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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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194/1908

第193話、対空戦闘


 ボスケ大森林地帯へとデゼルトで向かう。

 魔法装甲車での移動は、もはや定番であるが、図体が大きいので魔法によるカムフラージュは必須と言える。

 ボスケ大森林地帯に出入りする冒険者が増えたと聞けば、なおのことだ。


 森に到着した俺たちは、持ち物の準備をして降車。スクワイア・ゴーレムのブラオ、グリューンには、それぞれ盾の他に二本ずつ魔石のついた杖を携帯させている。

 そしてアーリィーには、エアバレットに代わる新武装を用意した。


『ディフェンダー』


 新型の魔法弩である。エアバレット系の進化系武装。その材質には、王都地下の古代都市で手に入れたオリハルコンと緑白色の魔法金属を用いている。

 弓の部分は防御魔法が備えられていると同時に、通常の矢も発射可能。台座に回転弾倉型のシリンダーを装備。各種属性のオーブをシリンダーに装填することで、各属性対応の魔弾を発射することができる。

 さらに魔力弾倉を装填することで、魔力切れに対応し、継戦能力を高めている。また、所有者の魔力を直接投入できるように魔法文字と回路が仕込まれており、投入魔力次第ではチャージショットも可能。……まあ、この機能については、先日のアーリィーの戦い方を見て盛り込んだ機能である。


「これが、ボクの新しい武器……」


 呆然とした様子で目を瞬かせるアーリィーに、俺は言った。


「君を守る武器だよ」


 そういう意味で、ディフェンダーと付けた。


「ありがとう、ジン! 大事に使うよ!」


 うん、大事に使ってくれ。オリハルコンと例の魔法金属はミスリル以上の強度なので、簡単に傷はつかないけどね。

 あと、先ほど、各種属性と言ったけど、いまオーブ・シリンダーには風のオーブと雷のオーブしか入ってないから、その二種類とチャージショットしか使えない。火とか氷とか水は、また後日の実装だ。


 それでは大森林に入る。むせ返るような緑の臭い。大空洞のジャングルとはまた違う森であるが、魔獣が豊富な場所である。……ホーンラビットの足元への突進はご注意。


 途中、アーマーザウラーの死骸、いやもはや肉もなく残骸と言ったほうがいいかもしれないを見かけた。最近、冒険者が頻繁(ひんぱん)に入るようになったから、その名残かもしれない。


 耳障りな羽音が聞こえた。見れば、緑色の体色に四枚の(はね)を持つトンボだった。ただし二メートル近い大きい奴だったが。トンボはドラゴンフライというが、これだけ大きいと気味が悪い。しかも漏れなく肉食性ときている。

 素早いドラゴンフライであるが……。突っ込んできたところをマルカスがサンダーシールドを構えて、バッシュで応じたら感電して勝手に墜落した。


 さあさあ、先を急ごう。


 道中にホブゴブリンとクソったれな一団と遭遇したが、翡翠騎士団の敵ではなかった。


「グリフォンは出てこないのか……?」


 マルカスがぼやくように言えば、ベルさんが返事した。


「こんな木が多い場所には滅多に現れねえよ。もっと奥のほうへ行かないとな」

「たまに出てくるぞ」


 俺が微笑して言えば、アーリィーは首を振った。


「でも、ここでグリフォンと出会っても、上手く戦えるかな?」

「お互いに戦い難いだろうな」


 しばらく進んだ後、休憩とおやつのパンをかじる。とろりとした蜂蜜をかけたはちみつパンだ。

 移動を再開。フォレストリザードや角兎を退けながら進むことしばし、大森林内でも木々が少なくなってくる一角にたどり着く。

 さて、宝石などの光りモノが好きなグリフォンが寄ってくるという伝承に従って、光りモノのデコイを空に上げる。


「グリフォンが出てきたら、手順は事前に説明したとおりにやるぞ」


 ただグリフォンを狩るだけなら、俺やユナが本気を出せば済むことであるが、それでは他の面々に経験がいかない。

 そして、ついにグリフォンが現れた。……三頭も。あっれー、一度に三頭はちょっと予想外。とはいえ、やることに変わりはない。


 マルカス、サキリス、アーリィーで1グループ。俺、ベルさん、ユナ、ブラオにグリューンでもうひとつのグループを形成。


「ブラオ、グリューン。対空戦闘はじめ!」

『了解』


 二体のスクワイア・ゴーレムはそれぞれの手に魔石つき魔法の杖を保持すると、それを空に向け、魔弾攻撃を開始した。ブラオは炎弾、グリューンは電撃弾を空の敵に放つ。


 上空を旋回するグリフォンたち。ブラオの炎弾は、正直当たる気配がなかった。これは弾速が遅いために、炎弾が目標を追尾しきれないのが原因だ。飛行ルートを予測した、見越し射撃ができるようになるには、経験が不足している。

