50話「非才無能、再起する」
戦闘開始からわずか一分後。
「か、ふ」
『…………モミト様』
俺は、息も絶え絶えで膝をついていた。
俺は確信する。
このゴーレムはプレーンホッパーより弱い。
速度が、攻撃力が、知性が、あの飛蝗怪人とは比べ物にならない。
だが勝てない。
ゴーレムよりも、俺の反応が遅いから。
ゴーレムの闇属性攻撃を、捌ききれないから。
そして何より――俺しか戦える人間がいないから。
『敬愛。ご主人様』
声が聞こえた。
『勝利。勝ちましょう』
自身に満ちた、相棒の声だった。
「無理だ、勝てるわけがない」
即答である。
実際のところ、勝てるビジョンはまるで見えていない。
ハーゲンティは圧倒的格上であり、仲間もいない。
これまで、俺が勝ってこれたのは相性がよかったり、あるいは仲間が支えてくれたからだ。
それなしでは何もできるはずがない。
俺のような、無能には何も。
「俺は、何かができるって思ってた……」
マリィを手にする前から、俺にはルーチェを救いたいという思いがあった。
直接的な戦闘力がなくとも、何かしら貢献できるはずだと。
それがどうだ。
ライラックのサンドバッグにしかなっていなかった。
挙句の果てに何もできない邪魔者だからと追放される始末。
ライラックが正しいとは思わない。
けれど、間違ってるとも思えなかった。
だって俺は本当に無能だから。
「起立。立ってください!」
いつの間にか、マリィの姿は人型に戻っていた。
「希望。勝ちたいと思ったんでしょう?守りたいものも救いたいものもあるんでしょう?なら立ちなさい、断ちなさい。そして、勝ちなさい」
マリィの言葉は誰よりも厳しくて、けれど。
俺は。
「俺は、何もできないよ」
「否定。それは――」
「でも、大丈夫だ」
「?」
「何かが出来なくても、仲間がいる。相棒がいる。だから、立ち上がれる」
ふらふらと、足取りはおぼつかなくて、血反吐を吐きながらで格好つかないけど。
それでも立ち上がった。
「ふむ、ふむふむふむふむふむ……なるほどなるほど、実に素晴らしい」
「はあ?」
「いやあ、私としたことが、うかつでした。まさか、これほど美しいコレクションを見逃してしまうだなんて」
ハーゲンティは俺を見ていなかった。
禿頭をかきむしり、目を欲望に血走らせて、マリィを凝視していた。
「美しい、麗しい、まばゆい、神々しい、まさに素晴らしい造形美ではありませんか!なんとしてでも手に入れて見せますよ!」
興奮気味に変質的な狂愛を叫ぶ怪人を、俺は見ていた。
これほど油断しきって入る相手なのに、まるで勝てる気がしない。
指一本動かすだけで、あいつは俺達を制圧できると理解しているからだ。
「これで、退路はなくなりましたね、ご主人様」
「まったく、君ってやつは本当に……」
「酷いメイドだと思いますか?」
「いいや、最高だよ」
「……んッ」
俺はそっとマリィの手を取る。
頬を朱に染めたマリィが粒子と化して、一瞬で処刑人の剣に戻る。
「それは無理だぞ」
「はい?」
興がそがれたかのような、不機嫌そうな声を上げる。
世界を歪める魔人の怒りを一身に受けて、しかし少年はもう怯まない。
怯えてもいない。
ただ、決意だけをその目にたたえている。
「もう、お前が手に入れられるものなんてありはしない。お前が、奪っていいものなんて何一つとしてありはしない」
そうだ、俺が言うべきは泣きごとでも弱音でもない。
一人でも、自分の側にいて、一緒に戦ってくれる存在がいるのなら。
前を向いて、剣を構えて。
愚かでも前に進むべきなのだ。
己の願いをかなえるためには、それしかできないのだ。
「ハーゲンティ、自分の身勝手な欲望のために数多の人間の時間を止めてきた大罪人」
剣を正眼に構える。
それが、攻防一体の、俺にとっては最適解の構えだから。
剣を突きつけることが、俺にできる唯一のことだから。
「弱くても、無能であっても、関係ない。今ここで――俺達がお前を倒す」
それこそが、始まりの日。
無能と呼ばれたちっぽけな少年が、英雄になる日だった。
「錬金の魔人、ハーゲンティ」
「『裁断の剣』、リーダー、モミト・エクスキューション」
禿頭の魔人は凡百を見下ろし、魔剣の主は真っすぐに敵を見据えた。
「いざ尋常に」
「勝負!」
俺達は、最後の戦いへと挑んだ。
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