第136話、ドラゴンキラー
冒険者ギルドのブリーフィングルーム。その机に並べられていく武具。周囲の目は釘付けになる。
火竜の剣。フレイムドラゴンの牙から作り出した片手剣。
雷竜の太刀。こちらはサンダードラゴン素材から作り出した長刀である。
地竜の戦鎚。竜の尻尾に牙を組み合わせた打撃武器。
地竜の盾。地竜の鱗を加工したラウンドシールド。ドラゴンの爪ですら弾く頑強さがウリだ。
火竜の斧槍。いわゆるハルバードだ。これも火竜の牙、爪を使っている火属性の槍。
火竜の牙こと短剣。魔獣解体用に俺がわりと使っているナイフ。
サーペントスピア。水竜の牙を使った槍。
などなど――
他にもあるけど、とりあえず、移動しないと置けなくなったのでここまでにしておく。
ふと、周囲が凍りついたように微動だにしない様に気づく。ベルさんはひとり、黒竜の大剣を磨いているが、他の面々が机に並べられた武具をガン見している。
「あー、ジン君?」
クローガがようやく口を開いた。
「これ、全部ドラゴン素材の武器?」
「ええ、まあ」
倒した竜から作った、と言う必要は……ないか。
「上位ドラゴンを討伐した騎士や冒険者のお手伝いをしたことがありまして、討伐した際のおこぼれで頂いたものです」
とりあえず、それっぽい嘘をついておく。少なくとも、ここに火、雷、地、水の四属性、いやベルさんの黒竜を合わせれば五属性か。それだけの竜素材があるわけで、全部自分で倒したなんて言ったら、また何を言われるかわかったものじゃない。それでも出したのはアーリィーの件があって、ムシャクシャしていたからだ。すまんね。
「これだけの竜の討伐に同行したってか?」
レグラスは驚きつつ、すでに手は、火竜の斧槍に伸びている。
「お前、何者だよ……」
「ドラゴンスレイヤーに同行した魔法使いなんだな、ジン君は」
クローガは「触っていいか?」と俺に許可をとってから火竜の剣を手に取った。
「その、ベルさんもドラゴンスレイヤーの一人?」
「まあ、な」
ベルさんは気のない返事。同じく竜殺しであるヴォード氏が机の向こうから移動すると、ベルさんに手を差し出した。
「竜殺しの勇者が共に戦ってくれるのはありがたい。ぜひ、貴殿の力を貸してくれ」
「よろしく」
不敵な笑みを浮かべてベルさんが返した。ラスィアさんが微笑んだ。
「とりあえず、武器は揃ったようですね」
これなら何とかなるかも――という空気が室内に満ちる。が、俺もベルさんも、そしてヴォード氏でさえ、楽観はしていなかった。
「いや、いくらドラゴンの武器が効果があるといっても格でいえば、古代竜のほうが上。ここにある武器でどこまでやれるか、正直わからない」
「ないよりマシと言ったところだろう」
俺、ベルさんと続き、ヴォード氏も頷いた。
「何より、相手はかなりの大型竜なのだろう? 対竜武具があっても、倒せるほど簡単なものではない。……ジン」
冒険者ギルド長は俺に視線を向けた。
「どう思う? 貴様は少なくとも五回以上、ドラゴン討伐の場にいた」
水晶竜も含めれば六体ですね――とラスィアさん。周囲の視線が集まる中、俺は答えた。
「エンシェントドラゴンは前足が短く、後ろ足が発達し二足歩行が可能です。ドラゴン定番のブレスは熱線。かなり速く、射程も長い。……他のブレスは見ましたか?」
紙と筆をラスィアさんに頼んでいる間に、俺がレグラス、クローガに確認すれば二人は首を横に振った。
「ブレスで遠距離に対応。近接は主に前足や尻尾によるなぎ払い。二足である分、尻尾の一撃は動作が速く、威力も凄まじい」
「……」
ドラゴンテイル、その一撃で魔術師がひとりミンチになった。
「歩けば震動を起こし、その後ろ足で潰しにかかってくる……」
紙と筆がきたので、俺は手早くエンシェントドラゴンの姿を描く。見ていたクローガが「大したもんだ」と呟けば、俺は相好を崩す。……ファンタジー画は昔、趣味で描いていたんだ。
「そして奴の胴体には、埋め込まれる形で巨大な魔石――いや、ダンジョンコア」
「ダンジョンコア!? あれが!?」
レグラスが驚いた。ラスィアさんも絶句する。
「奴がダンジョンコアを持っている以上、ブレス切れは早々起きないでしょうし、あの威力も内蔵魔力の高さゆえだと思います。……あと、おそらくですが、多少の傷も魔力で回復してしまうかと」
「……ああ、ドラゴンの再生力は、他の魔獣とは比較にならない」
ヴォード氏は腕を組んで顔をしかめる。
「奴の防御の固さと魔法が効かないのは、ひょっとしたらコアの力か?」
「その可能性は高いでしょうね。あの古代竜自体が、コアの防衛のための身体かもしれません」
「……そんな奴、どうやって倒せというんだ?」
沈痛な表情のレグラス。一度わいた希望が、消えていく雰囲気。俺は言った。
「だが逆に言えば、コアが弱点です。あれを破壊できれば、古代竜も死ぬか、生きていたとしても大幅に弱体化するでしょう」
「勝算は?」
「なくはない、かと」
あろうがなかろうが、エンシェントドラゴンを倒さないといけない。アーリィーが軍を率いて地下都市ダンジョンに来るとなれば、あれをどうにかしないと彼女の身も危ないから。
「攻撃の主軸は、対竜装備を持った前衛の戦士たちになるでしょう。もちろん上位ドラゴンなので経験豊富な実力者が当たる必要があります。それと、腕利きの魔術師」
「魔術師はいても戦えないだろう?」
レグラスが指摘した。
「奴は魔法も無効だ。探索隊に同行した魔法使いは誰も、奴に手傷を負わせられなかった。それこそAランクの実力者が、だ」
「バックアップをする者は必要です。それに攻撃魔法だけが魔法使いの仕事じゃない」
メンバーの相談をしましょうか。俺が言えば、ヴォード氏は同意した。




