第28話、魔石集めに火山に行ってきた
エスピオ火山は、王都よりかなり北に行った場所にある山岳地帯の端にあり、北方は広大なるノルテ海に面している。
所々あふれ出したマグマが流れ、それが海岸に流れ込んで蒸気の壁を巻き上げている。エスピオ火山は熱気と所によっては有毒なガスが噴き出ている危険な場所として、一般人は近づかない。やってくるのは基本、冒険者である。
さて、このエスピオ火山にやってきた俺とベルさんであったが、対火山帯用装備一式を身に付けている。
ファイアドラゴンの鱗製の兜と鎧、火鼠の毛皮で作られたマント、サラマンダーの手袋にブーツと対火属性用防御を重視。というのもマジで溶岩流れているような場所は、熱気が凄まじく、素肌をさらしたらそこから火傷なんてのは当たり前。普通の装備なら燃えることもある。
当然、顔を防御するためのマスクとゴーグルを装着。遠目から見たら、外見で誰か判別つかないことになってると思う。
マスクはドワーフ族が鉱山採掘に使っているものを火山帯仕様に改造したもので、大体の毒性ガスを防ぐ優れものだ。ゴーグルは、目を火山灰などから守るためのものだが、これ自体は特に何か特別な仕様があるわけではない。
ぶっちゃけると、普段つけている安物装備とはお金のかかり方が全然違う。この装備一式売ったら、たぶん十年くらいは無職でも食っていける。英雄時代に頑張って作ったり集めたりしたものだが、こういう時のためにちゃんと取ってあるのだ。
夜で薄暗いが、溶岩の影響で思ったより明るく感じる。たぶん、これ昼にきたら、思いのほか暗く感じるパターンだと思う。ベルさんは黒騎士形態で俺の横を歩いている。
「ジン、あのあたり」
マグマが川となって流れている近くの岸を指差す。
「魔力が濃い。……魔石があるかも」
ふだん猫だったり豹だったりするベルさんの騎士姿。猛牛を連想させる二本の角に頭蓋骨を模した面貌の兜をつけるベルさんは、その二メートルの高身長もあって何とも頼もしい。
俺たちは溶岩川の傍までよると、近くの石を吟味する。
溶岩の熱と魔力の結びつきは、単なる石を火属性の魔石へと変えることがある。なので火属性の魔石を探すなら、この手の火山や溶岩流れる場所を探すのが近道と言える。ただし、生半可な装備では命を落とす。
俺のはめている黒い鱗状の手袋は、サラマンダーの鱗でできている。ただしここで言うサラマンダーというのは火の精霊とかそっちではなく、トカゲみたいな姿をした両生類生物のほうだ。ただこっちの世界ではマジで背中に火がついて燃えていたが。
サラマンダーの手袋は溶岩ですら触れるというが、俺は試したことがない。だが熱せられてかなりの高温になっている石に触れても何も感じない程度の耐火性能なのは間違いない。
耐火装備一式をまとい、もっさい俺と黒騎士のベルさんが溶岩川のほとりにしゃがみこんで魔石を探している姿は、なかなかシュールなものがあるだろう。
大半は魔石未満な石ばかりだった。これらが魔石化するには長い年月が必要となる。が、中には結晶化した魔石もあった。しめしめ……。
ふと、背後に気配。俺とベルさんは武器を手に取る。
やってきたのはフォグラプトルが二頭。二足型肉食恐竜、ヴェロキラプトルに似たスタイルのモンスターだ。赤黒い身体は耐熱性に優れる。うっすらと霧のような蒸気を噴出して、周囲に紛れようとすることもある。なお毒を含んだ霧を口から吐く。
「ベルさん」
「任せろ」
黒騎士は、正面からフォグラプトルに向かう。二頭の霧竜も突進する勢いで突っ込んでくる。ベルさんは赤く輝きをもたらす大剣、デスブリンガーを振るう。その一撃は、硬いフォグラプトルの鱗をあっさりと割き、肉を切り裂き、骨をも両断する。
すれ違った時には、二頭のラプトルは首なし竜となり、熱せられた土壌に突っ伏した。
この火山周辺の環境に生息する魔獣は、耐火性に優れている。その素材も中々希少価値があるので、俺たちは早速、解体。……魔石ゲット! 鱗状の革と爪を回収。
「肉は?」
「毒あるかも」
「じゃ、ベルさん食べていいよ」
悪食なベルさんは猛毒でさえ、ペロリと平らげる。毒殺不可。ベルさんの回復方法は、食べることが一番だと言う。
さて、探索続行である。
魔石を探したり、彷徨っていると、この地方特有の魔獣がちらほらと。
尻尾の先が燃えているファイアリザード――全長二メートル近い大トカゲや、棍棒竜の異名を持つガロテザウロ、溶岩を跳ねるラーヴァスライムなど……。あと、すでに血祭りにあげたフォグラプトルとか。
ファイアリザードは大トカゲだが、身長は低い。それが這ってくるのは剣を持つベルさんには、若干やりづらい相手。が、ベルさんも魔法は使える。炎を吐くファイアリザードも、射程に入る前に、俺とベルさんの魔法で撃退。火を吐く系の魔獣は、大抵、腹の中に火の魔石を持っているが、倒した後の解体で案の定出てきた。
