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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第92話、魔石が足りなきゃ割ればいい


 ゴーレムがミスリル銀を掘り、やってくるモンスターを狩る。ダンジョン内のミスリル鉱山で何度かやってきたことだ。

 最初は、ドワーフのマルテロ。次はエルフのヴィスタ。今回は人間のユナというわけだ。


 魔獣討伐の合間で、俺はユナの質問攻めにあうことになった。

 ゴーレムの生成魔法と、その制御。そして……姿を変えるベルさんのことも。


 そう、ベルさんは今、猫ではなく暗黒騎士の姿をしていた。使い魔だと思っていたそれが人型になったことで、どんな魔術なのか、ユナは興味津々だった。


「教えない」


 ベルさんが魔族の王様であることは言わない。教えても誰も幸せにならないからだ。


「いやいや、ジンよ。それは可哀想だ」


 暗黒騎士姿のベルさんが兜を取る。浅黒い肌で、がっちりした顔つき。黒髪に青い瞳、割とイケメンである。顔からすると三十代くらいだが、実に落ち着き払った表情は何者にも動じない屈強さが垣間見える。

 地面に得物であるデスブリンガーを刺すと、俺が食用に焼いているトカゲ肉のそばに、ドカッと腰を下ろした。


「実はな、オイラ、いやオレ様は、とある国の王族だったのだが、呪いの魔法をかけられて、あのような猫の姿をしているのだ」


 うわー、この人しれっと嘘ついたよ。あ、嘘ではないか? 魔族ではあるが王様だったのは本当だ。いや、呪いの部分ははっきり言って嘘じゃん。


 倒した白トカゲ肉が焼きあがったのを見計らい、ベルさんは串に刺さったそれを取って齧りついた。ほー、とユナが感嘆の声をあげた。


「高貴な生まれだったのですか……。呪いの魔法とは――」


 興味のまま聞くユナもユナだが、それをベルさんは上手くあしらう。都合の悪いことは「知らん」ときっぱり断言するように答える。あまりに堂々としているので、嘘をついているように見えないのは、さすがである。


 そんなこんなで、交代でやってくる魔獣を迎撃しつつ、採掘は続く。

 魔石のねらい目はフロストドラゴンだ。ドラゴンとしては最下級だが、氷のブレスを吐き、その体内には氷属性の魔石を持っている。


 だがドラゴンが来る前に、ホワイトリザードやアイスウルフが数倍の数やってきた。意外と厄介なのは、数で攻めてくるアイスウルフか。以前来た時より、心なしか数が多い。ベルさんやユナの迎撃では、どうしても全てを防ぎきれずに通してしまうからだ。


「ライトニング、連射モード」


 俺はオークスタッフを立て、マシンガンよろしく電撃弾をばら撒き、横一線になぎ払うように連射した。 

 騎兵突撃を重機関銃が一掃するように、氷狼の群れを撃退。……はい、ユナさん。そこでいちいち聞きたそうな顔をしない! 

 基本、単発であるライトニングを、呪文詠唱なしで連続して放ったことが驚きだったようだ。


「魔法はイメージだよ。想像力を働かせるんだ」


 呪文をいちいち覚えなくても魔法は使える。そうでなければ単詠唱や無詠唱で魔法など使えるわけがない。大事なのはイメージする力だ。

 とか何とか、師匠らしく説明した。


 敵は氷狼や白トカゲだけでなく、コボルトの集団も現れた。鉱山といえばコボルト。鉱物をコバルトに変換する奴らが、採掘の音に誘われるのはよくあることだ。ミスリル銀をコバルトに換えられるのは損なので、連中が現れた時は、俺、ユナ、ベルさんの全力シフトで迎撃する。

 その際、ユナは俺の助言をもとに、ファイアボールの魔法を連射で放ってみせた。さすが高位魔術師殿、覚えが早いね……。


 エルフの弓使いヴィスタもだが、ユナもダンジョン攻略の際にいてくれると、だいぶ楽になるな、と思う。

 あと、コボルトの金属武器、おいしいです。忘れずに回収、回収。


 順調に狩りは進み、半日粘ってコボルトを含めると軽く百体以上の魔獣を倒した。うち霜竜は八体。一体で二個の魔石が採れたものがあったので、合計十個の氷の魔石を手に入れた。


