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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第12話、ジャルジー公爵、憤慨す

「そうなのかっ!?」


 俺は、アーリィーに迫る。彼女はビクリと肩を震わせ、身を引いた。


「な、なな、何のことかなぁ? ボ、ボクは、王子さまの影武者で……」


 めっちゃ目が泳いでいるし、顔が引きつってる。ただでさえ動揺しているところにこの仕打ち。普段、冷静に役を演じているようにはいかなかったようだ。


「だって、王子って普通、男だろ……。何でこうなった?」

「知るかよ。だがオイラの『鑑定眼』は、この娘がこの国の王子だと言っている」


 ベルさんの鑑定が間違っていたことはない。つまりは、本当のことなのだろう。アーリィーは女の子だが、ヴェリラルド王国の王子ということだ。おそらく複雑な家庭事情が、彼女を男として生きさせているのだろう。たぶん、そうだろう。そうとしか考えられない。


「何てこった」


 期せずして、この国の王子様が女の子だっていう秘密を知ってしまった。おそらく国家機密。バレたら一大スキャンダルに発展する事柄で……下手すると俺の命が危ない。国の秘密を不用意に知った人間は、消されると相場が決まってる。


「やっぱ、王子が女の子だってのは、知られたらマズいよな……?」


 俺の言葉に、すっとアーリィーは顔をそらした。どうやら当たりのようだ。……これは口封じされるパターンだから、逆にいまのうちにこの王子様の口を封じておかないといけないやつか?


「そこで、オイラから提案なんだがね、お嬢ちゃん」


 ベルさんが、アーリィーに話しかけた。


「お互い、ヤバい秘密を抱えている者同士だ。ここはひとつ取り引きといかねえか?」

「と、取り引き?」


 アーリィー、いや王子殿下の声は上ずっていた。まだ動揺が収まっていないのだろう。


「嬢ちゃんは、王子だけど女って秘密を抱えてる。ジンは……先ほど見たとおり、強大なる魔法を操ることができる。小国なら文字通り一人で滅ぼせるくらいの危険分子だ」


 たとえ事実でも危険分子と言うのは、やめてくれないかベルさん。あんただって魔族の王様だって秘密抱えてるでしょうが……。


 とはいえ、自分が核弾頭並みに危険なのはわかっている。……そうでなければ連合国に暗殺されかけるものか。


「だがジンもオレも、静かに暮らしたい。さっきはあんたの国の王都が危ないってんで力を使ったが、できればあんな力は使わずに過ごしたいと思ってるんだ」


 ちら、とアーリィーが俺の顔をみた。コクリと頷きを返しておく。できれば、のんびり穏やかに暮らしたい。


「だがジンの力を周りの人間が知れば、その力を利用しようとしたり、あるいは排除しに来るかもしれない。もちろんそうなったらオレたちは力を使って抵抗するだろう。それこそ、この国が滅んでしまうかもしれない……それは嫌だろう、王子様?」


 ベルさんが、ねっとりとした調子で話し続ける。その王子様はゴクリと唾を飲み込んだ。


「そこで取り引きだ。オレたちは嬢ちゃんが女である秘密を誰にも喋らない。その代わり、嬢ちゃんも、ジンが反乱軍を一撃で消滅させたことは黙っていてもらいたい……」

「……つまり、お互いに秘密を守る、ということだね……?」


 アーリィーは窺うように言った。ベルさんは頷く。


「そういうことだ。もし秘密を漏らしたら、報復として相手の秘密をバラす」


 ベルさんの提案。アーリィーは、すっと息を吸って深呼吸すると自身を落ち着けさせる。


「……わかった」


 次の瞬間、少女は、凛とした王子の顔になった。


「ボク、アーリィー・ヴェリラルドが約束する。ジンが使った力、魔法のことは絶対に喋らない! ……その代わり」

「オレたちもあんたが女であることは誰にも話さない。それでいいな、ジン? 神に誓って」

「あぁ、神に誓って、君の秘密については口外しない」


 どの神様だろう、と、言ったそばから俺はそんなことを思った。元から信仰のない俺である。


 ともあれ、ベルさんが話を進めたおかげで、何とかまとまったようだ。魔力の一挙解放で、また頭が充分に働いていなかったからな。この美少女王子様の口を物理で封じることがなくて、本当によかった……。


 というか、ベルさん、その気になればアーリィーのことをその場で殺すこともできたはずなのに、何故やらなかったのだろう。

 秘密を守るって言うなら、他に誰も見ていない現状、それが一番手っ取り早いというのに。……俺が、そういうのを嫌うから自重してくれたのだろうか。


『この嬢ちゃん、物分りがよくて助かったな』


 ベルさんの声が脳内に響いた。魔力念話だ。俺も切り替える。


『おいおい、じゃ物分りがよくなかったら殺すつもりだったのかい?』

『んー、とりあえずジンの魔力を回復させたらな』

『俺の魔力回復と、彼女とどう関係があるんだ?』


 魔力を吸収したが、普通の人間にそれをやれば吸い取る量にもよるが、相手はほぼ一日動けないなんてこともある。俺は遠慮なしに魔力もらっちゃったから、アーリィーも今日一日、ろくに足腰立たないかも――


 とか思ってたら、アーリィーが立ち上がった。少しふらついたが、すぐに真っ直ぐ立っている。まるで何事もなかったかのように。……嘘だろ?


