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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第40話、魔術師はチートだらけ

今回は、ドワーフのマルテロ視点です。


 ミスリル銀のインゴットを見せられた時、わしは仰天してしまった。


 ジン・トキトモと名乗る若い魔術師。見たところ青臭いガキではあるが、それなりに礼儀はわきまえておる。

 聞けば、まだEランクというが、Cランクでも難儀する大空洞の中層、第十三階層に行った冒険者らしい。冒険者ギルドのソンブルがそういうのなら、まあ、そうなのだろう。とてもこのジンという小童には、そのような実力があるようには思えんのじゃが。


 先の反乱軍騒動で、王都に一部輸入品が入ってこなくなっておる。わしが専門とする魔法武具の鍛冶には、魔法金属が必須。このわし、マルテロはマスターと呼ばれるだけの鍛冶師(スミス)であり、当然、それなりに高額な仕事をこなしておるわけじゃが……いくらわしでも素材がなければ、何もできん。

 ミスリル銀輸入について、まだはっきりしておらん現状、仕事が進まないのは如何ともし難い。


 そんな折りに、大空洞でのミスリル銀鉱山の発見。ミスリル銀の調達になればと思い訪れた冒険者ギルドで、わしは、ジンと出会ったのじゃ。


『ここに、ミスリル銀がありますが。……売るといったら、いくらで買ってくれますか?』


 奴は涼しい顔でそう言った。

 見せられたのはミスリル銀のインゴット。こんな形で見せられるのは、ドワーフか、あるいはエルフの連中くらいだと思っていたわしじゃ。人間の、まさか小童に見せられるとは思いもせなんだ。


 しかもこのミスリル銀が何とも質がよくてのぅ……。不純物がなく、ミスリル銀自体、高品質。それをインゴットで見せられたのじゃ。わしや、その場にいた弟子ファブロが驚くのも無理のないことじゃて。


 すぐにでも片付けたい仕事があったから、ジンよりミスリル銀を買ったわしは、その足で工房に戻った。急ぎの仕事を片付けたが、わしにはまだまだ他にもやらなくてはいけない仕事がたくさん残っておる。ジンから買った分だけでは到底足りない。


 かくて、わしは、再び冒険者ギルドへ。ミスリル銀のことでジンに話をしないといかんし、調達も考えにゃならん。奴の居場所を知らんから、ギルドを通して指名依頼してやろうと思ったら、運よく奴と会うことができた。

 ミスリル銀のおかげで最優先仕事が片付いたことで礼を言えば、お役に立ててよかったと返しおった。わしは、ギルドの談話室を借りると、ジンに再び話を聞いた。


「お前さんから購入したミスリルじゃが……あれはどこで手に入れたもんなんじゃ?」

「大空洞のミスリル鉱山から出たものですよ」

「それがわからん」


 わしは正直に言った。


「もう大空洞内に鉱山業者が入ったのか? そんな話をわしは聞いておらん。個人で掘れる量などたかが知れておるし、ましてインゴットを作れるだけの量を掘れるとはとても思えん。大空洞の鉱山は、ミスリル銀が地表にまとめて露出しておるなら、話は別じゃが」

「……秘密は守れますか?」


 ジンはもったいぶりおった。わしの中で、もしかしたらかなり危険なルートを使って手に入れたものではないか、という勘が働いた。どこかの鉱山関係とか商人から盗んだものかも、という最悪の予想もよぎる。

 じゃが、答えはわしの予想と違った。


「ゴーレムを使って掘り、出てきたミスリル銀を集め、魔法でインゴットにしました」

「……はぁ!?」


 わしは思わず机に派手に手をついて席を立った。


「ゴーレム!? 魔法でって……お前さん――」

「魔法使いですよ。何かおかしいですか?」


 確かに魔法使いではあるが。……この二十歳にも達していないだろう小童が、そんな高度な魔術を? 魔法で金属をインゴットに、というのは言うほど簡単ではない。特にミスリル銀となると、ドワーフやエルフならともかく、人間ならマスタークラスの魔法鍛冶師であるということになるが……。


