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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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192/1908

第191話、酔っ払いたちの話

 

 巨漢のドラゴンスレイヤーにして冒険者ギルドの長ヴォード。

 ダークエルフの女魔法使いにして副ギルド長ラスィア。

 巨乳の魔法科教官にして魔法使いのユナ。


 三人での飲み会。その話題の中心は、共通の知り合いである冒険者、ジン・トキトモという少年のこと。

 その中で、ラスィアはひとり居心地の悪さを感じていた。ヴォードもユナも、ジンのことを話すが、なにせラスィアは、二人の知らないジンの事柄を知っているからである。


 ――彼が、かの英雄として名を馳せたジン・アミウールだと知ったら、どういう反応をするのかしら……。


 しかし、これは決して他言しないというジンとの約束である。


「――ジンは、どういう経緯でアーリィー殿下の護衛を務めることになったんだ?」

「それはわからない」


 ヴォードの問いは、ユナに向けられる。


「ただ、二人は親密な関係みたい。お互いに名前を呼び捨てにする関係」

「一国の王子を呼び捨てにするとは……いやはや」


 これにはヴォードも苦笑いである。


「よく周囲は黙っているな」

「当のアーリィー様が、文句を言わない」


 ユナは酒で唇を湿らせる。


「むしろ、お師匠に文句を言えば、アーリィー様の機嫌を損ねてしまうと判断したのでは」

「なるほど」


 いったい何者なんだろうな、奴は――ヴォードは呟く。


 言いたい。言ってしまえば、このムズムズから解放されるのかしら――ラスィアは唇を噛み締める。


 とはいうものの、ジンが英雄なのはわかるが、アーリィーとの関係がどうなのかについては一切知らないラスィアである。友人のように見えるが、果たして何が接点なのかは、皆目見当が付かない。


「ひょっとしたら、どこかの国の王子だったり……?」


 ユナがそんなことを言い出した。


「お師匠と一緒にいるベルさんが言ってた。あの方は、とある国の王族で、呪いを受けて、猫などの獣の姿になっているのだと――」


 え、それは初耳なんだけど――ラスィアは目を丸くする。


「あのベルさんが、王族……?」


 ヴォードが腕を組んで唸った。


「確かにあの、人の姿になった時の威風堂々たる振る舞いには貫禄があるな。剣を振るう彼は、まさに強者そのもの。……なるほど、詳しくはわからんが、もしかしたらその国の王だったのやもしれんな」

「すると、お師匠は、ベルさんの息子だったり……?」

「ありうるな。あの二人はよく一緒に行動しているし、関係を悟られないように秘密にするということも、王族ならなくはない」


 いや、それはないと思うのだけれど――ラスィアは思ったが口には出さなかった。ジン・アミウールの相棒たるベルさんについては、確かに教えてもらっていないことのほうが多い。でも、親子ではないと思う。


「ベルさんが王であるなら、ジンとアーリィー殿下の接点はそこかもしれないな。ヴェリラルド王国と付き合いのある国……それも、一般には知られていない遠い国の王族で、交流の一環でジンとベルさんが来ているとか。互いに王子同士なら、友人として呼び捨てにすることもあるかもしれない」

「それなら筋が通るかも」


 違う、そうじゃない――ラスィアは必死にその言葉を飲み込んだ。ぶるぶると身体が震える。二人とも、それなりに酒がはいって、ほどほどに酔っているようだった。

 それから話題は、ジンの持つ武具、魔法具に及ぶ。


「あの学生たちの持っていた武器や防具、あれが全部、ジンの作った物というのは……」

「彼、ヴィスタさんの魔法弓を作ったそうですし、ユナの持っている蹂躙者の杖もそれですから」


 ラスィアは、以前よりジンが武器を作ることを知っているから、さほど驚かなかった。しかしヴォードは違う感想を持ったようで。


「あいつは、魔法鍛冶師としてもやっていけるんじゃないか? ……そういえば、マスター・マルテロもあいつを評価していたな」


 自身もオリハルコン製のドラゴンブレイカーを直してもらった手前、その実力は疑いようがない。


「ユナ、学生たちが持っていた武器や防具、一通り教えてもらっていいか?」


 こくり、と頷いたユナは翡翠(ひすい)騎士団の面々の装備を思い浮かべながら説明した。

 コバルト金属とフロストドラゴンの鱗を用いた軽鎧。フレイムスピアにビースピア、フロストハンマー、サンダーシールド、エアバレットにサンダーバレットなどなど。


「盾に電撃か……面白いな」


 ヴォードは相好を崩した。


「あの人形もどきも充分凄いが、あのデゼルト……魔法車か。あれはいったいどう手に入れたというのか。まさか作ったなんてことは――」

「お師匠のことだから、作ったのでは?」

「デゼルトって何?」


 ラスィアは聞きなれない単語に首をかしげた。確か、ジンの所有する魔法車はサフィロという名前だったような。


「化け物みたいにデカい魔法車だ」

「サフィロより大きくて、人がいっぱい乗れる」


 ヴォードとユナが言った。今度はラスィアが置いてけぼりをくらう番だった。


「え、そんなの初めて聞きますが?」

「見せられたのはつい最近」


 とユナが補足した。少し目を離したらこれである。ラスィアは頭を抱えた。


「大丈夫? 飲みすぎ?」

「……ええ、一杯飲みたい気分よ。マスター! おかわり!」

「ずっと気になってたんだが」


 ヴォードはユナを不思議そうな目で見る。


「お前、ジンのことをずっと師匠呼びなんだな」

「お師匠は、私よりもはるかに魔法を極めたお方。あの方のおかげで、私もより高みを目指せる」

「Aランクのハイ・ウィザードであるお前が……。かつては天才の名をほしいままにしたユナ坊が……いてっ!」


 ヴォードが顔を歪めた。どうやらテーブルの下で、ユナの蹴りが入ったらしい。


「実際、一緒にダンジョンに行ったおかげで、魔法をさらに数段向上させられた。いまなら、ラスィアにも負けない」

「ほほぅ、言ってくれるわね」


 ラスィアは好戦的な笑みを浮かべた。天才魔法少女と言われたユナとも、互角以上に渡り合う魔法の使い手として知られたラスィアである。英雄ヴォードと同じパーティーで数々の冒険を繰り広げた魔法使いは伊達ではない。


「ユナの魔法をさらに向上させた、か……」


 ヴォードは、グラスの中のワインに目を落とした。


「あいつ、どんだけスペック高いんだ……」


 ――英雄ジン・アミウールですもの。

 大陸中にその名を轟かせた魔法使い。戦闘で命を落としたと言われる彼が、少年の姿でこの王都にいると二人が知ったら……。

 ラスィアは北方産の甘口ワインを眺め、言葉と共に飲み込んだ。


「でもまあ……」


 ポツリと、酔った目でヴォードは言った。


「また冒険者として、いろんなところへ行きたいと思った。あいつと、ジンが俺たちの若い頃にいたら、と思うとな。いや、今からでもギルド長なんてやめて前線に戻って――」


 それは願望だ。ドラゴンスレイヤーとして名を馳せ、冒険に身を投じていた頃の。


「私は、まだ二十三だけど」

「歳の話は言わないでください」


 ユナとラスィアはそっぽを向いた。若い頃に――とヴォードが言ったことへの反抗として。

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リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

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