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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第75話、夜間走行


 帰りの道中。俺が魔法車を走らせる中、後部座席では足に怪我をしたシェーヌを、ヴィスタが初歩的な治癒魔法で改めて応急手当をした。現状、怪我による発熱は見られるが、命に別状はなさそうだった。



 揺れる魔法車。行きと違って、帰りは極力安全運転。二度目であり、行きより揺れが小さいので慣れたのか、セッチが落ち着いた調子で言った。


「ありがとう、ジン。君のおかげでシェーヌを助けることができた。本当に、ありがとう」

「オイラもいるぞ」


 ベルさんが特等席から振り返って言った。セッチは困惑しながらも小さく笑った。


「ああ、君たちのおかげだ。ありがとう」

「間に合ってよかったな」

「まったく。もう少し遅かったらシェーヌはワームどもの餌になっていたかも……。ほんと君らがギルドにいてくれなければ、絶対間に合わなかった」


 確かに、仮に冒険者ギルドで救出チームを編成できたとしても、到着は日が昇った後。俺たちでギリギリだったわけだから、哀れ女剣士は無残な姿をさらしていただろう。


「それにしても、ジン。君は本当にEランクなのか?」

「……ああ、正真正銘のEランクだよ」

「とてもそんな風には見えないな。この不思議な車もそうだが、君が使う魔法は、おれの知っている魔法使いのそれより遙かに上だ。上級の魔術師――」

「だったとしても、皆にはあまり言いふらさないでくれよ」


 そうそう、とベルさんが口を挟んだ。


「冒険者の中には、訳アリな奴もいる。オイラやジンもそうだからな。今回の件を感謝してるなら、黙っててくれよ」

「わかったよ……」


セッチは頷いた。


「本当に、ありがとう」


 そう礼を言って、彼は視線を相棒へと戻した。

 しばらく無言で走行する。俺は、ベルさんを一瞥(いちべつ)した。


「……ほんと、最近の俺たち、色々隠せてないよな」

「前にも言ったろ? 隠す気ないだろって」

「今回は仕方ないと思うんだ」


 DCロッドを使って魔獣召喚はしなかった。ちなみに、ポータルだって使ってない。……うん、はっきり言うと、帰りはポータル使ったら今頃王都なんだけどね。仕方ないので魔法車の走行テストをこの道中でやっておく。


「秘密管理ガバガバ」

「まあ、やばくなったら、また逃げればいいさ」


 ベルさんは気楽だった。


「正直言うとな、お前さんとオイラがいれば、大抵の問題は解決できると思うんだ」

「自惚れが入っているって言われるかもしれないけど、俺も同感」


 だから、いまいち秘密にしようということに対して、ずさんな一面があるのかもしれない。問題が起きても何とかできてしまう、と。生真面目な人からしたら、イライラさせるだろうね、俺たちのこういう面は。


「完璧な人間なんていねえよ」


 ベルさんは言った。


「だが、それがいいんだ」


 

  ・  ・  ・



 はい、秘密云々とか言いながら、結局ポータル使いました。

 だって、王都の外壁の門、閉まってるんだもん!


 といっても、セッチとシェーヌには睡眠魔法で眠ってもらって、実際にポータル使ってるところは見せなかったけどね。ヴィスタは……口止めは頼んだが、正直隠す云々の対象から除外してもいいと判断した。


 というのも彼女。俺が、かの英雄ジン・アミウールだと知っているからね。もう秘密どころかわかってるから、いまさら隠すのもアホらしい。


 深夜の王都。俺はセッチを起こした。彼はいつの間に王都についたのかと、寝ぼけた調子で言った。疲れていたんだろう、と俺が告げれば、彼はシェーヌを連れて医療所へ行くことになった。


 ダンジョンから戻った報告は、俺が冒険者ギルドでしておくことになった。

 すっかり深夜だったが、冒険者ギルドからはまだ明かりが漏れていた。こんな時間でもやってるんだな、と感心しつつ、俺とベルさん、ヴィスタはギルドフロアに足を踏み入れた。