ガロテザウロは、アンキロサウルス型の四足歩行。背中には無数の岩のような装甲、尻尾はハンマー状のこぶがついており、顔が肉食恐竜じみた強面であることを除けば、アンキロに近い姿をしている。見た目どおり防御は硬く、尻尾のハンマーは一撃で敵の骨を砕く威力がある。
だが、こんな奴と近接戦を挑んでやる道理はない。ベルさんは腕を変形させ、暴食の手で装甲ごとガロテザウロを喰いちぎり、棍棒竜は近づくこともできずに沈んだ。
厄介なのはラーヴァスライムだ。こいつは溶岩を泳ぐこともできるスライムで、その身体は触れるものを燃やし金属さえ溶かす。ベルさんのデスブリンガーは魔法金属製で、溶岩でも溶けないが、彼はスライムを相手にするのを嫌がった。……俺だって触りたくないよ。
仕方ないので、土属性魔法で落とし穴作って落とした後に、冷やした水を生成してガンガンにぶっかけて急激に冷やしてやったら、黒曜石じみた黒い石になって果てた。というか、黒曜石かね、これ。
三時間ほど粘って、俺たちはエスピオ火山を後にした。クーラー使って冷やしながらの探索だったが、汗ぐっしょりの有様だった。
王都に帰った頃には日が変わっていたが、お風呂に入って汗を流したのは言うまでもないだろう。
・ ・ ・
翌日、起きたのは昼過ぎだった。
宿で遅い朝ごはん、いや昼ごはんを摂った後、部屋にこもって武具の製作を開始する。
武具合成――素材を用意し、多量の魔力を注ぎ込むことでそれらを掛け合わせて、新しく作り変える。これには術者、つまり俺の想像力がかなり出来に影響する。……なので、最初はかなりの素材を駄目にしてきたが、一年経つ頃にはようやく形になり、いまではまあ、相変わらず魔力を喰うものの、強力な魔法武具を作れるようになった。
その派生で、全体合成ではなく、一部の部位だけ作り変える部分合成による武具合成もこなせるようになった。というか、こっちのほうが魔力の消費も少ないし楽だ。
今回の素材は、長さおよそ二メートルの鉄の棒、火の魔石、ファイアリザードの鱗。
鉄の棒をベースに、片方の先端に火の魔石を接合。魔石がついていない方からおよそ一メートルの間を持ち手とするため、そこにファイアリザードの鱗を巻く。あとはこれに魔力をぶち込んで、接合部分、張り合わせ部分を変形融合させることで、それぞれ部品だったものが一つのモノになるのである。
「合成」
素材が青い魔法陣に包まれる。そこに俺の魔力を注ぎ込むと、魔法陣は赤く輝き、イメージと共にそれらが形となっていく。魔法陣が緑色になれば完成。ちなみに失敗すると魔法陣は一瞬黄色く輝き、次には消えてしまう。
出来上がったのは、火の魔石を先端に持つ槍のような長さの杖。槍と言えないのは、穂先が石の形のままで、刺したり斬ったりは無理だからである。
一応魔法の触媒として魔石を取り付けてあるので、最低限の魔法の杖としての機能はあるが、今のままでは魔法が使える者にしか扱えない。
では、仕上げにかかる。この杖としてのスペックは出来損ないレベルだが、とある目的に特化したレベルには充分。だがまだ不完全なのだ。
俺は杖モドキの柄を左手で支えると、魔力を右手人差し指に集めて、柄に文字を刻んだ。
魔法文字と回路。
魔力の線とその機能を刻んだ文字を刻み込むことで、一定条件で刻んだ文字の効果が発動するようになる。
俺が刻んだのは、スイッチと定めた円に触れると、回路に沿って魔力が走り、杖の穂先についている火の魔石から、十数センチ先に炎を噴射するというもの。
つまり、短射程『火炎放射器』である。
スイッチ式にしたのは、魔法が使えない素人でも、火炎放射が可能なようにするためだ。
放射範囲を十数センチ先に限定したのは、火の魔石の性能(あまりいいのは使っていない)もあるが、特定目的以外に使いづらくするためだ。要するに、対人戦用の『武器』としてはあまり使い勝手がよくないようにしたのである。
刻んだ魔法文字がちゃんと機能するか柄についたスイッチを押して、実際に火が出るか確かめる。……よしよし、ちゃんと火を噴いてる。
あとは、魔石に直接、大気から魔力を吸収する魔法文字を刻んで完成だ。魔石内の魔力を使いきると、ただの石になってしまうが、大気中の魔力を吸収する機能をもたせれば、使用外のときに、魔力を勝手に補充するようになる。
仮称ファイアロッド一型が完成。杖にするか槍にするかは個人的に迷った。いちおう杖としたが、周囲の反応を聞いてから正式な名前を決めようと思う。
俺はファイアロッド一型をもう一本製作する。
そこでふと思う。この鉄の棒に穴を通して風を送り込んだら、火力がアップするのではないか? いや穴をつけなくても、火の魔石と一緒に風の魔石を設えて、魔法文字でつなげたら――
また今度、やってみようと思った。
ロッドと言っていますが、長さ的にはスタッフ。




