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とりとねこ

とりとねこのぬいぐるみがきらきらを探す話。

 今年の冬の童話祭のテーマは「きらきら」だそうです。

 毎年このお祭りの隅っこに加わっているマキさんの家の居候、間抜けな顔をした白いとりと三毛のねこのぬいぐるみも、なにやら「きらきら」にこだわっているようで……。



 ふこり。

「うーん、違うなあ」

「違うねえ」

 ふこり。

「これでもないなあ」

「そうだねえ」

 ふこ。

「これでもないか」

「ないねえ」

 とりさんとねこくんが、部屋の隅でごそごそと何かをやっています。

 声をかけたとて、ろくなことにならないのをよーく知っているマキさんは、スマホをいじりながら黙っていたのですが、あまりにもふたりが、

「これも違うかー」

 とか

「あー。そっちいっちゃったかー」

 とか、センス系の演出家のダメ出しみたいなことをずーっと言い続けているので、とうとう尋ねてしまいました。

「さっきから、ふたりで何をやってるの」

「おっ」

「おろ」

 とりさんとねこくんは、ふこりとマキさんを振り向きました。

「どうした、マキよ。ぼくらに興味があるのか」

「気になっちゃう感じですかー?」

 ちょっと得意げにそう言われて、早くも声をかけたことを後悔し始めたマキさんでしたが、このままずーっと謎の会話を続けられるのも、それはそれでストレスです。

「そりゃずーっとごにょごにょ言われたら、気になるよ」

「そうか。気になるかー」

「気になっちゃいますかー」

 ふたりはふこふこと頷きます。

「気になっちゃうんだなー」

「なっちゃうんだねー」

 マキさんはとりさんを持ち上げて、その身体をみょいーんと伸ばしました。

「ごちゃごちゃ言ってないで質問に答えなさい」

「うみょー」

「うわー、とりさんがー」

「わ、分かった。マキ。分かったからその手を離すんだ」

「分かればよろしい」

 マキさんが手を離すと、とりさんはちょっと平べったくなった自分の身体を、自分の手でもふもふと成形し直しました。

「まったく。マキの馬鹿力め」

「マキの馬鹿め」

「それはただの悪口」

 マキさんはねこくんをぽふりと叩きます。

「むぎゅ」

「それで、ふたりで何やってたの。質問に答えてよ」

「しかたないなあ」

 とりさんが部屋の隅に置かれていたポスティングのチラシを持って、ずるぺたと戻ってきました。

「これだよ、これ」

 それは近所の洋菓子屋さんの広告でした。

 クリスマスっぽい赤と白の配色とともに、「今年のクリスマスケーキのテーマは“きらきら”です!」と書かれていました。

 そのうたい文句の通り、きらきらと華やかなケーキが広告いっぱいに映っています。

「クリスマスケーキかあ。そろそろだもんね」

 マキさんは言いました。

「それで、これがどうかしたの?」

「きらきらなんだよ、マキ」

 とりさんは手羽にぐっと力を込めました。

「今年のテーマは、きらきらだったんだ。うかつにもぼくらはそれを知らずにのんべんふこりと年末まで来てしまった」

「ええ?」

 マキさんはチラシを見直します。

「いやいや、これはこのお店が勝手に言ってるだけで。そもそもこれは今年のテーマじゃなくて、このお店のクリスマスケーキの」

「ここまでの十一カ月余りきらきらと無縁で来てしまったことに、忸怩たる思いだよ。慙愧の念に堪えない」

「何て?」

「だからぼくらも、遅ればせながらきらきらをすることにした」

「することにした」

 ねこくんもうんうんとうなずきます。

 マキさんは意味が分かりません。

「きらきらをするって、どういうこと……?」

「ちょうどいい。マキにも見てもらおうじゃないか」

「そうだね。第三者の目で判断してもらおう」

 とりさんとねこくんはテーブルの上に乗っかりました。

「じゃあ、これ」

 とりさんが両手を広げました。

「マキ、このポーズにぴったりの擬音は?」

「擬音……?」

 マキさんはとりさんのポーズを眺めました。

「ふこり、かなあ」

「じゃあこれは」

 ねこくんがくるりと回ります。