 冒険者の姿は極わずかだった。受付カウンターには……初めて見る受付嬢がいた。訪れる人が少ない時間帯だからか、カウンターにいるのはその一人だけだった。灰色の髪を三つ編みにしている二十代とおぼしき女性だ。夜間シフト専門だろうか。


「あ、ヴィスタさん」

「やあ、クレア」


 受付嬢が席を立った。どうもヴィスタとは顔見知りらしい。女エルフが軽く手を挙げれば、クレアというらしい受付嬢はやってきた。


「『円柱』ダンジョンへ行ったと聞いていたのですが……ずいぶん帰りが早かったですね」

「ああ、ジンは大変足の速い馬車を持っているからな」


 ヴィスタが俺に振れば、クレアはペコリと頭を下げた。


「はじめまして。あなたがジンさんですね。噂はかねがね。……と、お戻りになられたらギルド長が話を聞きたいって言っておりましたので、奥の談話室によろしいですか?」

「ギルド長が?」


 そういえば、俺ここのギルド長に会ったことないな。


「ええ、ヴォードギルド長とラスィアさんが、まだいらっしゃいますから。特に問題なければ今からでも」


 明日も学校だから勘弁……と思ったが、たぶん明日は明後日の遠征準備やらでこっちこれないかもしれないから、済ませておくか。

 俺は了承すると、ベルさんとヴィスタと共に奥へと進んだ。



  ・  ・  ・



 ギルド長、ヴォードは熊のような体躯の大男だった。初めて俺と会った彼は、初心者ローブをまとう魔法使いの姿に首をかしげた。


「彼が、話にあったジン・トキトモか?」


 ラスィア副ギルド長に、あらためて確認したくらいだったので、確信がもてなかったのだろう。挨拶を兼ねて握手をしたら、いまだ武器を振り回しているのがわかる無骨な手をしていた。ヴォードは少し力を入れたが、たぶんわざとだろう。ピクリとも動かない俺の表情を見やり、少しだけ感心したような声を漏らした。


「『円柱』に行ったと聞いていたが、ずいぶんと早く戻ってきたな」

「足の速い乗り物があるので」


 俺が答えると、ヴォードは視線を鋭くさせた。


「夜間に円柱を行って帰ってくるだけの乗り物か……。どんな乗り物なんだ? 興味がある」

「企業秘密です」

「知りたきゃ金を払え。高いぞ」


 机の上でお座りしているベルさんが、ぶっきらぼうに言った。ヴォードは一瞬目を見開いたが、猫が喋ったことに突っ込まなかった。たぶん、事前に聞いていたのだろう。彼がちら、とヴィスタを見れば、その女エルフは。


「私の口からは言えません」


 俺に気を使ってヴィスタは口を閉ざした。配慮に感謝、と俺は心の中で思う。なお、彼女がほぼ俺の信者状態だということを、この時の俺はまったく気づいていなかった。

 ヴォードは仕切りなおした。


「ここ数日、モンスターの出現量増加の報告が多くてな。ダンジョン・スタンピードの可能性を考え、各ダンジョンの深部調査を行う予定だ。それで、いま早速『円柱』から戻ってきた冒険者がいるので聞きたいのだが、向こうはどんな様子だった?」

「俺――自分もあのダンジョンに行ったのは初めてだったので、普段との比較はできないですが」


 そう前置きはしておく。紙と書くものを用意してもらい、ラスィアさんからそれを受け取ると俺は書きながら説明した。


「……モンスターの湧きが非常に多かった印象ですね。交戦したのはゴブリンの集団、多数のロックワーム、複数のオーガと、あとクロウラーの群れです」


 話を聞いたヴォード氏、ラスィアさんは険しい表情だった。


「これは調査の必要がありますね。それも早めに」

「そうだな……」


 何やらきな臭いものを感じたようだった。

 まあ、俺自身それ以上、情報はないから適当なところで退席させてもらった。夜も遅いからね。

私事:クリスマスも忙しい。


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