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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第185話、姿形の杖


 黒の巨人を倒した時、王座の前に宝箱と思われる箱が現れた。

 まあ、何てゲームチックな展開でしょう――DCロッドで確認したら、真っ赤だった。


 はい、罠でーす、どうもありがとうございましたっ!


 俺は有無を言わさず爆発魔法(エクスプロージョン)を撃ちこんだ。あ、やべ、王座もろとも吹き飛ばしてしまった。


 周囲から、あぁー、とため息にも似た声が上がった。しょうがない。だって敵だったんだもの。


 吹き飛び、燃え上がる宝箱もどきは、やがて炭になったが、中にあったものだろう。黒ずんだ杖のようなものが残った。……こちらは、DCロッドの識別では、魔物の類ではなかった。


 漆黒の杖だった。


 杖のようなものではなく、杖である。長さは一メートルと五十センチほど。柄は黒一色で、やや捻じれ、曲がっている。おそらく、もとからそういう形だったのだろう。先端にはオニキスを思わす黒いオーブがついている。魔法を使うための触媒か。魔術師用の杖と思われる。

 俺は歩み寄ると杖を拾う。一応、呪いや魔法的な効果が発動すると困るので、手に魔力の層を張っておいた。杞憂(きゆう)だったけどな。


「なんだろうな、この杖は」


 俺は振り返り、一同を見回す。アーリィーと、魔術師であるユナが近くにきて、しげしげと俺の持つ漆黒の杖を見やる。


「この古代都市遺跡の時代のものでしょうが――」


 ユナは眉間にしわを寄せて、杖を凝視する。


「触媒はオーブ……闇属性のようです。柄は……なんでしょうか。材質は木……、それとも金属?」

「金属にしては軽いな」


 俺は漆黒の杖を軽く振ってみる。ミスリルも軽い金属だが、それよりも軽い。木とも違う。


『貴方が私の新たな(あるじ)様か』


 ん? いま、声がした?

 若い女の声だった。同時に、俺の中で杖がぶるぶると震えだす。突然のことに、俺は思わず漆黒の杖を手放す。 

 落ちるかに見えた杖は、ふわりと浮遊し、床から十センチほど上で垂直に立った。

 マルカスたちが声もなく目を見開く中、ベルさんは小さく首を横に振った。


「またぞろ、面倒なのが出てきたか?」


 デスブリンガーを構えはしないが、いつで剣を振れる態勢をとる。

 漆黒の杖が、黒々とした塊を生み出す。まるで黒スライムのようだ。アーリィーやサキリスも身構えたが、塊は人型をとると、その場に跪き、俺に頭を下げた。


「私を手に取った新たな主様――」


 人型が徐々に形を、人の――漆黒の長い髪を持つ女性のものへと変わっていった。


「私は、シェイプ・セプター。影なるモノ、形変えるモノたちを支配する王の杖にございます……」


 顔を上げたその女は、妙齢の美女だった。艶やかな髪はシルクのような滑らかさを持ち、対して肌は白く、またその顔は妖艶。漆黒のローブをまとうその姿は、妖術師か魔女か。 シェイプ、セプター?


 一瞬、シェイプシフターというワードが頭の中に浮かんだ。ファンタジーなどのゲームで、姿を変えるモンスターとして出てきた、というのが俺の中での印象だ。そういうモンスターが実際の伝説とか伝承に出てくるかは知らないが……。


 セプターというのは、王笏(おうしゃく)、要するに偉い人の杖のことだ。それで、このシェイプセプターと名乗った杖?の言うことを受け取るなら――


「ひょっとして、あの黒スライムとか、この杖があると支配できる、とか……?」

「スライム? 主様、それはシェイプシフターたちでございましょう」


 シェイプシフター――あの変身する黒スライムがそれだったかー。とすると、凄い杖ではなかろうかこれ。この都市にどれくらいのシェイプシフターがいるかは知らないが、それを全部、この杖が支配できるということだから。


「主様。何かご用命はございますか?」


 シェイプセプターは尋ねてきた。えー、と……いや、今は特にないかな。というかまだ状況が整理できていないんだ、悪いな。


「では、ご用命があれば、お呼びくださいませ。私は、主様のモノ。いつでも参ります――」


 恭しく一礼した美女は、その姿を変えて杖に戻った。倒れそうになったので、キャッチしておく。


「……誰か、何か言いたいことは?」

「いいや、別に」


 ベルさんは剣を収め、首を振った。アーリィーとサキリスは顔を見合わせる。ブラオはずっと沈黙を守り、俺がマルカスを見れば。


「そういうのはあんたの専門だろ? 任せるよ」


 と投げられた。ユナは、興味深げに杖――シェイプセプターを見つめる。


「お師匠がマスターだと認められたようですね。これがあれば、あの黒いスライム、いえ、シェイプシフターというのを操れるというのであれば、色々試してはどうですか?」


 ふむ、もっともな意見だ。

 シェイプシフターが敵ではないのなら、この城内はもちろん、古代都市の探索もスムーズに行くのではないか。


 というより――


「ようやくゆっくり探索できるということだな。まだ何かお宝とかあるかもしれないし、じっくり捜索してみようじゃないか」



  ・  ・  ・



 お楽しみの探索タイムだ。お城の中の観光も込みで……ただし罠とガーゴイルだけは気をつけて。


 城内の仕掛けや罠について、シェイプセプターはその時々に説明をしてくれた。便宜的に彼女と呼ぶが、シェイプセプターは、基本、この都市の管理者側が作ったモノなので、城や都市の仕掛けや構造に精通していた。


 さて、肝心の探索の結果、金銀財宝がある宝物庫を発見。金貨などは時代が違うために現在のそれと異なっているが、金は金である。その他、魔法効果の刻まれてた宝石、ミスリルやオリハルコンなどの魔法金属が使われた武具が数点を回収。またオリハルコンとは違うが緑白色の金属を手に入れた。鉄などを用いた武具もあったのだが、こちらは長年の放置で劣化しており、使い物にならなかった。 

 また同様の理由で、衣服や食糧などもなく、紙を使った書物の類もボロボロで回収すらできない有様だった。


 それとは別に、魔石や魔水晶が都市や周囲の空洞に生えており、これらは回収し放題。全部採っていたら、いつ終わるかわからないので今回は少しだけ手に入れ、あとは必要な時に採りにくることにする。この空洞は魔力スポットなので、放置しておけばその分、魔力を蓄えて質もあがる。


 探索を終えた後、俺たちは古代都市を出て、地下水道に戻ると、入り口を土魔法で塞いだ。この都市の存在をどうするべきかアーリィーと話したが、ここのことはそっとしておくことになった。

 そもそも、今回は王国側に黙ってやってるので、見つけた云々以前に、不法侵入でどうこう言われると面倒に他ならない。


 同じ理由で冒険者ギルドにも報告ができない。どうやって見つけたか、という部分で、必ず王国側にもバレてしまうからだ。

 触らぬ神に祟りなし、である。

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