53話「非才無能、必殺技を使う」
「リップ、お前無事だったのか……」
「まあナ、装備品はこいつ残して壊れちまったけどサ」
リップは白いギザ歯を見せてにやりと笑いながら、大鎌をポンポンと叩いた。
ハーゲンティの《黄金化》すら効かないとは思っても見なかった。
いったい、その大鎌はなんなのか。
とはいえ、その話はあとだ。
「みんな、俺に一太刀入れさせてほしい。それで、勝てると思う」
「それ、どれくらい勝算あるんだ?」
「三割くらい」
「おいおい……」
リップがため息を吐く。
なるほど、彼女の反応ももっともだ。
失敗すれば全滅するのだから当然の反応である。
だが、もうそれしかないのだ。
アダマンタイトの鎧で覆われた奴を斬るのは、リップですらできなかった。
俺とマリィがやるしかないのだ。
「ほう、ゴーレムは押さえましたか。それで、どうするんですか?」
ゴーレムは、リップが封じた。
茨は他の四人が捌いてくれた。
すでに、一足一刀の間合い。
ならば、あとは一撃を打ち込むだけ。
断罪魔剣、アンドロマリウスの効果は万象両断。
硬い金属でも、空気や雷撃のような実体がないものでも、斬ることが出来る。
もっといえば、物質が存在する空間、世界そのものすら刃が届く範囲ならば斬ることが出来る。
だからこそ、アンドロマリウスの刃はあらゆるものを断つことができるのだ。
ここで、一つの問いが生まれる。
ああ、断罪魔剣が世界すら、断ち切れるというのならば。
断ち切れるのは、空間だけだろうか。
《《時間はどうか》》。
結論を言おう。
《《可能である》》。
斬れるのは、一瞬。
人が、刃を振り切るためのほんのわずかの時間。
だが、それで十分。
一つ。その技は、一足一刀の間合いでのみ発動できる。
二つ、その技は、使い手にとって最速の一太刀でなければ失敗する。
三つ、技の使用後、時を超えた反動を受ける。
間合い、問題なし。
時間を切り、空間を斬り、世界を斬る。
回避はできない。
そうする前に、時間ごと刻まれる。
防御はできない。
いかんなる防御も、空間ごと斬られる。
それこそが、『断罪魔剣アンドロマリウス』、最強の一撃。
『《刻界《ディバイダ―》》』
すべてを断ち切る絶対の魔剣が、炸裂する。
それを、目撃できたものはいない。
だから、周りに見えたのは結果だけ。
「あ――」
どさり、と先に倒れたのはモミトだった。
体をけいれんさせている。
スキルの反動だろうか。
いずれにしても、もう戦える状態でないのは明らかで。
「馬鹿な――」
ぽつりと、ハーゲンティがつぶやく。
その声は、驚愕と苦悶に満ちていた。
彼の口から、血が流れる。
最初は一滴二滴程度だったそれが、洪水のように口からとめどなくあふれてくる。
「この、私が」
コアを切り裂かれた魔人が、どしゃりと地面に倒れ伏した。
「ありえない、ありえない、ありえません」
「私は、永遠に美しいものに囲まれて永遠に、美しいまま生きるのです。これが、こんな、ところで……」
「お前は、美しくなんか、ない」
「…………」
「変わらないことは美しいとお前はいったな。同意見だよ。だからこそ、多くの人を黄金像に変え、周りの人たちを不幸にしてきた、お前の在り様を許さない」
それが、紛れもない魔人の罪だから。
断罪魔剣とその使い手は、決してその罪を逃したりはしない。
「ふざけるなあ!お前ごときが私の美しさを侮辱するんじゃない!」
ハーゲンティは、立ち上がろうとして、それすらできないまま、血を吐き、せき込む。
黄金化で傷をふさぐことももはや叶わない。
権能を使う核となっていた魔剣が壊れた。
もはや、ハーゲンティはただの狂人だ。
「誰も、お前にはついていけない」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」と思ったら、評価☆☆☆☆☆、レビューなどよろしくお願いします。




