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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第93話、ジンの休日


 次の日もお休み。学校は週休二日だが、世間では一週に一度の休養日――つまり日曜日だな。


 昨日かまってやれなかったので、今日は朝からアーリィーとお出かけ。といっても、デートとかそういうのではなく、ウマンさんの魔法道具屋や冒険者ギルドへ行くのが目的ではあるが。まあ、用が済んだら、ぶらぶら王都の観光も悪くないだろう。


 例によって、アーリィーは男装を解いて、髪は三つ編みにして、さらに擬装魔法をかけた状態。傍目からは黒髪お嬢様。魔力眼で見た場合は、金髪三つ編みのお嬢様で、よほどのことがなければ男=王子には見えない。


 さて、日曜日ということで、王都の商店などはお休みが多い。なので朝ともなると、比較的、人通りが少なく静かな印象だ。家でのんびりと家族と過ごす、というのが一般的な暮らしだ。

 なお、日曜も関係ないのが、働かないと餓死するような貧困層や、王都を守る警備兵、そして冒険者などである。……まあ、兵士は交代制なので日曜以外に代休をとるし、冒険者も日曜はギルドにも行かず、のんびり過ごす者も多いが。


「……」

「どうしたんだい、アーリィー?」


 俺は、閑散とした町並みを眺めつつ、左隣を歩くアーリィーを見やる。心なしか頬が赤いのは気のせいか。


「あまり人がいないね」

「そうだな」

「ベルさんも今日はいないし」


 あぁ、ベルさんな。学校に置いてきた。と言うより、ちょっと用事を頼んだのだ。


「せっかく二人っきりなんだから……」


 すっと、アーリィーが右手を差し出してきた。


「手……繋いでもいい?」


 なんで、こういう時にこんな初々しいことを、恥ずかしそうに言うんだ君は! いや、あまり人がいないとは言え、まったくいないわけではないし、人前で手を繋ぐという行為自体、たぶんアーリィーはほとんど経験がないのだろう。……可愛いやつめ! 可愛いやつめっ!


「ダメなわけ、ないだろう」 


 俺は左手を出して、彼女の手をそっと握ってやる。するとアーリィーは嬉しそうにはにかんだ。……デートじゃないって言ったな。たぶんアレは嘘だ。俺まで恥ずかしくなってくる。


「ところで、ベルさんが来ないのは珍しいね。いつもジンと一緒なのに」

「まあ、たまには別行動ってのも必要だよ」


 何をしているか、については言葉を濁す。というか、ちょっとアーリィーには言えない。……サキリスの相手をさせているなんて。


 ・ ・ ・


 その頃、ベルさんは、サキリスの性癖解消のため、彼女のメイドであるクロハと共に魔法騎士学校を散歩していたのだが、巧妙な擬装魔法により、特に騒ぎになるようなことはなかった。

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