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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第76話、グリフォン狩り、出発!


 本日も学校。明日は休養日――なんだけど、ボスケ森林地帯へグリフォン狩りの遠征があるので、のんびりとはいかない。


 昨日の『円柱』ダンジョンの戦闘と移動の際の運転もあって、結構しんどい。昨晩、俺と一緒にいられなかったことで、アーリィーが少し拗ねていらっしゃったので、俺とベルさんの冒険譚を話してあげた。機嫌が直ったようで、案外チョロかった。

 が、平穏無事とは中々いかないもので。


「ジン・トキトモ! 貴方、ちっともわたくしに構ってくださらないではありませんか!」


 サキリスお嬢が、俺に絡んできた。正直めんどくさい。


「わたくしと勝負しなさい!」

「なに、また負けたら罰ゲームありなやつ?」

「そ、そうよ……」

 

 少しトーンが下がったが、気の強いお嬢様が顔を赤らめて恥ずかしげに言うさまは、こう胸の奥を突いてくる。

 ここで諦めてくれれば楽なんだけど。

 

「今度こそ、あなたを剥いてさしあげますわ!」


 とはいえ、最近の魔法車の材料加工などで魔力を結構使っているし、明日は遠征だ。ここらで、ちょいと魔力補充をしておこうか。


「わかった。謹んで勝負をお受けしよう。ただし、負けたらわかってるな?」


 俺も慈善事業はしていないのでね。


 授業が終わり、放課後。手早くサキリスを返り討ちにして帰宅。本当、懲りないよな、この娘も。

 俺は魔法車を改良しつつ、アーリィーとお喋りして過ごした。夕食の後、明日の遠征が楽しみなアーリィーは早めに就寝。俺も準備をしてから明日に備えて休んだ。


  ・  ・  ・



 翌日の朝、王子様と近衛隊御一行は、馬車に乗ってアクティス魔法騎士学校を出発。まだ人通りの少ない王都を進み、やがて王都の外へ出た。


 馬車の数は五台。

 人員は、俺、アーリィー、ベルさんのほか、近衛騎馬15、他近衛兵15、従者や侍女ら10名からなる。なお、俺とアーリィーとベルさんは王室専用馬車に乗っていて、魔法車はストレージの中。……さすがに王都内で乗り回すのは時期尚早だし、『円柱』ダンジョンへ行った際に飛ばしたので、魔石の魔力を充電中。


 四頭牽きの箱型馬車は、さすが王室専用。鮮やかな黒い車体に金の細工が施されたそれは豪華そのものだ。窓にはガラスが使われていて、内側からカーテンで閉められるようになっている。

 中には四人が乗れるよう、前と後ろに向かい合うようにシートがある。

 で、俺はアーリィーと隣同士に座っていた。向かい合ってお話でもよかったのだが、アーリィーはカーテンを閉め切って箱型車内を外から見えなくすると、俺に寄り添ってきた。


「この中は……ボクたちだけだよ」


 ベルさんは外の御者台のほうに出ていた。つまり、誰も見ていないということだ。


 執事長のビトレーさんや侍女らを乗せなかった理由がわかった。彼女、この遠征中に俺とイチャイチャするつもりだ。


「ずいぶん積極的な王子様だ」

「ここでは女の子として扱ってほしいな、ジン」



  ・  ・  ・ 


   

 道中のことである。

 近衛隊長のオリビアは馬から降り、移動する王族専用馬車、そのステップに乗ると軽くノックした。馬から降りたのは、緊急時でもないのに馬上から声をかけるのは無礼に当たるからだ。


 カーテンがかかっているので中は見れない。果たして何をしているのか、外からは窺い知れない。

 お休みになられているのだろうか? 中にはアーリィー王子のほか、ジンもいるので問題があればすぐに報せてくれる手はずだが。


 聞こえなかった可能性は低いが念のため、もう一度ノックしながら今度は声に出す。


「アーリィー殿下」

『……んん? なにかな?』


 カーテンが開き、中からアーリィーが窓を開けて顔を出した。オリビアはホッとしつつ、用件を口にした。


「今のところ、行程に問題ありません、殿下。脱落者はなし、トラブルもありません」

「そ、そう。うん、それはよかった」

「ええ、まったくです。――殿下?」

「ううん、何でもないよ」

「……?」

「も、もう用がないなら戻るよ、オリビア……!」

「はい、失礼します」


 さっとカーテンが閉められた。何だかアーリィー殿下の様子が少しおかしかったような。もしかして車酔いだろうか?


 だとしたら、ビトレー執事長や侍女たちに声をかけたほうがいいだろうか……。いやジンがいるのだし、何かあれば言うだろう。


 オリビアは馬車のステップを降りると、自分の馬のところへ戻った。


 どこまでも広がる平原。視界はよいが、いつ行商や旅人を狙う盗賊や魔獣と出くわすかわかったものではない。

 近衛隊は、いかなる脅威からも王族をお守りする。命にかえても。



  ・  ・  ・


 さすがにオリビア隊長が声をかけた時はびびった。


 スケベなことをしていなくても、王子と魔術師が馬車の中でくっついたり、恋人チックなことをしているだけで何を言われるかわかったものじゃない。

 そりゃアーリィーだってテンパるよ……。


 すっかりお昼が近くなった頃、俺たちは、目的地であるボスケ大森林地帯に到着した。


 さっそく近衛兵たちが王室専用馬車を中心に、キャンプの設営を行う。残る四台の馬車は王室馬車の周囲に置かれるが、王室馬車が急発進する事態に備え、その進路を妨げないように置かれている。


 キャンプ設営を他所に、俺たちはグリフォン狩りのために森に入る準備を整える。以前もアーリィーとこの森を抜けたが、今回は近衛も随伴する。

 最悪、王子様の警備は近衛に押し付けることもできるから、俺は鼻歌交じりにアーリィーのために用意した装備をストレージから取り出すのだった。

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リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

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