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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第192話、対空対策に魔法を見直す


 最近、ボスケ大森林地帯に足を踏み入れる冒険者が増えたらしい。


 俺が作り、話題になってしまった魔法靴『エアブーツ』の戦闘バージョンには、グリフォンの羽根が素材として用いられる。そのグリフォンが生息し、比較的目撃例が多いのが、ボスケ大森林地帯だ。


 現在、エアブーツは人気商品となっており、探索系冒険者が持つべき道具トップ5の中に入っているのだという。廉価版である加速だけバージョンでさえ、初心者冒険者が欲しい装備のひとつとして数えられていたりする。


 ギルドでも、グリフォンの羽根目当ての討伐依頼が連日張り出されている。グリフォンのモンスターランクはC。当然、冒険者の依頼もCランク依頼となっている。

 Bランクの俺は受けることができるが、先日アーリィーたちがDランクの冒険者となったので、ひとつ上のCランク依頼も受けられるようになっている。


「というわけで、グリフォン狩りの依頼を受けようと思います」


 俺は、翡翠騎士団+ユナに告げた。冒険者ギルドの一階フロア、掲示板からやや離れて、一同を見回した。依頼の張られた掲示板を見るために、冒険者が通りかかる。

 以前、アーリィーと近衛隊は、エアブーツ素材のためにグリフォン狩りを経験しているが、サキリスやマルカスは初めてだった。


「まあ、俺たちは、すでに全員エアブーツを持っているが――」

「お師匠。私はまだ持っていません」


 手を挙げるユナに、俺の声のトーンが下がる。


「――持っていない人もいるので、うん、ついでにこちらも揃えておこうか」


 ボスケ大森林地帯は、魔獣の森と呼ばれ、大空洞ダンジョンとはまた違った、しかし手強い魔獣が多く生息する。グリフォンを含め、大型の魔獣もいるので、これまで以上に注意が必要だ。


「さて、他の魔獣も厄介ではあるが、目的はグリフォンの討伐だ。つまり、空を飛ぶ相手との戦いを想定する必要があるわけだ。飛び道具や投射攻撃魔法……使いようによっては補助魔法も役に立つ」

「ウェイトアップだね」


 アーリィーが言えば、サキリスが顔を向けた。


「重量アップの魔法ですか?」

「うん。相手の翼に負荷をかけてバランスを崩すんだよ。ジンがそれでワイバーンを墜落させたんだ」

「ワイバーンを!? そんな技が……」

「はい、静粛に!」


 パンパンと手を叩き、注意をこちらに戻す。


「そんなわけで、グリフォンなどの空中の魔獣に対する手段を複数用意し、その手順と必要なら訓練を行う」

「……もうあんたは、すっかり教官だな」


 最近、高等魔法授業で、俺の講義を受けるようになったマルカスが苦笑した。これには俺もつられて苦笑い。


「さて、せっかくご指名をいただいたので、魔法科目の授業と行こうか。――高度を取る魔獣に対しては、必然的に地上で相手にするよりも距離が伸びてしまう。だが魔法を使うに当たって、この距離が遠いというのは不利に働く」


 何故なら。


「魔法というのは基本的に、遠くへ飛ばせば飛ばすほど、魔力が減少して、威力が下がる傾向にある」


 すなわち、魔力減退。


 投射魔法のファイアボールで例にあげるなら、目標にぶつけるまでの間も燃え続けているわけで、これに空気抵抗や、火の玉を構成する魔力が燃焼し続けていることによって、段々弱くなっていくのである。


 アイスブラストなら、一度氷の塊を形成してしまえば魔力が逃げることはないが、空気抵抗を受けやすく、また重量により、やはり遠くへ飛ばすほど威力は下がる。


 多くの場合、投射魔法は術者の視認範囲で行われる。突っ込んでくる戦士などより遠くから攻撃できる点が利点であるが、射程で言えばクロスボウと互角、弓に対して劣勢だ。

 古来より、魔法使いが弓兵に弱いのはそこだ。……もっとも防御魔法があるので、術者によっては一方的に負けるということもないが。


 では、遠くの敵にはどうすればいいのか?


