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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1902/1908

第1892話、そもそも前提からおかしくなっているんだ


 シェイプシフターのコピーにも段階がある。

 まず見た目だけ。これは姿を真似るもので、中身は再現されていない。サイズを変えることができるシェイプシフターなので、体格と異なるものに分離、変身という時点で他の変身する生物以上の能力がある。


 次に、中身まで変身する。ただ真似るだけでなく、変身対象そのものになる。これが他の変身生物と異なる点と言える。

 シェイプシフターは機械の部品を自身の変身で作れる。要するに道具などを含め、機械もコピーできる。

 その点を鑑みると、地底シェイプシフター軍が用いる漆黒のシェイプシフター艦はというと、最初の段階、つまり見た目だけであった。


『敵艦、突撃しつつあり!』


 戦艦『バルムンク』に響くその報告。俺たちはそれを見守る。プラズマカノンは次々に正確無比な攻撃を、敵シェイプシフター艦に集中させ、これを撃破する。


「シールドはないが、普通はあそこまでプラズマ弾を撃ち込まれたら主砲のエネルギーバンクや機関が吹っ飛んで爆発するものだ」


 別に防御シールドや障壁を展開しているわけではない。それは観測済だ。


「あれがシーパング同盟のドレッドノートやアンバルだったなら、あそこまで堅牢なわけがない」

「つまりは、中身は別物ということだ」


 ベルさんは鼻をならす。


「やっぱ、鹵獲されていない分、中までコピーはできなかったってわけだ」


 まあ、そこまでは予想されていたんだけどね。セカンドベースのデータを吸い出したかもしれないとも思ったが、そもそも艦隊のデータはなかったかもしれない。

 ともあれ、地底シェイプシフターたちは、見た記憶だけを頼りにあれの外観を真似たのがほぼ確定した


「だからか知らんが、主砲は飾りのようだ」


 戦艦、巡洋艦のプラズマカノンが一応発砲しているが、おそらく航空機用のそれを改造して載せているのか、艦艇を相手にするには威力が全然低かった。


 敵シェイプシフター艦が機関部を撃ち抜かれたか爆発し、落下していく。あれは地上に落ちても残った部分がまた形を変えて生き残るのだろうな。


「墜落する敵艦に、エクスプロージョン弾、撃て!」


『バルムンク』のミサイル発射管から追い打ちの攻撃が放たれる。直撃、そして広がる爆裂魔法がシェイプシフターを焼却する。


「これは、よくないな」

「ジン?」


 ベルさんが俺の呟きを拾った。


「どうしたんだ?」

「ちょっと、作戦を中断して撤退するかもしれん」

「何だ、急用か?」


 冗談めかすベルさん。俺は苦笑する。


「戦況が思わしくない。地底シェイプシフターがこのまま力押しでくると、危ないかもしれない」


 今のところ討伐艦隊は、シェイプシフター艦を一方的に撃破している。距離を詰めてくる敵艦だが、遠距離から攻撃し、近づかれた敵にはエクスプロージョン弾で燃やしていた。

 やられた友軍艦はなし。素人目に圧倒的に俺たちシーパング同盟艦隊が勝っているように見えることだろう。

 だが俺には、この戦いがいずれガチガチに対策したシェイプシフター艦による体当たりで味方艦艇が大破、あるいは取り込まれる未来が浮かんだ。


「兵器の進歩というものは早いものだ」


 うちのシェイプシフターたちは経験があるだけ、シーパング同盟艦隊を撃破できるシェイプシフター艦をさほど時間をかけずに作り上げるだろう。

 どこに何を化けて、攻撃を防ぐか。苦手な火属性攻撃の耐え方などなど。いま、地底シェイプシフター艦は、エクスプロージョン弾にやられるか、エンジン部分の誘爆で沈むかの二択の運命を辿っている。

 推進力を得るために、エンジンは完全な状態で化ける必要があるが、これらも航空機用のエンジンの流用、拡大と浮遊石を応用した装置を機械的に再現して行っているだろう。だが実質、ここが弱点となって、俺たちの艦隊からのプラズマカノン砲撃で爆沈している。


 だがここをプラズマカノンでも貫けない装甲に化けることで途端に頑丈になる。これだけでシェイプシフター艦は、同盟軍艦艇に体当たりができるようになるのだ。

 金属製の本来の空中艦艇と違い、シェイプシフター艦はその中身はおそろしく軽いに違いない。軽量であれば、その分パワーの不足を補うこともできる。


 何ならある程度距離を詰めた後、数十機の小型機に変身、分離して近寄り体当たりもできる。

 俺の頭でも考えられるのだから、自分たちの体をよく知るシェイプシフター艦が同様の状態に行き着くのも時間の問題だろう。


「作戦を変更する」


 俺は決断した。


「地上掃討作戦は中止する」

「撤退するのか?」


 ベルさんがここで引くのかという顔をした。まあ聞いてくれ。


「まだ99パーセントの敵を一掃できていない。つまり、まだ地上部隊を投入する段階ではないということだ」


 そもそもの前提から違っているのだ。そのままの作戦で無理やり進行させようと思うのが愚かなのだ。


「だから揚陸巡洋艦ならびに空母戦隊は転移で地上に撤収。次まで待機だ」

「じゃあ、護衛艦隊は?」

「敵戦力を削る」


 つまり、第一弾作戦に戻るわけだ。


「後から後から湧いているからな。偵察隊および観測ポッドは、敵戦力の割り出しを行え。敵の全容を掴まなくてはどうにもならない」


 その上で、いま出て来ている地底シェイプシフター艦を殲滅する。


「こちらも転移戦法で行く。全周対応をやめ、敵を引き寄せたところで後ろをとり、まとめて魔導放射砲を撃ち込む!」


 効率よく行こうじゃないか。

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