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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第42話、マジックアーチャー


 王都を出て、大空洞ダンジョンを目指す。ミスリル鉱山というホットスポットが出現したせいとはいえ、最近ここの往復が増えたので、少し食傷気味ではなかろうか。


 草原を突っ走るは、馬車――いや、魔獣が牽いている車。見る人が見れば、その魔獣はマンティコアであることに気づいただろう。獅子のような体を持つ恐るべき魔獣が車を引いているというのも異様だが、全速力で突っ走るそれは、馬車などとは比較にならないほど速かった。ちなみにこのマンティコアは、DCロッドで生成したものだ。


 俺は御者台に座り、ベルさんが左隣にちょこんと座っている。突っ走る車のスピードにも振り回されないその姿は、よく考えれば異様である。


「なあ、ジンよ。何で馬車――」

「マ車!」

「――マ車なんだ!?」

「やたらポータル使うなって言ってなかったっけ!」

「いいのか、とは言ったけどー、使うなとは言ってねえよー!」


 飛ばしている分、吹き抜ける風が強い。遮風板は偉大だ。このマ車につけるところがないのが悲しい。ちなみに、ヴィスタは後ろの貨物室に乗っていて、流れ行く景色を無言で眺めている。


「俺、実はエルフってあんまいい印象持ってないんだよね」


 この世界にきてから、英雄時代を含めて色々な人や種族に会ったが、その中でもエルフは何と言うかよそよそしい印象を受けた。

 中にはいい人もいたのだが、エルフ貴族などは横柄な印象を受けたし、あまり好意的とは言い難かった。ドワーフも初見とっつき難いが、酒が入ると陽気になる分、まだ親しみやすいところがある。まあ、こういう比較は両種族とも不本意だろうがね。


「あんまべらべら喋るようには見えないけど、魔法に通じている種族だから、俺の魔法を見てヘソを曲げられても困るかなっと」

「……前から思ってたんだけどよ、ジン」


 ベルさんは気の毒なものを見る目になった。


「マンティコアに牽かせる車出してる時点で、お前の能力隠しきれてないからな?」

「ベルさん、落ち着いて。召喚魔法を使える魔法使いは珍しくあっても、ポータル使う魔法使いよりは全然普通だからね? 言うほどおかしくないからね!」


 だいたい、猫被っているベルさんだって大概だ。形態変化、いわゆる変身で、黒豹だったり、黒い竜型だったり自由に姿変えて、空だって飛べるし。 


「そもそも、なんでマンティコアなんだ?」

「ダンジョンに行く道中に盗賊とか出るって話があるだろ?」


 大空洞へ行く途中のルートには森がある。細いが街道が走っているために、馬車などが通行できるが、逆にそこが待ち伏せポイントとしても機能する。


「いつもは空飛んでるけど今回地上だからな。用心のためさ。マンティコアの牽く車を襲おうという奴は、早々いないだろう」


 シットスラグ団、もといホデルバボサ団の連中と歩いた時は出なかったけど、用心は必要だ。もっとも、馬車とは思えない快足で突っ走っているこの車を止めるには道を塞がなければ無理だろうが。

 ベルさんは納得したように頷いた。


「それもそうだな。……ところで気になってたんだが」


 ちら、とベルさんは後ろ――ヴィスタを見た。


「あの女、荷物ほとんど持ってないみたいだけどどうなんだ?」


 腰のカバン以外はナイフを一本持っているだけに見える。革の鎧に小手、足具と防具はそこそこ固めているのだが。


「ツルハシとか持ってねえし。ミスリル掘る気ないだろ、あれ」


 もしや、こちらに掘らせるつもりとか。……考えれば考えるほど不自然というか妙だ。まあ、それもあるからポータルを使わなかったんだけどな。


「ひょっとしたらあのカバン、俺のストレージと同じように収納魔法になっているかもしれない」


 あまりに軽装過ぎて、そう思える。というか半分そうであってほしいという願望である。ダンジョンに行くのに、弓使いがナイフ一本しか携帯していないとか、付き添うこっちとしては悪夢だ。

 


  ・  ・  ・



 まさにその悪夢だった。

 ヴィスタは、使える武器はナイフしか持っていないとのたまった。


 大空洞ダンジョンに入ってからは、基本モンスターは俺任せになっていた。……まあ、第五階層あたりまでなら、スライムとかスケルトンとかコウモリとか、鎧袖一触だからいいんだけどね。

 ただ問題は、中層あたりからなんだけど。ジャングルエリアとか氷結エリアの敵も俺に丸投げするつもりなのか。前衛もできて、近接戦のほか魔法も使いこなせる同行者って、ひょっとしてそういう意味だったのか。