『あー、ジンは知らなかったんだな。アーリィー嬢ちゃんは「魔力の泉」能力の持ち主だよ』


 マジかよ! 魔力の自然回復が早いスキル、というか能力の『魔力の泉』。……俺のような魔力消費大、回復凡人にとっては、めっちゃ羨ましい能力だ。

 というか、彼女が王子でなければ、マジで付き合って、と交際を申し込んだかもしれない。……動機が不純なのは認める。


 そんな俺の脳内葛藤をよそに、ベルさんは口を開いた。


「もう歩けるなら行こうぜ? いつまでもこんなとこにいるわけにもいかないだろ?」

「そうだね」

「そうだな」


 アーリィーと俺は頷く。大森林とおさらばして、王都を目指すのだ。

 歩き出すベルさんに続く俺。その隣に、アーリィーがきて歩調を合わせてきた。


「どうした?」

「えっと……その」


 少し照れているように見えるのは気のせいか。


「ありがとうね」


 なんだ、いきなり? はにかむ彼女に、俺はドキリとした。


「君は王都を救ってくれたんだ。反乱軍の蛮行の危機から」

 アーリィーは遠くへと視線を飛ばす。穏やかな風が吹き、彼女の耳にかかる金髪が揺れた。


「王都を救ってくれて、ありがとう。そしてボクを助けてくれてありがとう……!」


 すっと王子を演じるお姫様は俺に向き直り、頭を下げた。俺は目を丸くしてしまう。ありがとう――ちょっと想像の外だったから、面食らったのだ。



  ・  ・  ・



「反乱軍が消えたッ!? そんな馬鹿な!」


 ジャルジー・ケーニギン・ヴェリラルド公爵は、部下からの報告に声を荒らげた。

 王都より北方、ヴェルペの森近郊に待機するは公爵軍が一千。これは王都を目指して行軍してくる反乱軍を襲撃すべく待機していた。


 曇り空の下、待つことしばし、監視の兵が、ジャルジーの休んでいる天幕に飛び込んできて、反乱軍の消滅を報告した。


「光に飲み込まれて消えました、だぁ!? 貴様は昼間から寝ぼけているのか!」


 ジャルジーの怒号、そして困惑。それは周りにいる臣下である騎士たちも同じだった。


「いったい何が起きたというんだ……?」

「わかりません。ですが、反乱軍およそ一二〇〇の兵が消滅したのは事実であり、つまるところ、我々がここに待機している意味がなくなったことを意味します」


 予定が狂わされた。ジャルジーは頭を抱えた。

 ヴェリラルド国王の弟の息子である自分が、王位につくために立てた壮大な計画。


 迫る反乱軍に対し、王都にて編成された王国軍がこれを迎え撃つ。その軍にはヴェリラルド王国王子であるアーリィーが総大将として出陣することになっていた。


 この一戦で、反乱軍は王国軍を撃破する。そして、事実、そうなった。


 王国軍に潜り込んだ内通者を利用することで、王国軍の命令系統を寸断、誤情報を以って軍をズタズタにしたのだ。その結果、王国軍は全面崩壊を引き起こした。


 その場でアーリィーを討ち取れれば万々歳だが、どうやら逃げられてしまったようだ。捕虜にしたと思った王子は偽者だったうえに、逃亡まで許したという。捜索は続けたが、どちらも発見の報告はない。


 だが、計画は続いている。


 王子率いる王国軍を撃破した反乱軍は、兵力が減少した王都へ攻め込む。

 国王陛下並びに王都住民の絶対的危機! だがそこに救援に駆けつけたジャルジー率いる公爵軍が反乱軍を側面より叩き、撃滅する。


 すべてが上手くいけば、王都の窮地を華麗に救ったジャルジーが英雄として民の人気を得たうえで王位を継ぐ……そういう予定だった。


 アーリィー王子が戦いで死ねば障害はなし。仮に生き残ったとしても、敗戦の将である王子と、功を立てたジャルジー、どちらを民が支持をするか。それによりジャルジーが王位を継承するに有利になる。……通常の手順では、王位継承権第一位のアーリィーに勝てないが故の、裏工作である。


 そのために王都側にも反乱軍側にも通じ、工作をしていたジャルジー。つまり自分が王になるための壮大な茶番であるのだが、その計画は水泡に帰した。


 倒して手柄とするはずの反乱軍が謎の光によって消滅してしまったのだ。これでは民にアピールもできず、王都に立ち寄ろうものなら、反乱軍との決戦に遅参した公爵の汚名を着せられる恐れすらあった。


「公爵閣下」


 臣下たちは、一様にジャルジーを見つめ、指示を待つ。だが彼らの中では、すでにこの場はどうするべきか結論が出ていた。ジャルジーにもそれはわかっていたが、自ら口にするのは躊躇われた。


 これは、屈辱以外のなにものでもない。ジャルジーはギリリと歯を食いしばり、やがて、ため息とともにそれを吐き出した。


「陣を引き払う。領地へ戻る!」


 臣下たちは、公爵の決定に頭を下げると、部下に指示を出すべく天幕を後にした。


「くそっ!」


 ジャルジーは手近にあった兜を掴むと、床に荒々しく投げつけた。

2019/01/01 改稿しました。とりあえず今日はここまで。

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