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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1905/1908

第1895話、ドレッドノートⅢ級 対 シェイプシフター艦


 同盟軍第9戦艦戦隊は、漸減部隊として地底シェイプシフター軍への攻撃を行っていた。


「魔導放射砲、発射!」


 戦艦戦隊司令官、スート・アラリド少将は、旗艦『ファート』の艦橋にいた。

 何とも退屈な任務だった。

 天下の同盟軍艦隊が、地上の汚れのように見える敵勢力を極大魔法級の光で蒸発させるだけという簡単なお仕事をやらされている。


「魔導放射砲の魔石だって安くないんだ」


 つい我慢ならずアラリドは声に出していた。


「あんな泥を吹き飛ばすためにバンバン使うものではなかろうに」

「司令、相手はシェイプシフターです」


 戦艦『ファート』のラクトル艦長が言った。


「個々に戦うと非常に危険なモンスターであるという話です」

「モンスターに魔導放射砲か?」


 同盟軍にいても、アラリドのようにシェイプシフターと聞いてピンときている者はほとんどいない。

 何故ならば、大陸戦争においてもジン・アミウールはシェイプシフターの兵が同盟軍にいるという話を公にしていなかったからだ。

 旧連合国時代、ウィリディス式の機械兵器の取り扱いの説明や戦術指導を受けた兵たちは、指導担当の下士官、兵を普通に人間だと思っていた。まさかシェイプシフターが化けて、指導していたなど夢にも思っていなかったのだ。


 だから、同盟軍将校の中には、何故モンスター相手にここまでの安全対策を講じるのか、いまいち納得できていない者もいたのである。

 もちろん、危険性は聞いている。人に化け、いかなる隙間からも侵入し、地底人を絶滅させた敵対的危険種。戦車や魔人機、航空機に軍艦といった機械にまで変身できる。少しの油断が命取りとなると。


「少々反応が大げさではないか?」 


 確かに、ただのモンスターではないだろう。しかし機械に化けるといっても航空機は航空機、戦艦は戦艦に変わりなく、反射的に魔導放射砲をぶっ放すというのは過剰ではないかと思うのだ。かつての大戦だって、同盟軍艦隊はディグラートル大帝国、スティグメ吸血鬼帝国、異星人の機械戦艦と撃ち合い、これを撃ち破ってきたではないか。


 艦艇に化けるシェイプシフターの戦艦も、同盟軍のドレッドノートⅢ級が撃ち負けるとは思えなかった。大体、シェイプシフター艦の主砲の火力は、同盟軍艦艇の足下にも及ばないレベルと聞いている。

 その時、艦橋に警報が鳴った。


「当戦隊に接近中の大型艦を発見。その数2!」


 索敵士官の報告に、ラクトル艦長は司令官席を見やる。


「敵が来ましたな。転移退避に移ります――」

「待て、艦長」


 アラリドは止めた。


「まだ、地上目標に対する攻撃は終わっていない。作戦は途中だ」

「しかし司令。敵が接近していますが――」

「敵は2隻なのだろう? 近づかれる前に砲撃で沈めればよい。こんな中途半端なところで引き返しては、第9戦艦戦隊の名折れだ」


 アラリドは語気を強めたが、すっと一息ついた。


「もちろん、危なくなるようなら退避はする。よいな、艦長」

「……はっ。主砲、接近中の敵に照準合わせ!」


 艦長が応じると、アラリドは通信セクションの士官へ視線を動かした。


「戦隊各艦に通信。砲撃戦用意! 接近する敵艦に攻撃!」


 第9戦艦戦隊は、旗艦を先頭に陣形を変更する。横陣から単縦陣に。ドレッドノートⅢ級戦艦3隻が、右方向より迫る敵シェイプシフター艦に艦首から艦尾までの六基の全主砲を向ける。


「敵艦トレース、自動照準――」


 砲撃士官が報告し、ラクトルはアラリドに頷いた。


「司令」

「第9戦艦戦隊、砲撃始め!」

「主砲発射!」


 戦艦『ファート』の40.6センチプラズマカノンが青い光線を撃ち出した。大気を震動させるプラズマの弾は、漆黒のシェイプシフター艦の艦首に狙い(あやまた)ず吸い込まれた。


「命中!」


 砲撃士官が声をあげ、アラリドも『よし!』と拳を握った。

 ドレッドノート級によく似たシェイプシフター戦艦は、艦首をズタズタに引き裂かれたが、そのまま全速力で飛んでくる。


「次弾、発射!!」


 ラクトルは叫んだ。直撃だった。敵は防御シールドはないようだが、誘爆することなくさらに突っ込んでくる。

 体当たりでもしようとしているのではないか――戦術教本で、大帝国や吸血鬼帝国の体当たり戦闘機について学んでいるラクトルである。一瞬よぎった不安だが、一度始まった戦いは簡単に収まらないのだ。


 砲撃は確実にシェイプシフター艦に命中を重ねる。ダメージを受けているようで、艦首から崩れていっているのだが、まだまだ爆発、もしくは墜落する様子がない。


 あと一発――!

 狙いをつけている敵艦はもう破壊できそうなのだ。そのように見える。光弾は艦体内部に入り込んでいるのに、機関を吹っ飛ばして墜落させる様子はない。

 とうとうアラリドが司令官席から立ち上がった。


「何故、沈まない!」


 それでラクトルはハッとした。このまま接近されてはまずい。


「司令! 撤退命令を!」

「撤退だと!? あと一息だろう――」


 信じられないという顔をするアラリド。だがこのやりとりがこの艦の最期を決めた。


「敵艦、衝突コース!」

「回避運動! いや、シールド出力――」


 手遅れであった。シェイプシフター艦は一切砲撃してくることなく、自身が巨大なミサイルであるかのように突っ込んだ。

 防御シールドに直撃し、シェイプシフター艦のグズグズの艦首を潰す。何とかシールドで防げるか――そう乗員たちが思ったが、シールドを強引にぶち破り、そのまま『ファート』にぶつかると艦体後部に積まれて攻撃が届かなかったシェイプシフターエンジンが爆発、誘爆しドレッドノートⅢ級戦艦を爆発させたのだった。


 続いて敵二番艦が、『ファート』に後続していたドレッドノートⅢ級に激突し、こちらもシールドでその身を半壊させながら残り半分で体当たりを完遂すると爆発、轟沈させたのだった。

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― 新着の感想 ―
慢心ダメ、 絶対。 この脳筋提督の所為で、 地底シェイプシフターが、 武装に関して学習してなければ良いのですが。
末端の驕りと過信は人間ならいつだってなくならないのさー。
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