 この世界の一般的な魔法学、攻撃魔法術によれば、投入する魔力を増やすとされている。つまり、遠くへ飛ばすと威力が下がるなら、もとから威力の高い一撃で放てば、目標に当たる頃にもそれなりの威力でぶつけられる、ということらしい。


 ぶっちゃけると、魔力の消耗が大きい割りには、あまり効率がよろしくない。術者が早々に魔力切れを起こすので数も撃てない。この世界の高名な魔法使いもそれを知っているから、超長距離攻撃魔法なんてものが発展してこなかったのである。

 俺が魔力を大消費して使う、光の掃射魔法みたいなのがないのも、結果的にそこだったりする。


「では、空から襲撃してくる魔獣にはどうするべきか? やりようは色々ある。魔法にこだわらなければ弓やクロスボウで対抗する方法もある。例えばグリフォンなら、地上に降下してきたタイミングを狙うという手もあるだろう。……もっとも、敵は高速で突っ込んでくるから、危険な方法でもあるが」


 いつの間にか、翡翠騎士団のメンバーの後ろに、冒険者たちが数名立って、俺の講義を聞いていた。若い魔法使いや魔法剣士、弓使いなどもいる。


「魔法は、遠距離での攻撃はあまり得意ではないが、これもまたやり方次第だ。ということで、距離の離れた敵への攻撃魔法について少しレクチャーしよう。魔法が不得意な者でも攻撃魔法が使えるなら、ちょっとした威力アップが見込める裏技だ。……よろしいか?」


 マルカスとユナ、後ろにいた冒険者数人が頷いた。いつの間にか集まっているギャラリーに、サキリスはビクリとして周囲を見回している。


「結構、では説明しよう」



  ・  ・  ・



 冒険者ギルドでの即席魔法講座の後、俺たち翡翠騎士団は学校に戻った。

 校庭にある訓練場で、魔法の練習である。……口で説明しただけで、全部出来たら誰も苦労しない。実践して、使い物にするのが肝心だ。


 なお、授業外での訓練場での魔法使用は、教官の許可が必要である。……もっとも、許可する側の人間であるユナがこちらにいる以上、他の使用者がいなければほぼ自由だ。


 (まと)代わりに、土の塊を魔法で生成。俺からの説明を受けた翡翠騎士団の学生たち+ユナが、さっそく投射魔法を撃ちこんだ。……くそ、ユナめ! 一発で的を吹き飛ばしやがって。お前の的だけ防御魔法つけてやる!


 それはさておき、やらせてみた結果、最初は戸惑いこそ見られたが、回数をこなすうちにそれぞれ魔法の威力の向上が見られた。


 以前、ベルさんに「スライムしか燃やせない」程度のファイアボールしか使えないと言われたマルカスは、初級魔法使いのそれと同レベル程度に威力が上がった。なお彼は、ついでに風属性の投射魔法であるエアブラストを使えるようになり、さらにライトニングもどきを覚えるきっかけを掴んだ。


「……なるほど、魔力の塊を飛ばすんだな?」

「ファイアボールだろうが、ライトニングだろうが、もとにあるのは同じ魔力。違うのはそれを魔法としてどう形にするかでしかない」


 俺は説明した。


「投射魔法と呼ばれるものの基本はどれも同じ。あとはその具現化させた炎や雷、水などがどういうものかの理解を深めればいい」

「教科書よりわかりやすいな」


 マルカスが皮肉げに言えば、俺は肩をすくめてやる。この学校の魔法の教科書は俺も見たが、最初の数ページで投げ出したくなったのを覚えている。


 魔法とは何か、神とは、属性とは、精霊とは――延々と、長々と抽象的に書かれたそれ。さっさと使える魔法を覚えたいという人間にとっては、苦痛以外の何物でもない。しかも意味があるかと言われると、三行で済むものを一ページ使って説明したものなので、ありがたみは欠片もなかった。


 一方で、サキリスとアーリィーはそれぞれ、攻撃魔法の威力を高めていた。学校での魔法授業での成績がよい二人である。特にサキリスはバインド系の補助魔法を先日教えていた手前、投射魔法の裏技への対応がすこぶる早かった。


「あとは、実際に動いている的に当てられるか、なんだよな……」


 実戦と訓練は別物である。訓練で出来たことが実際にできるのか。殺意むき出しに襲い掛かってくる敵に対し、どこまで集中して挑めるか――それはやってみないとわからない。

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