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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第97話、野外実戦訓練


 魔法車改に手を加えたり、コバルト金属製の武器を作り直したりしながら過ごすのが最近の日課になっていた。

 もちろん、アーリィーとの親睦を深めたり、弟子となったユナ先生に魔法を教えたり、ちょっとアレなサキリスの相談にのってやったりとかも。


「で、今作ってるのはなんだ?」


 青獅子寮、俺の魔法工房で、ベルさんは問うた。作業机の上には、ぷるぷると震える青いスライム状の何か。


「エロいことするスライム」

「あー、誰の注文かわかった」


 ベルさんは、机のスライムに手を伸ばそうとするが、俺は止めた。


「触れるとくっついてくるから、触らないほうがいい」


 触れても無害なように作ったが、ぬるぬるべとべとしている代物である。あと生き物ではない。


「人肌に反応して動くようにできる。何に使うかは……察してやれ」


 どうせぬるぬる塗れになりたい変態的な何かだろう。

 俺は右手で青いスライム的な何かに触れると、そのまま瓶へと誘導。そこで魔力を操作し、手を急激に冷やすと、スライム的な何かは、するりとはがれて瓶の中に入った。

 ベルさんはフンと鼻を鳴らした。


「お前もよくやるよな……。この前、あの娘に渡したのは何だっけか?」

「ロープスネーク」


 その名のとおり、縄が蛇のように動いて対象を縛る魔法具である。悪漢を縛ったり、荷物を固定するために縛るといった使い方が本来の仕様なのだが、変態の思考にかかると……まあ、後は察してください。


「あんな娘に誰がした!?」

「……嬢ちゃん曰く、親父さんと兄貴の趣味の影響らしい」

「何やってるんだよ父親と兄貴! って、なんでベルさん、そんなこと知ってるんだ?」

「クロハに聞いた」


 ああ、サキリス専属のメイドさんね。大人のお遊びするなら、子供のいないところでしましょうねー、まったく。というか兄さんいたのね、あの娘。


 唐突に扉がノックされた。返事をしたら、アーリィーがやってきた。


「おはよう、ジン。……なにその瓶? 綺麗だね」

「これか?」


 俺の持っている瓶。その中身は、青いスライム的な何か。……確かに透けて見えるそれは、日にかざすと綺麗な青い色をしている。

 一瞬、彼女に襲い掛かるスライム的な何かを想像してしまう。――あかん。完全に毒されてる、俺も。


『お前さんも充分変態だと思うぜ』


 魔力念話で、ベルさんが言った。俺の思考を読んだのか?


 

  ・  ・  ・



 今日も学校である。授業前、担任であるラソン教官はクラスを見回した。


「えー、三日後、野外実戦訓練の演習授業が行われる」


 野外実戦訓練。

 将来、魔法騎士として、現場に出る時のための実戦経験を積むことを目的とした訓練である。演習地やダンジョンを行軍し、現地でモンスターを討伐する。


 まあ、騎士としてまったく実戦の経験がないというのも困るからな。騎士養成学校としても、生徒のレベルアップ目的の実戦演習は必要ということだろう。

 と、思っていたら――


「それは建前ですね」


 野外演習の話を聞いたおよそ三時間後。選択授業の高等魔術科授業の前に、ユナ先生が俺に面と向かって言った。


「平民出の生徒にとっては、将来を考えれば実戦経験は必要です。ですが、貴族生にとっては、あくまで卒業したという証さえあればいいわけで、危険な実戦の場に出ることなどあまりありません」


 良くて、狩りの延長みたいな行軍程度だと、ユナは言うのである。


 出たよ、平民と貴族の身分差別。


 とは言うものの、一部を除けば貴族が最前線に行くことなどめったにないし、平民出の騎士はよほど出世しない限りは、戦闘行為も普通にこなすだろう。そう考えると、あながち間違っていないのかもしれない。


「野外訓練の場は演習地や、ダンジョンっていうのは?」

「演習地というのが、先ほど言った貴族生向けの狩場ですね。ダンジョンというのは、王都からほど近い森にある廃墟となった砦です。正確にはダンジョンではないのですが、出てくる魔獣も倒しやすいものばかりなので、学生を鍛えるにはちょうどよいかと」


 ユナが説明してくれる。大空洞ダンジョンの序盤エリアも、初心者には打ってつけだが、そんなようなものだろうか。しかし、生徒たちを魔獣のいる場所に放り込むとはね。実戦経験が必要なのはわかるが……。


「もう三学年ですから、生徒たちも小規模な戦闘を経験しています。直接剣で倒したことはなくても、戦闘の空気には触れているので、もう少し上の経験をさせるということなのでしょう」


 そういえば、アーリィーも実戦経験は少ないが、魔獣の森では俺が特に注意しなくても動けていた。……あれ? あの時、実戦経験は一回のみとか言っていたが。ユナ先生の話が本当なら、魔獣との戦闘経験あることになるはず。……それ、実戦とカウントしてなかったとか? うーん、まあ、いいか。

 話を戻して。


「貴族生とその他の生徒で行き先が変わるみたいだけど?」

「遠征は王都に程近いスッスロの森です。演習地も、ダンジョン、いえルイーネ砦も同じ森にありますから、キャンプの場所は同じになります」

「スッスロね」


 俺も以前、狼狩りで行った場所だ。


「クラブベアが出るところじゃなかったっけ?」

「ええ。さすがに騎士生でも手に余るでしょう。なので冒険者ギルドで熊狩りの依頼が出ていると思います」


 予め、掃除しておくってことね。理解した。


「それでですね、お師匠」


 ユナは改まる。


「スッスロの森と、ルイーネ砦の現場視察をしてくることになったのですが、一緒に行きませんか?」


 生徒たちを遠征に出す前に、教官の目で現地を確認しておくということだろう。話はわかるが……。


「何でユナ、君が行くことになったんだ?」

「いちおうAランク冒険者なので、ひとりでも大丈夫でしょって、学校長と上位教官たちに言われまして」

「Aランク冒険者だったのか!?」


 俺は驚いてしまった。まあ、彼女と大空洞に潜って、その力に不足は感じなかったが……かなり失礼な話だが、ユナの雰囲気見てると、とても上級ランクの冒険者には見えない。


「いま、失礼なことを考えませんでした?」

「普段の言動のせいだ、気にするな」


 暗にそうだ、と認めてやった。

 そして高等魔法科の授業が始まる。教卓の傍らに立ったユナは、心なしか増えている受講生徒を見やり言った。


「それでは、本日もジン・トキトモ君に授業の補助をしてもらいます。……お願いします」


 教官役をさせて学校側から怒られたので、生徒による授業補助という建前で、彼女は俺を指名した。本音、というか本当のところは、俺が教官の代わりに魔法授業を行う、というもので、結局は、俺が授業を仕切るということである。


 アーリィーが目をキラキラさせて、俺の教官ぶりを見やる。その隣ではベルさんが居眠りしていた。

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[気になる点] この世界にレベルの概念が存在するんですか?ステータス等は出てきてませんが
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