 一方のグリューンの電撃弾は、弾速が速いために、かなりきわどいところをかすめているのだが、こちらも未来位置の予想能力に乏しいために当たらなかった。

 高射装置のない目視射撃なんて、所詮こんなものである。


「お師匠……」

「こいつらヘタだな」


 ユナの何か言いたげな視線に、率直な物言いをするベルさん。


「牽制になってるからいいんだよ。……あくまで倒すのは、向こうの組だからね」


 そのアーリィーたちだが、グリフォンは攻撃の飛んでこない三人を獲物に見定めたらしい。まず一頭が急降下に移る。

 それを見たアーリィーが、マルカスに指示を出す。サンダーシールドを持つ彼は、すかさず、突っ込んでくるグリフォンの正面へと回る。


「サキリス……狙うよ!」

「はい、アーリィー様!」


 アーリィーは『ディフェンダー』を構え、魔力チャージを行う。サキリスもまた魔法を唱えるべく身構える。急降下から低高度へ降りてきたグリフォンが浅い角度の降下に切り替える。そうしないと地面にぶつかって自滅するからだ。

 一直線に飛行しながら向かってくるグリフォン。一撃離脱、足の鉤爪での引っかきか、あるいは獲物を掴んで空へと上がるか。


「当てる……!」

「失敗しても、おれが防ぎますから、ご安心を!」


 マルカスが背後の二人に声をかける。今回、彼の役割は、迎撃役の前に立つ壁である。故にマルカスは飛び道具を一切持っていない。


 グングン迫るグリフォン。それは数秒にも満たない時間。だが充分迫ったその時、アーリィーは引き金を引き、サキリスはライトニングを放った。

 二つの魔弾は、グリフォンの胴体を撃ち抜き、その獅子の身体を貫通した。絶叫と共に、グリフォンが墜落、そのまま地面に激突して、三人の前まで土を抉りながら進んでくる。マルカスが盾を構えて、踏ん張るが、衝突する前にグリフォンの死体は止まった。


「ふぅ。……お見事!」


 マルカスは後ろの二人に笑みを向けた。


 グリフォン攻略法その1。獲物に狙いをつけて突っ込んでくる時が、一番当てやすい。距離が離れるほど、威力が減退する魔法も、敵が近づいてくるのなら問題はない。ただ引き付けすぎると危ないが。

 スクワイア・ゴーレムたちも、ああやって向かってくる時に狙えば、たぶん当たっただろうことは間違いない。

 そうこうしているうちに二頭目が、アーリィーたちの後方へ回り込む。相手の死角から攻める――グリフォンも馬鹿ではないということだ。


「でもね……!」


 サキリスが振り返ると、緩降下中のグリフォンに先制のライトニングを放った。だがその電撃弾は、途中の空間をすっ飛ばし、突然現れたように映った。おかげでグリフォンは対応できずに胸に一撃を喰らい、態勢を崩す。


 俺が教えた投射魔法の裏技を実践したのだ。距離が遠くて減退するなら、相手の近い場所から魔法を具現化させればいい。魔力の塊を自分の近くではなく、相手に近い位置で投射魔法に変換すれば、無駄な魔力を消耗せずに威力の高い一撃をぶつけることができる。さらに回避しづらいというおまけ付き。


 よろめいたグリフォンにサキリスとアーリィーが追い討ちの魔弾を叩き込む。二頭目も撃墜。


 三頭目も特に苦労することなく撃退に成功した。なお、スクワイアたちの射撃は、一発も当たらなかった。


 俺たちはグリフォンを解体し、依頼に充分な分を回収すると、帰還した。

 訓練でやったことをきちんとこなしているアーリィーたちの成長を見やり、俺もベルさんも穏やかな気分だった。

おそらくこのお話が投稿されている頃、PV100万を超えていると思います(遠征のため予約投稿)。

一度もランキングに乗らないままですが、その割には頑張ったかなと思います。これも読みに来てくださる方々のおかげであります。まことに、ありがとうございます!


次の次から学生冒険者編の締めのお話に入る予定。あの娘は魔法騎士になれるのか、はたして。

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