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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1904/1908

第1894話、奇妙な戦争


 掃討作戦は中止だった。

 地上に転移で戻った俺たち同盟軍討伐艦隊。

 さっそく情報は軍司令部に共有され、俺は同盟議会の非公式会談に出席した。例によって例のごとく、議長であるジャルジー・ヴェリラルド王が待っていた。


「作戦は失敗か?」

「失敗ではない、中止だよ」


 言い訳じみているが、これについては人の解釈にもよる。


「艦隊の戦死者はゼロ。沈没艦艇もなし。敵艦艇およそ200隻撃沈……これだけ聞いたら大勝利だよ」

「確かにな」


 ジャルジーは頷いた。だが俺の表情は、たぶん曇っている。


「だが話が違うだろう? そもそもこの作戦に敵は艦艇を使ってくるなんて一言もなかったし、あまつさえ、200隻以上も投入してくる。……地底シェイプシフター軍は大部分を喪失していて、あとは地上掃討するだけの戦力しかないという話ではなかったのか」


 現場からとしたら、こんな話にない作戦などやっていられるかと軍司令部に文句が飛ぶところだ。あるいは敵情を掴みきれていない情報局辺りへの愚痴が出るだろうな。


「前提から狂っている。その中でこれは、現場はむしろよくやったと褒めるべき状況だな。自画自賛ではないが、少なくとも現場が責められるようなヘマは何一つしていないよ」


 ということで、俺以外にこの作戦に参加した艦隊乗組員には追加報酬を出しておいてくれ。戦地に赴く兵隊には特別手当が支給されるが、俺以外の全員に支給額アップしておいて。


「兄貴はいいのか?」

「お金には困っていないからな」


 通常分の従軍の支給だけでいい。


「それにしても、奇妙な戦いだよ」


 倒した云々で言えば、こちらが勝っているというのに。撤退したのはこっちというのは何ともいえない。


「それで、今後の話なんだが……」


 ジャルジーは切り出した。


「宣戦布告、討伐出動しているからには、このまま引き下がるということはないのだろうが……」

「地底全体を焼け野原にするくらいのエクスプロージョン爆弾がいるな」


 それが俺の正直な感想。


「残敵掃討というか、ひたすら爆撃するしかないと思うよ」


 何せ地形になりすまして隠れていたわけだ。そこから艦艇級の巨大シェイプシフターを三桁ぶちこんでさらに他にも隠れているというのだから始末が悪い。


「いっそ地底世界を隔離してしまいたいくらいだ。これ以上面倒になる前にね」

「できるのか、隔離なんて」

「地底の出入り口を転送魔法陣に変える。通過したものを別空間に送り込む。これをするなら、敵が地上にどれだけ戦力を送り込もうとしても完璧に阻止できる」

「悪くない案だ」

「ただしその場合、人類は地底世界を諦めることになる」


 出入り口を塞いだだけで、地底に跋扈(ばっこ)するシェイプシフターはそのままだ。安心して地底開拓などできるようになるわけではない。


「地底の資源は今のところ、ろくに発見されていないが、古代地底人の遺産とか探したいという人間は地上にも少なくないだろう。そういう人たちからすれば、隔離案はネガティブに受け取られる。政府のやることだから、実は資源あってその富を独り占めしているのではないか……とかな」

「それは問題だな……」


 ジャルジーは腕を組んで唸る。


「正攻法でやるしかない、か」


 戦時緊急物資生産法の品目にエクスプロージョン爆弾を追加するべきだろうね。敵は一体も残してはおけない。そういう相手だ。


「地底シェイプシフターが地上の人類排除に動かなければ、もっと話は簡単なんだがね」


 交渉に行ったら殺されかけた。俺とベルさんだからよかったものの、もし正規に同盟軍が大使を送り込んでいたら、地底シェイプシフターに殺されて、大惨事になっていた。

 実に、厄介な問題だった。


「掃討できるのか、兄貴」

「やるしかないでしょ。いつ何時、人類の頭を超えて地上に出てくるかわからない相手だから」



   ・  ・  ・



 かくて地上の軍勢と地底シェイプシフター軍の戦いが続くことになる。

 その物量に関しては決して楽観できず、同盟軍は空爆で地形ごとシェイプシフターを焼き払った。

 第一段階に戻っての敵戦力削り。艦艇は魔導放射砲、爆撃機はエクスプロージョン爆弾で空爆を行った。


 担当部隊はその都度入れ替わり、俺たちが毎度出張ることはない。というか、残敵掃討段階が本番ということで、今はまだまだ前座である。

 地上を薙ぎはらう炎は、地底シェイプシフターを容赦なく燃やし尽くす。


 しかし当然、地底シェイプシフター軍は空中艦艇や航空機を出して、同盟軍の攻撃を阻止にかかった。

 決して楽な戦いではない。実際、転移石を活用した一撃離脱に徹すればよいものを、何を思ったか、敵と交戦し撃破される者も少なからず出た。


 機械のトラブル、気の緩み――防げたこともあれば、事故も同然なこともあった。

 同盟軍の漸減(ぜんげん)部隊が、地底シェイプシフター軍を削る間、俺たちは、地底シェイプシフターについての調査、偵察を進めていた。


 敵がどこに潜んでいるのか。地底シェイプシフター軍を動かしている頭脳――上級司令塔の存在の捜索などなど。地底人資料をあたり、時に地底の空を飛んで、敵の所在を探り出し、同盟軍漸減部隊による攻撃を任せた。


 俺個人としては、地底シェイプシフター軍相手も他部隊に任せることが多くなったことで、ウーラムゴリサ王国の復興と家庭の時間に少しばかり余裕ができた。一時に比べて、という話だけど。……まあ、ウーラムゴリサ王の仕事は分身君と仲良く分け合ってるのは相変わらずではあるが。

 すべては順調……といかないのが世の中。ウーラムゴリサ王都の王城にて雑務をこなしていた俺のもとに、ラスィアがその報を持ってきた。


「同盟軍の一部隊が、地底シェイプシフター軍と交戦して全滅しました」


 漸減を行っていた同盟軍部隊がやられたという。敵さんも同盟軍のヒットエンドランに対策をしてきたのか――

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