第179話、翡翠騎士団の初依頼
翌日、平日なので学校。昼食の後、俺は学校を出て、ウマンさんの魔法道具屋に向かった。先日頼んでおいた、大蜘蛛の糸を使ったインナー一式を受け取るためだ。
前衛組であるマルカスとサキリスの二人は防具の軽量化を図っている。だが軽さと引き換えに全身を守れなくなっているので、防具の下に着るインナーを強靭なものにすることで補おうという俺の配慮である。……気分的にも、粘液や血液を直接肌には浴びたくないと思うものだし。
その点、道具屋の妖精族職人は完璧な仕事をしてくれた。代金を支払い、ウマンさんに見送られながら、足早に魔法騎士学校へ帰還。部室代わりの秘密地下通路の広間に、集まっていたアーリィーら翡翠騎士団の面々と合流した。
ということでインナーを渡すついでに、マルカスとサキリスには注文されていた霜竜素材のスケイルアーマーにコバルト金属のプレートを貼った軽鎧を渡す。男性用、女性用とそれぞれ作ったが、もとの素材が同じだから、お揃いな色合いになった。
「う、それは何とも微妙な……」
「おい、どういう意味だ?」
微妙な顔をするサキリスを、マルカスは睨んだ。
「翡翠騎士団正式ユニフォームだな」
俺が適当なことを言えば、アーリィーが見ていることもあってか、サキリスもまんざらでもない顔になった。
スケイルアーマーというと、俺のいた世界では、金属や革などをうろこ状に貼り付けた鎧で、服のように動きやすいのが特徴らしい。スケイルとは鱗のことだが、実際に何かの鱗を使っているわけではなかったりする。
が、この世界ではドラゴンが存在するためか、そういう意味合いのスケイルアーマーとは別に、竜の素材を使った鎧という解釈がある。そしてここでも、霜竜という最下級とはいえドラゴンの素材を使っているので、ファンタジー的意味合いのスケイルアーマーとなる。
胴を守る胸甲と肩のアーマーは重厚なコバルト製だが、その他の部分はフロストドラゴンの鱗素材を用いている。コバルトの水色と、白い霜竜の鱗が、爽やかなコントラストを醸し出している。
これに小手と、膝当てがついているが、サイズ以外は男女ともに同じ。そしてサキリスには以前より指摘していた兜を渡した。コバルト金属製でフェイスガードはないが、霜竜の牙と、グリフォンの羽根を飾りにつかったものとなっている。防御はそこそこ、見た目重視――何か間違っている気がしないでもないが。
「マルカス、悪いが盾と鎚はまだなんだ。済まないな」
俺の魔力がもたなかった。サキリスから魔力をもらったんだけどね……。それでも合成で喰う魔力は少なくないんだ。別に締め切りがあるわけでもなく、ストレージに篭ってまでやることもないしな。
「いや、昨日の今日で新しい鎧をもらったんだ。これだけでも充分早いぞ」
マルカスはそう言ってくれた。
「割と真面目に聞くが、どうやったら一日で新しい鎧ができるんだ?」
そういう魔術だよ、とだけ答えた。アーリィーが、ちら、と俺を意味ありげにみた。
「いいなぁ、ボクも何か新しい防具とか欲しいなぁ……」
ちら、ちら、と王子様。
「期待しても、いいのかな……?」
といいながら、今度は上目づかい。うむ、何か作ってあげないといけないな――俺は、アーリィーには甘いんだ。
さて、それはとりあえず後で考えるとして、今日これからの予定を話さなくては。
「実は先ほど、冒険者ギルドに行って、依頼を受けてきた。翡翠騎士団としての初仕事だ」
「お!」
マルカスが声をあげ、サキリスが期待に胸を膨らませる。アーリィーもわくわくしているようだ。うんうん……。そんな一同を見回して、俺は告げた。
「王都の地下水道へ行く。スライム狩りだ」
その言葉に、まわりは何とも言えない表情を浮かべた。机の上で我関せずと言った様子だったベルさんが起き上がると、口もとをニヤつかせた。
「よかったな、お前ら。仕事だぞ」
明らかにテンションの低いルーキーたち。まあ地下水道のスライム狩りなんて、どう考えても地味だよな。
……だがこの時、俺たちはまだ知らなかった。
王都の地下水道に、とんでもないものが存在していたことに。