「ふこりん、かなあ」

「じゃあ、これは」

 とりさんがテーブルを走ります。

「ふここここ、かな」

「じゃあこれは」

 ねこくんが逆立ちします。

「ぴこ、だね」

「じゃあこれは」

「ふこぺた」

「じゃあこれは」

「ぴそそそそ」

「じゃあこれは」

「ふっこり」

「じゃあこれは」

「ふこふこりん」

「じゃあこれは」

「ふこりに戻ったよ」

 ・

 ・

 ・

「だめだ……」

「くそぅ……」

 とりさんとねこくんはテーブルの上に倒れて、はあはあと息をしています。

「どうしてもたどりつかない、きらきらに」

「どのポーズも、ふっこりしてしまう」

 ふたりは悔しそうです。

「そう言われても……」

 マキさんも困り顔です。

 そもそもがふこふこした作りのぬいぐるみなので、頑張ってどんなかっこいいポーズをとったとしても、そこに擬音を付けるとしたら、ふっこりとかふこふことか、そんな音になってしまうのです。

「しかたないよ、ふたりはぬいぐるみなんだから」

 マキさんは言いました。

「いいじゃない、ふこふこで。かわいいんだから」

「ぼくらがかわいいのは百も承知だ」

 とりさんはやさぐれたまま言いました。

「でも今年のテーマはふこふこじゃないんだ、きらきらなんだよ」

「きっと来年だよ、ふこふこは」

 ねこくんもがっくりうなだれたまま言いました。

「ぼくらは来年まで、人目を忍んでふこふこしてるしかないんだ」

 来年のテーマも絶対にふこふこではないだろうとマキさんは思いましたが、それはともかくとして、すっかり落ち込んでいるふたりを見て、ちょっとかわいそうになりました。

「別にテーマなんて気にしなくていいよ。私だって、今年の流行色なんて全然気にしてないし、毎日の占いのラッキーカラーだって」

「マキはそうだろう」

 テーブルにふっこりとつぶれたままでとりさんが言います。

「特にテーマのない人生を送っているからな」

「ぼくらはテーマ性にあふれたぬいぐるみだから」

 ねこくんも言います。

 商品名が「とり」と「ねこ」なのに?

 マキさんはそう思いましたが、優しいので口には出しませんでした。

「ふたりとも、元気出してよ」

 そこで、マキさんはふと思い出して立ち上がりました。

「そうだ、新しい可愛いデザインの付箋を買ってきたんだ」

「新しい!」

「付箋!」

 ふたりがふこりと顔を上げました。

「見たい!」

「見せて!」

「あ、それ!」

 思わずマキさんは大きな声を出してふたりを指さしました。

「今、きらきらしてた!」

「なぬ」

「ふにゅ」

 とりさんとねこくんは顔を見合わせました。

「ぼくら、きらきらしてた?」

「してたかな?」

 確かにその一瞬、とりさんとねこくんはきらきらとしていました。

 でもそれは大好きなものを見たいという心のきらめきから来たきらきらだったので、今はもうふたりはきらきらしていませんでした。

 でも、きらきらだったと言われて、ふたりはちょっと嬉しそうです。

 この後年末までふたりがずっと悲しい思いのままで過ごさなくていいので、マキさんもほっとしています。

「きらきらかぁ」

「きらきらだね」

「うん。きらきらしてたよ」

 ふこふこしているふたりに、マキさんはうなずくのでした。

 ちなみにこのあとマキさんは、とりさんとねこくんに何度も何度も、

「きらきらしてた?」

「ぼくら、きらきらしてた?」

 と聞かれて閉口することになるのですが、それはまた別のお話。


 それではみなさん、今年もあとわずかとなりましたが、とりさんとねこくん同様、きらきらしてお過ごしください。




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― 新着の感想 ―
今回もにひきのふこふこたちのこだわりっぷりがとっても可愛かったです。 ひとつきになったとすれば、冒頭に冬の童話のテーマが「きらきら」と書かれているので、いっそのこと、クリスマスケーキではなく、こことリ…
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