第1891話、接近、シェイプシフター艦
『バルムンク』の魔導放射砲は、迫ってきた地底シェイプシフター艦10隻をまとめて蒸発させた。
大帝国が相手でも吸血鬼帝国が相手でも見てきた。光に飲み込まれた漆黒の艦隊は、その光と共に消えたのだ。
索敵センサーに敵影がなくなったことで、俺は一息つく。
「どうやら、バリア系の防御装備までは再現されなかったようだ」
「シェイプシフターは魔法的なものの素養はねえからな」
ベルさんは言うのだが……、それはうちのシェイプシフターの場合で、地底シェイプシフターの場合、魔法を使っているらしいと報告があったんだが。まあ、それはそれとして――
「魔法はともかく、魔法具や装備に関してならコピーできることもあるぞ」
例外はあるということだ。それで、ひとまずシェイプシフター艦隊は消滅させたが――
『新たな敵性艦艇、出現!』
追加のお客さんが現れた。戦術モニターに表示される敵の位置、数は……。
「ふむ、先とは方向がまるで違うな」
「まだまだ連中、潜んでやがるな」
見えている敵をほぼ壊滅に追いやったと思ったら、これだ。未確認の戦力がどこからともなく湧いて出てくる。
「偵察はしているんだけどな」
「上手く化けているんだろうぜ。あいつらそこらの地形に擬態してやがるのさ」
ベルさんの意見はもっともだった。
岩山だったり地面に化けていれば、普通に空から偵察する分だとわからないよな。シェイプシフターの変身能力の怖いところは、変身中、その化けたものそのものになるところだ。
つまりは生き物であれば感知できる熱源なども変えられるために、電波、熱源などはもちろん、魔力サーチですら変身した物体として欺くのである。
「これは丘一つ、丸々シェイプシフターが化けていてもおかしくないな」
「あっ!」
唐突にラスィアが声を上げた。何だ何だ、とベルさんが振り向く。
ダークエルフの副官は、今回の作戦直前に何やら違和感をおぼえたというので、その原因を探っていたところである。
……ということは、違和感の正体がわかったのかな? 気にはなるところだが、とりあえず接近中の敵に対処しなくてはならない。
艦艇型シェイプシフターが次々に発見報告が入ってくる。
第二波は、戦艦級1にクルーザー4が東から。同戦艦1、クルーザー5が南より接近。そして北西方向からも、戦艦1、クルーザー3の小部隊が接近中。
こちらを取り囲んでいるな。範囲が広すぎて、包囲と言っても直接攻撃が届く距離ではないが。
この分だと、地底の至る所にシェイプシフターが潜伏していそうだ。何が99パーセントだ。まだ1パーセントしか駆除できていないんじゃないか、これは。
『さらなる敵群、四方向に出現!』
シェイプシフター・オペレーターが報告した。その位置を見やり、ベルさんは片目を閉じた。
「小出しにしてきやがるな。まとめてこない理由はあれか?」
「魔導放射砲を警戒しているんだろう」
これまで地底シェイプシフター軍は、こちらの奇襲による魔導放射砲で表面上の大部分の戦力を喪失した。
今のように次々に現れている現状、敵総兵力について再検討が必要だが、それはそれとして、敵もただ光に消えていたわけではなかったということだ。
「『バルムンク』より護衛艦隊へ。担当セクターに侵入する敵を各個に応戦せよ。兵装使用自由」
ドレッドノートⅡないしⅢ級戦艦、アンバル改級巡洋艦など、討伐艦隊所属艦艇がそれぞれの担当方向より向かってくる敵シェイプシフター艦に向けて、それぞれ砲を指向した。
理想を言えば、魔導放射砲で塵一つ残らず吹き飛ばすことであるが、そうも言ってられない。
「魔導放射砲は弾数が限られるからな」
確実の威力はあるが、制限がある。のべつ幕なしに使えばすぐに弾切れだ。そして使うからには、多数の敵を葬りたい。射線内にたった1隻しかいないのにぶっ放すなんて、効率の悪いことはできない。
つまりは費用対効果を考えて使え、ということだ。
「包囲しつつ、バラバラに向かってくるのは、明らかにわざとやっているな」
「敵も、魔導放射砲がどんなものか理解しているってこった」
ベルさんは真顔である。
「まあ、こっちの転移奇襲が一発撃ったら即離脱しているのを何故だろうって考えたら、その結論に行き着くんだろうが」
「最初は、攻撃される前に逃げていると思ったはずなんだ」
いわゆるヒットエンドラン。シェイプシフターが取りつく前に退避――と見ていたのだろうが。
「だがそのうちに、こっちの魔導放射砲が連発のきく武器じゃないってことに気づいたんだろうな」
だからこちらの強力武装を使われても全滅しないように、複数方向から少数部隊ごとに向かってきているのだ。
「やはり頭がいいよ。しかもあいつら兵器には人道も何もないから、犠牲を前提に突っ込んできている」
最初に『バルムンク』が一掃した10隻と引き換えに、一発分を消費させた。その次からはさらに戦力を小さく方向を変えて仕掛けてきた。
「次からは何隻で行ったら撃たれるか数えながら突っ込んできているんだろうぜ」
これが人間の軍隊だったら、高い金をかけて育成した兵隊を敵の攻撃パターン把握のための生贄にはできない。……いやまあ、そういう感覚が薄い指揮官なら、威力偵察と称して突っ込ませるのだろうが。
時に指揮官として、そういう役割を兵に担わせることも必要かもしれない……。できればそういう立場には追い込まれたくないし、立ちたくはないものだ。
『敵シェイプシフター艦、護衛艦隊の砲戦距離に到達!』
『各戦隊、交戦!』
ドレッドノート級戦艦が40.6センチ三連装プラズマカノンを発砲。さらに遠距離からのミサイル攻撃も開始した。青い光弾が宙を裂き、漆黒のシェイプシフター艦へと突き刺さる。
表面が削れたが、あまり効いている様子はない。シールドの類いはないように見える。
ベルさんは言った。
「見た目はシーパング艦と同じだが、中身は別物みてぇだな」
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