 ジン・トキトモなる魔法鍛冶師など聞いたことがない。


「ミスリル銀を加工することがどれほど難しいか、わかっておるか?」

「世間ではそのようですね。私にとっては、さほど」


 わしは思わずうなる。果たしてこの小童の言葉を信じることができるかどうか。わしがわかるのは、奴がミスリルのインゴットを持っていたということだけじゃ。誰か他の者が加工したという可能性だってある。


「それを証明できるか? つまり、わしの前で、やってみせることができるか?」

「……」


 ジンは顔を傾け、わしの顔をしばし見つめた後、頷いた。


「先ほども言いましたが、秘密は守ってもらいますよ?」

「安心せい。わしも職人じゃ。己の技を他人に簡単に見せるものではないことがあるのは承知しておる。お前さんが秘密にしておきたい事柄について、他言するつもりはない」


 それでもなお、自分の目で確かめねばならないこともある。

 わしも、ミスリル銀を調達したいと思っておったし、ジンが言うように大空洞の鉱山でミスリルが掘れるなら、ちょうどよいと思った。


 翌日、わしは弟子のファブロを荷物運びに連れ、ジンとその相棒と共に大空洞ダンジョンへ潜ることになった。

 だがここでも、ジンはわしの度肝を抜くことになる。待ち合わせ場所が、奴の借りている宿だった。……何故、わしが奴を迎えにいくような真似をせねばならんのじゃ、と思っていたら。


「ここから、ミスリル鉱山の近くまで移動します」


 案内された部屋に、青い魔法のリングが展開されていた。ポータルという転移魔法らしい。――はぁあああっ!?


 この小童は、わしを何度驚かせるつもりじゃ!? 転移魔法を目の当たりにしたのは、わしも生まれてこのかた初めてじゃぞ! 


 大空洞の十三階層まで、モンスターどもを蹴散らしながら進むことを予想していたわしらじゃったが、途中の厄介な道中を無視して、目的の十三階層に飛んだ。


 聞いてたとおり、肌寒い場所じゃった。氷結エリアを抜けたその先に、例のミスリル銀が掘れる場所があった。


「それでは、ゴーレムを作ります」


 ジンはカバンから魔石をいくつか取り出すと、簡単な呪文――たしか、一言程度の短詠唱じゃと思うが、ゴーレムをたちどころに作り出した。人間よりひと回り大きく頑強なゴーレムどもは、わしらドワーフから見たら、大人と子供みたいな体格差があった。


 複数のゴーレムや魔法人形を操る魔術師……ドールマスターというんじゃったか? わしはそれを思い出した。ジンによって造られたゴーレムたちは、さっそく以前掘ったとおぼしき穴に入り、採掘を開始した。


 そのあいだ、ジンは相棒の漆黒の騎士と呼ぶに相応しい男、ベル=サンと言ったか、その男と周辺の警戒をすると言いおった。


 地面を掘り進めるゴーレム。わしとファブロは採掘用にツルハシや道具を持ってきたが、正直、何もしなくてもええような気がしてきて、しばらく岩人形たちの仕事ぶりを眺めた。


 採掘場所の近くでは、時々モンスターどもの怒号や悲鳴が聞こえてきた。ジンとベル=サンが、やってきた魔物を倒しておるのじゃろう。戦闘も覚悟しておったわしとファブロじゃったが、ここまで暇になるとは思わなんだ。


 小型のゴーレムが掘った岩を集めておったから、それをわしらで検分しつつ、余分な岩の部分を小さくするべく、砕きの作業をやっておく。……暇すぎて、居心地がわるかったんじゃ。


