解除される。
だけど、最初と違うところは何回も魔法を放ったのに気を失わなかったことだ。
あの資料通りに魔力量を調整出来たことが素直に嬉しく感じて、思わず彩を見る。
彩は視線が合うとおもむろに横に外した。
やる気満々だった彩を拒否したのが悪かったのか、俺は眉を寄せる。
このときから、少しずつ彩との距離を感じ始めた――。
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