 が、数の上ではまだ足りない。うん、知ってる。そうそう都合よくいかないだろうことは。

 鉱山で一泊するという案もあるが、俺も休みたいからね。スライム座布団を敷いて座りながら、俺は手に入れた氷の魔石を持つ。


 切り出された石のように角ばったそれらは、ひとつとして同じ形のものはない。大きさもニワトリの卵くらいのものもあれば、バスケットボールほどあるものもある。

 これら魔石も、ちょうどいい形のものであれば、そのまま杖などに付けられるが、大抵は形を整える加工作業がなされる。……そう、手ごろな大きさ、形に調整するのだ。


 まあ、大きな魔石に手を加えるのは少々もったいないが。


 作業する地面の上に革のシートをかける。次に革のカバン(ストレージ)から、超硬度金属としてオリハルコンと並んで最高のものとされるアダマンタイトで製作した金槌と(たがね)を取り出す。いざ魔石に鏨を当て、金槌で叩く。一打で魔石に亀裂が走り、もう一度叩きつけると、真っ二つに割れた。


「ああ……」


 もったいないと言わんばかりのユナの声が聞こえたが、無視する。教材用の魔石に、さして大きな魔力は必要ない。やや大きなものを割っても、質としては充分だと思う。


 できるだけ形と大きさが揃うように、余分な部分はカットしていく。その過程で、小さな魔石くずがシートの上に落ちる。本来なら使い道のないそれだが、俺が使ってる魔石手榴弾の材料に使えるために、魔石くずも集めておく。


 魔石道具屋のウマンさんに、この手のくずをどうしているか、今度聞いておこうと思った。あちらでも魔石加工を行う都合上、魔石くずは出ているはずだ。以前関わったところでは捨てていたから、もしウマンさんのところでも捨てているならもらっておこう。


 俺が魔石を加工している間に、ベルさんが、さらにフロストドラゴンを二頭ほど狩っていた。倒した竜から抜き取った魔石も割って増やしたところで必要な分を回収できた。


 あとは、ゴーレムたちが掘り、集め、選別した岩塊からミスリル銀を手に入れれば、ここでの仕事は終わりだ。……結構魔力を使ったし、これからも使うんだよなぁ。

 俺はユナを手招きする。彼女は小首をかしげてやってきた。


「ひとつ魔法を見せてやるから、魔力をくれ」


 魔法を教えてくれるなら色々してあげる、と言った魔術師である。魔法に関する好奇心が勝る彼女は、嫌な顔ひとつせずに俺に魔力を提供した。こういうところは、魔法に関して見境のない魔術師らしい一面である。


「ヴェノムⅢ。毒系統の魔法になるんだが、大抵のものを溶かすことができる。生物が浴びたら悲惨なことになる。……あと何故かミスリル銀は溶けない」


 岩塊からミスリル銀が残るさまを興味深く観察するユナ。じゅうじゅう、ドロドロ……。

 何故ミスリル銀が溶けないのか、と聞いてきたので、おそらく攻撃魔法を弾く効果のせいだろう、と推測を言っておいた。

 もっとも、よくよく考えると、魔法に関してとある矛盾が発生しているのだが、生憎とそれに対する答えを俺は持ち合わせていないし、討論しても多分わからないので、俺の口からは言わない。


 充分な収穫を得た俺たちは、大空洞ダンジョンから撤退した。そういえば、もっと深いところに潜ってないから、機会を作って行ってみたいと思った。今以上に希少な素材や魔石などが見つかるかもしれない。


 王都に帰る頃にはすっかり夜だった。魔法騎士学校に戻り、建物に入る俺とユナ。休みなので正面は閉まっているが、職員用に裏は開いている。そのまま魔法科準備室に向かい、手に入れた教材用の魔石を大事に箱に収納することで、任務というか作業終了である。

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