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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第69話、因果応報

    

 サキリスの模擬剣に強力な雷属性が加わる。見た目からして、最初の時より威力が高められている。


「おいおい、それ洒落にならなくね!?」


 振られた一撃が空を切る。あまり威力を強められると感電死する可能性が出てくるだろうに……。

 さすがに、お遊びじゃ済まないなぁこれは。

 元より負けるつもりはなかったが、ここは高飛車サキリスの鼻をへし折り、きちんと教育してやらねばなるまい!


 ちょっと本気だし始めた俺と、サキリス・キャスリングの模擬戦は激しさを増す……ことなく、ほぼ一方的なものに変わっていった。


 サキリスの攻撃は空振り。一方で俺の模擬剣は彼女の身体を叩き続けた。

 雷属性付きの模擬剣を、腕に肩に、脚に腹部に。ミスリル防具のあたりは叩いても魔法に対する防御力があるため、さほど威力がないが、それ以外の部位はそうはいかない。


「そろそろ、降参したらどうだ?」

「誰が……降参など!」


 サキリスは吠えた。太ももを打った一撃で感電し、膝が折れる。苦悶に顔をゆがめ、しかし弱気など吹き飛ばさんばかりに声を張り上げる。


「まだ、まだよ! わたくしを打ち負かすなら、もっと、もっと本気で打ちなさい!」


 かっこつけてもダメだぞ。もう、先ほどからお前攻撃どころじゃないじゃん。ほとんど俺が一方的に叩いているので、誰がどう見ても俺の勝ちだと思う。だがルール上、降参するか気絶するまでつかないことになっている。


「どうしたの、ジン・トキトモ? こんなんじゃ、足りないわ!」


 いまに見てなさい――彼女は鼻息荒い。


 死ぬまで諦めないつもりだろうか? 言い出した手前、裸で学校一周やりたくない一心で。

 だったら初めから言うなよってやつだ。


 さすがにこれ以上長引くと、美少女痛めつけてる悪者みたいになるからさっさとケリをつけよう。ギャラリーも一方的過ぎて引き始めてるしな。……っていうか、全部この女が悪いんだけどね!


 俺は腹に一撃をぶち込むふりして、睡眠(スリープ)の魔法を使ってサキリスを眠らせた。かくてこの不毛な模擬戦に決着がつけた。



  ・  ・  ・



 放課後、魔法騎士学校の医務室に俺はいた。

 別に怪我をしたわけじゃないし、仮に怪我しても治癒魔法で何とかなる俺がここにいる理由とくれば、模擬戦で負かしたサキリスである。


 彼女は眠り姫よろしくベッドで寝かされている。なお治癒魔法を使える医務室担当官(養護教諭とか教官ではないらしい)には、こちらもお眠りいただいた。


 他の生徒たちがクラブ活動に勤しみ、アーリィーはベルさんと先に寮へ帰った。俺も帰ってよかったのだが、なにぶん妙な言いがかりで始まった勝負である。事と次第によっては……ちょっと見せられないよ、な制裁も考慮しなくてはならない。そこで、他の生徒が散ってしばらくのタイミングで、強制的に魔法で起こすことにしたのだ。


「おはようございます、サキリス嬢」

「…………」


 胡乱な目のまま起き上がるサキリス。ちなみに彼女の防具は、専属のメイドと名乗るクロハという黒髪女性が脱がし済みである。なお、そのメイドさんは医務室の外に待機していらっしゃる。


「わたくしは……負けたのですね」


 覚醒してしばし、サキリスは諦観したように言った。俺は頷く。

 すると、彼女はゾクリとくる笑みを浮かべた。強張っているようであり、しかしどこか楽しそうな。ちょっと狂っちゃってるような。


「初めて負けましたわ。ええ、わたくしを負かす者がようやく……。それで」


 ちら、とサキリスの瞳が俺を見た。


「貴方は勝者として敗者であるわたくしの末路を見るために残っていらしたのね」


 なんだ、末路って。


「それで……わたくしは……ええ、そう、敗者は敗者らしく、約束を守らなければならない……!」


 ぶるぶる、とかすかに震えているのは気のせいか。顔は段々赤らんできている。

 まあ、そうだよな。あれだけ大見得切ったからね。ケジメはつけないといけないとは思う。何せこれまでサキリスは、負かした相手にそれはもう酷い晒し刑を実行したそうだから。


 因果応報。


 まあ、この期に及んで見苦しく言い訳したり逃れようとするなら、ちょっと反省を促すか、あるいは痛い目を見てもらねばなるまい。

 繰り返すが、これは自らが招いた結果だ。


「クロハ、いるかしら!?」

「はい、お嬢様!」


 声を張り上げたサキリスに反応して、医務室の外にいたメイドさんがスッと入ってくる。豪奢な金髪を持つ美少女令嬢はベッドを降りた。


「わたくしの服を脱がせなさい!」

「は、はい、お嬢様」


 メイドさんは素早くサキリスのもとへやってくるとさっそく、制服のボタンをはずし、脱がしにかかる。

 おいおい、俺がいる前で、自分から脱ぎ始めたぞこのお嬢様。


「そういう約束ですから……。決めた以上、破るわけには参りませんわ!」


 サキリスは気丈にも言い放った。小さくかすかに震えているのは羞恥か、これから起こることへの不安からか。


 負けて難癖つけながら逃れようとする奴は多いだろうに、サキリスはここまでは潔い態度である。その点は好感が持てるが、さすがにこれ以上はよろしくないだろう。

 さっさと制服を脱いだ彼女は、顔を真っ赤にしながらもメイドさんと医務室を出ていこうとする。……まったく、もう。


 俺はサキリスの学生服姿を想像。あたかも彼女が服を着ているように見える擬装(ぎそう)魔法をかけてやる。


 以前、アーリィーが王都をお忍びで出かけた時と同じやつだ。いま、サキリスは素っ裸だが、周囲の目にはいつもの学生服姿で、『負けました』プレートをもって歩いているようにしか見えないようにした。……って、いつそんなプレート用意した!?


 ま、まあ、これなら『負け』を宣伝する以外、特に大騒動になることはないだろう。ただし、本人は、罰ゲームを受けていると思い込んでいるだろうが。


 自ら言い出したことを反故にせず、実行したことによるせめてもの情けである。見苦しい真似したら、それこそ放り出してやったが。

 ともあれ、これに懲りたら訳の分からない罰ゲーム賭けた勝負はしなくなるだろう。




 そう思ったことが俺にもありました。

 結果を言えば、彼女は全然懲りてなかった。

裏話:このエピソードは過激になりすぎないよう、製作時に何度も手直しを加えた。

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[一言] ・裏話:このエピソードは過激になりすぎないよう、製作時に何度も手直しを加えた。 今更だが負けて難癖つけながら逃れようとしなかったのはいいとしても、今まで負かした相手に晒し刑を実行した以上温…
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