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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第178話、トキトモ武具工房


「電撃を流す、だと……っ!?」


 マルカスは、俺が製作したコバルト金属製の盾を持って声を上げた。

 昼食後の青獅子寮。とくに約束はしていなかったのだが、マルカスが青獅子寮の俺を訪ねてきた。王族専用である寮にやってきた彼は、俺専用の魔法工房に通され、俺が自作した盾を見ている、というわけだ。


 ちなみに、一足早く、サキリスもここに来ていて、翡翠騎士団の面々が集合したことになる。

 俺はこの日、二度目になる説明を行った。


「このコバルトシールドには魔石を八つ使っているんだ。……そう、表のそれな。ここから電撃を発生させて盾の表面を覆う。敵が攻撃してきたところを防ぎながら、相手に電撃を流し麻痺させるという攻防一体の防具さ」


 相手が突っ込んできた時のカウンターはもちろん、シールドバッシュでわざと敵に盾をぶつけても痺れ、麻痺などが期待できる。


「電撃はある程度の調整ができるようにしてある。例えば相手を捕まえたい時は弱めに。逆にコウモリなどに襲われた時なんか強めに設定しておけば、盾で守っているだけで魔物が勝手に死んでく」

「……凄い機能だな」


 マルカスは目を丸くして、電撃機能を持つコバルトシールドを見つめる。


「めちゃくちゃ欲しいぞ、この盾……!」


 うん、そう言うと思っていたよ、マルカス君。だから俺は言うのだ。


「作ろうか。君専用のやつ」

「本当か!?」

「ああ、そこにあるのは、もともとアーリィー用で、普段はブラオが携帯するものだから、サイズとかもそれに合わせてあるからな。マルカスの使いたいサイズを教えてくれれば、それにあわせるよ」

「ありがたい!」


 マルカスは喜んだ。サキリスは、コバルトの盾をしげしげと見つめる。


「電撃を流すはいいですけれど、持っている人間は大丈夫ですの? しびれたりは?」

「裏に、電撃を通さないように魔法文字で加工してある」


 俺は答える。もちろん、持ち主が痺れるような自爆防具なんて作るかよ――あ、ひょっとして、そういうのを期待したりしてる?

 サキリスがそわそわしているように見えるのは、気のせいか。もしかして、自分で電撃具合を確かめてみたいとか、そういうことを考えているとか……いや、さすがにそれは。


『ありうるな』


 ベルさんの魔力念話の声は、俺の想像を読んだかのようだった。ちら、と黒猫は目を向けてきた。


『あとで試してやれ』

『そうしよう』


 俺も魔力念話で返した。そうとは知らないサキリスは、青いコバルト金属製の盾をつついた。 


「これは画期的な盾ですわね。攻撃したほうが逆にダメージを受けるなんて」


 ……お前が言うと、何でも変態気質のせいに聞こえるのは気のせいかねぇ。


「確かに軍で配備すれば――」 


 アーリィーが真面目ぶって言えば、マルカスも同意の声を上げた。

 さて、盾のお披露目はそこまでにして、次の品にいってみよう。


「ちなみに、こんなものを作ってみた。……槍だ」


 作業台に、新作の槍を置く。長さ二メートルほどのショートスピア。それが二本である。一本はコバルト金属を使った穂先を持つのは一目瞭然。そしてもう一本は、鋭く尖りつつ金属とは思えない不思議な穂先をもった槍だった。


「まずは、こちらのコバルトを使った槍から。『フレイムスピア』。穂先下のソケット部分に炎の魔石を仕込んである。敵に突き刺した時に、(ポール)部にある魔石文字の円を押し込むと、炎が噴きだすようになっている」


 以前製作した、仮称ファイアロッド一型の本格武器仕様である。魔法を使わずにスライムなどを退治するためのファイアロッドの機能を、槍に盛り込んだ完全なる武器だ。


「ファイア・エンチャントを使わなくても同様の効果が備わっているうえに、刺した標的に高温の炎を噴き出してさらにエグいダメージを与える。……まあ、フロストドラゴンみたいな防御の厚い敵用だな」

「素晴らしい武器ですわ!」


 サキリスは槍を手に取るが、すぐに顔をしかめる。


「ですが、そのような武器があるなら、フロストドラゴンを相手にする前に欲しかったですわね……」

「武器に頼ってドラゴン倒した、なんて言われても嬉しくないだろう?」


 自分の実力で霜竜を倒したほうが、圧倒的に自信になるというものだ。ベルさんのデスブリンガーを借りて竜を退治しても、それは剣のおかげだ、なんて言われたら自信もへったくれもない。


「確かにそうですわね……」


 サキリスが神妙に頷けば、アーリィーが聞いた。


「それで、こっちの槍だけど……。気のせいかな、この穂先、どこかで見たような気がするんだけど」

「殿下もそう思われますか。おれもです」


 マルカスが腕を組んで、眉をひそめた。俺は、既視感があるらしい槍を手に取った。


「ビー・スピア。お察しのとおり、キラービー、その大型種の尾についていた針を穂先に使った槍だ」


 針、というレベルではなく、もはや普通に槍の穂先なのだが。


「そっちのフレイムスピア同様の仕掛けを内蔵している」

「ソケット部分に魔石があるな」


 マルカスが覗き込むように言えば、サキリスは聞いた。


「これも何か魔法的な効果を?」

「キラービーの持つ毒系の魔石を固めて作ったやつでね。こいつは炎ではなく、敵の身体に毒を流し込む」


 毒……! 三人が、一瞬引いた。俺はキラービーの針である穂先に触れた。


「魔力を流して稼動状態にしないと毒は出ないようになっている。キラービーはその名のとおり、人間も殺せる毒を持っているから、扱いには注意が必要だからね」


 俺は槍を作業台に戻す。


「というわけで、サキリス。お前は槍を使っていたけど、よければ使うか? 一本……と言わず両方とも欲しければやるが」

「よろしいんですの!?」


 サキリスが目をパチクリさせる。


「フレイムスピアはコバルトを使っているのでしょう……? お高いのではなくて?」

「貴族の娘が金のことを気にするのかよ」


 いいよ、そんなもの。コバルトと言ってももともとオーク軍の武具を加工しただけだし。それにキラービーの針や魔石などの素材は、翡翠騎士団の共有財産だから。


「そういうことでしたら、ありがたく使わせてもらいますわ」


 サキリスは俺に目礼した。うん、と頷いたあと、俺は一同を見回した。


「それで、皆に相談なんだが、そこそこ多くコバルト金属があって、さらにフロストドラゴンの素材などがあるんだが……これを使って、何か武器とか防具欲しいってのある? 希望があれば受け付けるよ」


 なければ売って活動資金に充てるだけだし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 電気が流れるコバルトシールド、金属製の武器を防ぐと溶接か溶断・溶解しそうだな
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