 数時間後、ジンが戻ってきた。集まったミスリル入りの岩の塊から、鉱物を取り出すという。例の鉱物をインゴットにする過程を見せてくれるという。


「マスクは持ってますね? これから毒物を使うので着用を」


 ジンはそう警告した。奴がドワーフも使っている鉱山採掘用マスクをつけると、わしらも自前のそれをつけた。


 ヴェノムⅢという、強力な酸の魔法による岩塊の除去。強烈な蒸気をあげて溶ける岩。ジン曰く、ミスリル銀は溶けないという。ファブロは「本当に溶けてないんですよね?」と蒸気を上げる岩とミスリル銀を見ながら何度も聞いていた。ドワーフにあるまじき小心者よ。


 やがて不要物の除去が終わり、ミスリル銀だけが残った。それをジンが魔法を使えば、たちどころに先日買ったものと同じミスリルインゴットが出来上がった。

 もう、目の当たりにしてしまった以上、信じるほかあるまい。だが、やはりこれだけは言いたい。


「お前さん、本当にEランクの冒険者か?」


 明らかに実力者だ。中層の魔物も苦にせず、高度な冶金魔法やゴーレム使役術を持つ。お前のような下級ランクがいるか!


 帰りは、ポータルを通って王都に戻った。ミスリル銀の収穫を見ても、普通では考えられない速度と量じゃった。


「って……なんなんじゃありゃぁっ!!?」


 工房兼自宅に戻った時、わしはとうとう我慢できずに吠えた。


「あのジンって小童! 本当に一人で採掘から冶金までこなしおったぞ!」

「一人じゃないですよ、お師匠様」


 ファブロが胡乱な目で見てくる。こいつはこいつで緊張感がない。


「ベルさんに、ゴーレムとかいたじゃないですか」

「お前、これがどれほどの大事かわかっとるのか!?」


 転移魔法であっという間の移動。まず時間の削減。

 ゴーレムによる疲労無視の長時間労働。人件費不要。強いていえば魔術師の魔力のみ。

 さらに魔術による岩塊除去と合成。設備不要、メンテ不要、燃料代掛からず。


「普通にやったら、どれだけ金がかかると思ってるんじゃっ! たとえ少量だとしても、奴が受け取る報酬額は経費が掛からない分、丸儲け。あっという間に億万長者じゃー!」

「でもそれは、あちらの話であって、こちら側にはあまり関係ないのでは……?」

「……」


 ファブロがそんなことを言う。確かに今回のように自ら赴くのならともかく、いままで通り、ミスリル銀や金属などを購入している分には、大した違いがないような気がする。うん、細かなところで大違いな気がするが、案外大したことがないような気がしてきたゾ。

 わしはそれ以上考えるのをやめた。ドワーフは、自らの仕事以外の細かなことは、深く気にしないものなのだ。


 冒険者ギルドに、ジンのランクアップを申請しておこうと思う。ランクが上がれば、奴もいい仕事を選べるじゃろう。……まあ、その必要はないかもしれんが。



  ・  ・  ・



「なあ、ジンよ」


 マルテロ氏と別れた後、黒猫の姿に戻ったベルさんが言った。


「いいのか? ポータルにゴーレムに魔法合成まで見せて」

「正直に話すしかないだろう。仮にもマスターの称号を持つ人物だぞ? こと金属で生半可な嘘なんて、すぐに見破られる。そうなったら信用問題だろ?」


 俺がそう返せば、ベルさんは小首をかしげる。


「時々さ、お前、自分の能力隠す気ないだろ、って思うことがある」

「相手を選んではいるさ。マルテロ氏は根っからの職人だぞ? 仕事のプロなんだ」

「だから?」

「同じ職人芸――俺の場合では魔法だけど、そういう秘密的なものをおいそれと公言しないものさ。職人は、自ら磨き上げたものを軽々しく人には見せないものだ。マルテロ氏はそれを理解しているよ」

「でもお前は見せたよな?」

「ああ、マルテロ氏が職人だからな」


 俺はベルさんの頭を撫でた。


「秘密は守るように、と念は押してる。それでも気軽にバラすようなら……マスターの称号にふさわしい職人とは言えないと思うよ」

「そういうもんかね」

「そういうもんだよ、ベルさん」

ブクマなどよろしくお願いいたします。

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