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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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55/1908

第53話、優雅なランチとクラブ見学

 

 アクティス魔法騎士学校には生徒食堂が複数ある。


 主に校庭に面した東校舎に集中しているが、貴族生向けの上級食堂。身分に関係なく食事がとれる大食堂。……そして王族や上級VIP用のハイクラス食堂がある。


 アーリィーは在学中は、当然ながらこのハイクラス食堂を使う。基本的に王子のみが使うが、王子が招待すれば同席は可能。そして当然のことのように、俺とベルさんはアーリィーに招待されて、こちらで昼食である。

 東校舎三階、ちょっとした展望席もあるハイクラスの食堂は、丸テーブルが三つ。バーカウンターがあり、専属のコックとスタッフ、給仕係が控えている。


「昼間からフルコースってのも贅沢だな」

「そう? やっぱり王族のランチって、他とは違うんだね」


 俺とアーリィーは白い丸テーブルを挟んで向かい合っている。スープに始まりサラダ、牛の肉厚ステーキ。


「大食堂のメニューに興味があるんだけど」


 アーリィーは皿の上のステーキにナイフを入れながら言った。


「いままでは連れがいなかったから行けなかった。ジンもいるから、近いうちにそっちで食べてもいいかな」

「やめとけやめとけ」


 ベルさんが、俺の切り分けたステーキを一口。


「大食堂がパニックになるだろうよ」


 俺も皮肉る。そもそも王室警護の近衛をはじめ、世話係も大いに困惑するだろう。他の生徒が食べる料理を王子殿下も食する……たったそれだけのために、いつも以上に神経を尖らせ、注意を払わなければいけない。他の生徒たちも落ち着かないだろう。


「それにしても……魔法騎士ってのはエリートなんだろう?」


 俺は話題を振る。


「俺たち、最上級学年の三年だ。さっき模擬戦やったけど、正直あれどうなんだ?」

「どう、というと?」 


 俺は閉口である。

 ジョシュワをはじめ、男子生に挑まれた模擬戦。弱魔法を使って実戦向け、なんて思った俺が間違っていた。


 弱魔法といっても、みな馬鹿の一つ覚えに投射系魔法を近接戦前に撃つだけ。要するに殴る前に相手の態勢を崩してやろうという戦法だ。


 放たれた魔法を、模擬剣に防御魔法をかけて弾いてやったら、いきなり難癖をつけられた。いわく、剣で魔法は弾けない。つまり実戦でできないことは無効だ、と言うのである。


 まあ、これについてはできないと思い込んでいる人間が多いようなので、実際の攻撃魔法を俺が剣で弾くさまを見せ付けてやることで納得させた。……びっくりされたがね。

 だが目の前で見せられては認めないわけにはいかない。


 とりあえずジョシュワをボコった後、挑んでくる男子生を相手にしたが、俺が地雷系の弱魔法を使ってやったら、またも物言いが入った。


 この踏んだ何かで死亡判定が入る意味が理解できないとか云々。


 仕方ないので、あれを踏んだらこうなります、と演習場の一角で派手に爆発させてやった。爆発と共に数メートル吹き上がった黒煙を見やり、クラスメイトたちが絶句し、突然の爆発に別クラスの教官が何人か様子を見に来てしまう。……お騒がせして申し訳ない。


 もうしょうがないので、魔法も使わず二本の模擬剣だけで相手してやった。

 魔法すら使う必要がないほど低レベル。剣術では二、三人、腕のいい者がいたが、それ以外はお粗末そのもの。三学年になってこのレベルとは、と俺はあきれ果ててしまった。……よくそんな腕で模擬戦を挑もうなんて思えるなってもんだ。


 一部を除けば、あまりに低い戦技。魔法騎士学校の生徒はこれほどまでひどいのか。卒業後の即戦力は数えるほどしかいないだろう。魔法騎士はエリートらしいが……実技に関しては大したことはないな。


「まあ、貴族生たちがいるからね」


 アーリィーは苦笑い。


「彼、彼女らの中で、本気で技量を高めようという意識のある人はそんなに多くないと思うよ。魔法騎士の称号、それ目当てと、あとは卒業後の交友関係の開発が、この学校に通っている理由みたいなものだから」