 第九階層で、休憩と取った際に、ベルさんはヴィスタに問うた。


「聞かせてくれ。……お前は弓使いだろう? なんで弓を持ってない?」

「愛用の弓が壊れていてね」


 ヴィスタは淡々と言った。特に気分を害した様子もない。


「弓を直す材料を求めて、このダンジョンに来たのだ」

「……材料ってミスリル?」

「そうだ」


 ヴィスタが頷くと、ベルさんは俺を見た。


「ミスリルを使った弓?」


 さすがエルフ。さぞ美しく、優雅な弓なのだろうな、と思う。


「見るか?」


 そういうと、ヴィスタは腰のカバンに手を入れた。するとどこに入っていたかわからない大きさの代物がカバンの中から出てきた。


 やはり! 収納の魔法がこもった魔法具だったのだ。


 カバンから出てきた弓は、青白い魔法金属で作られていた。サイズは長弓扱い。そのほっそりした弓は、魔法の杖のようにも見え、わずかに湾曲しているゆえに弓であると主張している。

 ただ違和感はある。握りの部分に手を守るナックルガードのような器具がついていること。そして弓を引くのに用いる弦がないことだ。


「魔法弓か」

「ほう、魔法弓を知っているとは」


 ヴィスタは少し感心したような声をあげた。


「いかにも。これは魔法弓ギル・ク。偉大なる英雄魔術師が作り上げた至高の魔法武器だ。そして私は、魔法弓を扱う弓使い、マジックアーチャーだ」


 ぷっ、とベルさんが唐突に噴いた。ヴィスタはわずかに片方の眉を吊り上げた。


「いま、笑ったのか?」

「いや、別に……」


 ベルさんは俺の顔を見て、ニヤニヤと。


「偉大な英雄魔術師さまが作ったものらしいぞ?」

「……よさないか」


 俺はたしなめる。恥ずかしいからやめてくれ。魔法弓――うん、覚えがある。まったくもって覚えがあるぞ。

 一年ほど前だったか。魔法を弓で撃ち出したら、という発想を基に、試作した武器がある。それが魔法弓。


 本来、弓を使うには矢が必要だ。だが矢を調達すると金がかかるし、作るのは面倒。矢筒に入れられる数も限られるから、通常の狩りでは問題ないが戦闘、特に長期戦での使い勝手はあまりよろしくない。

 それなら魔力の限り撃てて、矢を用意しなくても使える弓を、ということで魔法の弾を撃ち出す弓が作られた。


 きっかけは、そう、エルフの里にお邪魔していた時だった。元より魔力を持ち、魔法と相性のいいエルフたちは、この魔法弓をいたく気に入ってくれたのを覚えている。

 ヴィスタが持っているその青い魔法弓は、俺には覚えがあった。エルフに進呈したものの一つだ。


「壊れた、というのは?」

「ふむ、魔獣と戦った時に弓のリムにヒビが入ってしまったのだ。懐に飛び込まれた私の落ち度であるが、爪で引っかかれたのを弓で受けてしまったからな。……おかげで魔力を増幅させる機能が不安定になって、元の力を発揮できなくなった」

「……ミスリルにヒビって、どんな化物だよ」


 俺は、近くで、魔法弓ギル・クをしげしげと眺め、ヒビの部位を見やる。新しいミスリル銀でリムを作り直し、魔法文字を刻めば修理できるか――などと頭の中で修復プランを思い描く。

 ベルさんが足元から言った。


「それでミスリルを手に入れようってことか」

「そういうことだ」


 ヴィスタは、魔法弓を収納魔法の掛かった魔法具カバンにしまう。


「ドワーフの名工に話を持っていったら、材料がないからと断られた……何をしている?」


 俺はごそごそと自身の革のカバン(ストレージ)を漁る。


「魔法弓使いというなら、修理できるまで代わりのものを貸してやる」

「いや、それには及ばない――」


 ヴィスタが断ろうとすると、ベルさんが口をへの字に曲げた。


「わかってねえな、エルフの嬢ちゃん。ジンは、ナイフ一本しか持ってないあんたに呆れてるんだよ」

「そうは言うが猫くん。魔法弓の代わりなんて早々ないだろう。私だってできればナイフ以外の武器を用意したかったが――」

「ここに魔法弓がある。ちなみに属性は風と雷、火の三種類があるが、どれがいい?」

「は?」


 ヴィスタが呆然となった。淡白な彼女が初めて見せた驚いた顔だった。

ミスリルに傷を作ったという化物のほうが気になる……。

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