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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第83話、エアブーツ作り

 

 俺たちは、その日のうちにボスケ大森林地帯を離れた。本当は一晩キャンプのはずだったが、アーリィーの命を狙う者が、第二、第三の手を打っていると厄介なので、場所の割れている森林地帯を離れ、王都への帰途についたのだ。


 行きの遠足気分は、帰りにはすっかりなくなっていた。アーリィーを助手席に乗せて魔法車を走らせる予定も水泡に帰した。まったくもう……。


 森林地帯と王都のあいだで、キャンプし一晩。特に襲撃もなく、翌朝に再び出発。予定より半日早く、王都に帰還した。


 今回、アーリィーが襲われたということで、王城にも報告を入れる必要があった。ただの遠征ですまなくなったので、報告もオリビア近衛隊長自らが赴いて行うことになる。


 途中、オリビアと近衛騎士5名が隊列を離れ、王城へ。

 俺はベルさんに合図し、彼女の後を追わせた。今回の事件の報告がどういう経路をとって伝わるか見るためだ。もし、王城側に、アーリィーを殺そうとする者がいるのなら、そいつも必ず報告を聞きたいだろうし。


 青獅子寮に着いた後、アーリィーは自室に戻り、少し休むと言っていた。精神的にも休息が必要だろう。今はそっとして置いてやる。


 ビトレー氏やメイドたちに任せておいて、俺は部屋に戻り、初心者ローブから部屋着に着替えると、アーリィーに約束していたエアブーツの製作に取り掛かった。


 隣の工房へと足を向ける。メイドさんたちに頼んでアーリィーの足のサイズはすでに測定済み。彼女に合わせた革靴を元に、グリフォンを倒した際に手に入れた羽根と、風の魔石を使って『合成』するのだ。……まあ、俺は靴職人じゃないからね。何をするにしても魔力と想像力頼み。


 と、そこへ来客。


 メイドさんの一人が、魔法騎士学校の生徒が訪ねてきたと言う。見目も麗しい令嬢だ、と聞いた瞬間、俺は猛烈に嫌な予感がした。

 青獅子寮の玄関まで赴けば、案の定、サキリス・キャスリングだった。


「今日は学校もお休みですし……わたくし、大変お暇なのですのよ」


 俺は忙しいんだが? その言葉が出掛かり、追い返そうと思ったが、ふと思った。


「例の病気か?」

「病気とは心外な! その、ちょっと退屈しているというか」

「勝負ならしないぞ、俺は靴を作るので忙しい」

「……靴?」

「それじゃまた」


 彼女を追い返し、俺は工房に戻る。気を取り直して、エアブーツを合成しよう。

 革靴、ミスリル銀少々、風の魔石大小6つ、グリフォンの羽根16枚、緩衝材にスライムジェルを使う。スライムジェルは例によってDCロッドで生成したダンジョントラップの極一部を利用したものだ。

 エアブーツ製作は失敗作も合わせると今回で七回目である。成功イメージもあるので、俺のほうの想像に問題はない。あとは順調に魔力を流し込めれば完成だ。それでは――


「合成」


 机の上に並べた素材の下に青い魔法陣が形成された。


 

  ・  ・  ・



 アーリィーにエアブーツをプレゼントしたら、大変喜ばれた。


 夕食前に、さっそく試し履きして、その履き心地を確かめる。


 ただの革靴がグリフォンの羽根をあしらい、魔石がついた魔法具に変身した。

 外側くるぶし部分に大魔石一つとグリフォンの羽根を8枚ずつ。つま先部分と、靴裏に小魔石を1つずつ設えてある。靴裏にはスライムジェルの緩衝材によって、底の魔石が地面に接触しないようになっている。


 最初から大ジャンプや加速は危ないので、まず小さなところから始める。慣れると壁蹴りを使った三角跳びで、壁を越えたり屋根の上に飛び乗ったりできるようになる。


 王城から戻ったオリビアや執事長のビトレー氏は、アーリィーの身を心配したが、先に渡した加護の腕輪を必ずつけて、と俺は注意してあると告げた。

 あの防御効果は、たとえ高所から落下したり、妙な体勢で落ちたとしても怪我一つしない。とはいえ、あまり派手にやって恐怖心を植えつけられても困るので、少しずつ慣らしていく。


 上下の機動はあまり派手にやらなかったが、加速移動についてはすぐ俺と遜色ないレベルに達した。

 物覚えが早いアーリィーである。歩くよりも、走るよりも速いそのスピードにアーリィーは、子供のようにはしゃいでいた。……少々わざとらしく見えたけど。


 悪いことがあった後だからな。発散するというか、気晴らしは必要だと思うよ。


 適度な運動で汗を流した後、軽く身体を洗って夕食。いつもより遅くなったが、誰も何も言わなかったのは、アーリィーを気遣ったのだろうと思う。


 夜、ベルさんが帰ってきた。

 王城での情報伝達の流れを見ていたようだが、思いのほか早い帰還だった。ということは、犯人の目星がついたのだろう。

 部屋に戻った後、俺以外にいない部屋でベルさんは言った。


「アーリィー嬢ちゃんを殺そうとしたのは、父親である国王だったよ……」

「マジかよ」


 俺は思わず天を仰いだ。


 アーリィーに王子として生きるように強制しておいて、将来、後継者ができない彼女をどうするつもりなのか疑問に思っていたら、実の子を殺そうとしていたとか……。それが親のすることかよ。


「どういうことなんだ?」

「さあな」


 ベルさんは首を横に振った。


「オリビアが、シュペアとかいう大臣にボスケでの一件を報告したんだが、そのあと、その大臣が王に報告をしたところをオイラが聞いたって寸法よ」


 ベルさんは語りだした。その時の一部始終を。

今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

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