「まあ、分かる話だな。いわゆる貴族間のお付き合いってやつ」


 ベルさんが足で自らの毛を撫でながら言った。魔族の王様だった人である。社交界やら貴族の付き合いなどには一言ある。


「アーリィーもそうなのか?」

「そうだね、ボクは王子だから否定はしない。一応、エリート校を卒業しておくことで、箔が付くというか。ほら、ボクって控えめに見ても男らしく見えないから、そういう武芸的なもので何かわかるものがあるといいって」


 控えめ? 俺の目には、もう女の子にしか見えないよ、と言ったら、果たしてどんな顔をするだろうね。


「なるほどねぇ……実技は重視されないと」

「うーん、そういうわけでもないんだけどね。あくまでボクや貴族生にとってはって話。騎士家系や一般の生徒たちにとっては、実技は大事だよ。だって卒業後に仕える相手を探す意味でも、実力がないといけないからね」


 ステーキを平らげ、食後の紅茶を一杯。


「授業は昼までで終わったけど、この後はどうするんだ?」

「昼食後は生徒の自由だよ」


 アーリィーは優雅にカップを手に紅茶で唇を湿らせた。


「寮に帰ってもいいけど、することないから自習や研究棟での個別研究とか、クラブ活動をする生徒がほとんどだよ」

「クラブ活動……」


 意外な響きだ。俺も中学の頃は全員参加のクラブ活動をやらされた口で、第一印象はあまりよくない。高校からは当然の如く帰宅部を選んだ。


「アーリィーは、何かクラブ活動を?」

「午後のお茶会部と乗馬クラブ。……幽霊部員だから、ほとんど行ってないけどね」


 聞けば、どうも貴族生たちのお遊びクラブらしい。やることがないから時間潰しに遊んでいるというのが正解のようだ。案外気楽なクラブ活動。


 剣技向上を目指す剣術クラブ、騎馬術を高める実戦騎兵クラブ、魔法研究部、戦史研究部、新戦術考案クラブなどなど。真剣に向上しようと努力する部活もあれば、何をやっているかよくわからない部活もあるらしい。


「クラブ活動は自由だから、別に所属しなくてもいいけど、クラブ活動で成果が認められると成績にも反映されるから真剣な人もいるよ。そもそも、まだ日が高いから寮に帰ってもやることないって人ばかりだから」


 ふうん。俺はアーリィーの護衛でもあるけど、彼女が寮に帰るなら、その後、冒険者業に出かけてる余裕とかあるわけだ。寮での警護は、近衛ががっちりガードできるし。


「そうだ、ジン。よかったら、学校案内を兼ねて、クラブ活動見てみる?」


 アーリィーがガイドを買って出た。……確かに、学校内で彼女をお守りする以上、どこに何があるか、学校の情報は仕入れるだけ仕入れておく必要があるだろう。


「じゃあ、お願いしようかな」

「うん、任せて!」


 ほんと、この娘、俺にめちゃくちゃ好意的な笑みを向けてくるんですけど。……惚れてしまうではないか。好みだからね。

 そんな俺とアーリィーを見やり、ベルさんは何やらニヤニヤしていた。



  ・  ・  ・



 アーリィーに連れられ、魔法騎士学校のクラブ活動というものを見て回るが、まあ話に聞いたとおりで特に何もなかった。だがそれなりに数があるために、寮に帰る頃には日がかなり傾いていた。


 で、帰ったら帰ったで、近衛騎士のオリビア・スタッバーンが俺を待っていた。


「ジン殿、殿下の警護、ご苦労様でした。つきましては、ジン殿にご相談がありまして、お付き合いいただけないでしょうか?」


 ずいぶんと下手に出てくるようになったな、この人は。アーリィーと別れ、話を聞いてみれば。


「我ら近衛隊の戦技向上のため、ぜひ稽古をつけていただきたく!」

「……」

「我ら騎士もですが、魔術師たちも、魔法技量向上と戦術強化のお時間を割いていただきたいと申しておりまして――」


 俺の冒険者ライフ……。


 カッコ笑いカッコ閉じる、みたいな感じでベルさんがニヤニヤする。


 なにこれ、これが俺のクラブ活動? 頼られるのは嫌いではないが、正直言って、面倒臭かった。

 とりあえず、考えさせてくれとだけ答えてその場を辞した俺は、夕食後にアーリィーの部屋に押しかけた。


 オラァ、魔力の取立てだ、こん畜生!


 魔力量はずば抜けて多い俺だが、こんなのが日常になってはとても回復しきれない。パンクするのは目に見えていた。

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