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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第130話、地下都市探索


 砂の平原を越え、地下都市ダンジョンがあるという岩石地帯に到着した時、すでに先行していた冒険者たちが、オークの集団と一戦闘を終えた後だった。


「遅かったな……」


 銀髪イケメン冒険者のシャッハが眉をひそめて言った。ただ俺に向けた皮肉というよりは、魔法車のほうが気になっているような顔だが。


 例のウサギ耳付きフードを被っている少女魔法使いのブリーゼがやってきて、「これこれ」と魔法車に触れたりしていた。

 周囲の注目は浴びてるな、うん。グリーディ・ワームとの戦闘を見ていた者がいると思ったから擬装はしてこなかったのだ。


「やあ、ジン君。無事に切り抜けてきたみだいだな」


 クローガが例によって明るい調子で声をかけてきた。片手剣に盾と騎士スタイルながら鎧はレザーアーマーと軽装。しかしAランク冒険者である。王都防衛戦にも参加しているからか、俺に対しても友好的だ。


「君には、今回も驚かされるな」


 しげしげと魔法車(サフィロ)、その車内を眺める。


 俺、ヴィスタ、ユナを除けば、残っているのは14名。灰色髪の女戦士――ギルド長の娘さんというルティの姿もあった。……馬車二台、7名が脱落と。


「おい、そろそろ、中に進むぞ!」


 シャッハが、やや不機嫌そうな声で皆の注目を集める。

 いちおう、今回の調査隊のリーダーは、この銀髪イケメンということになっている。ちなみにサブリーダーは、レグラスという黒髪の騎士風の冒険者だ。 


 岩山にぽっかりと穴が開き、洞窟になっている。そこが事前説明にあった地下都市ダンジョンの入り口のようだ。

 がっちりした岩盤に開いた穴は、馬車でも余裕で入れそうな大きさがあった。最近見つかった新ダンジョンって話だけど、もしかして、さっきのグリーディ・ワームが開けた穴だったりしてな。


「退路を確保する意味を込めて、ここに三人残す。Eランク、お前はここに残れ」


 シャッハは俺を指差した。……はいはい、名前も呼んでくれないのね。

 他に指名されたのは、リューグという槍使いの戦士と、シルケーというエルフの女戦士でこちらも槍使いだった。ランクは二人ともB。 

 すると、ユナが手を挙げた。


「わたしは、残りたいのですが」

「駄目だ」


 シャッハは却下した。


「あんたは魔法使いだろう。前衛と後衛のバランスを考えるなら、これ以上割けない」

「それならお師匠のほうが優秀ですが?」

「リーダーは俺だ。従え」

「嫌です」


 きっぱり、とユナが反抗した。無表情で何を考えているかわかりにくいユナだが、変なところで頑固だったりする。

 カチンときたらしいシャッハが歩み寄ろうとすると、レグラスが肩を掴んで止めた。


「まあ、彼女の好きなようにさせよう。……ここまできっぱり逆らわれると、かえって一緒にいると連係を崩しそうだ」


 後半は周囲に聞こえないように小声で話していたが、俺はしっかり聞こえていた。ダンジョンに潜る際、味方同士の連携は重要となる。熟練者ほど勝手やわがままを言う者を嫌う。自分の命に関わることでもあるからだ。足を引っ張られるくらいなら、いないほうがマシという理論である。

 レグラスは周囲を見回した。


「他に、何か言いたいことがある奴は?」


 他の冒険者たちからは何も意見がなかった。……てっきり、ヴィスタも何か言うかと思ったが、彼女は黙っていた。

 そう思ったのは俺だけでなく、シャッハもエルフの弓使いを見ていた。

 後衛のユナが抜けたことで、ここで弓使いのヴィスタまで抜けるなんて言い出したら、後ろがヤバイことになる――俺やシャッハ、おそらく数人の冒険者はそれに気づいているのだろうと思う。当のヴィスタもそれを察したから黙っているのだと思いたい。


「よし、では出発する」


 レグラスが頷けば、探索組が洞窟入り口へと歩き出す。シャッハが、俺のほうへ小走りにやってくるといきなり肩に手を回して、内緒話をするように声を落とした。


「……お前のその変わった馬車は、魔法具か何かか?」

「ああ」

「それを動かせるのは、お前だけか?」

「今のところはな」


 何が言いたいんだ? 魔法車が欲しいのか、この男は。


「こいつはかなりの速度が出せる。そうだな?」

「ああ……」

「よし。なら、お前はここに残す。俺たちはダンジョンを探索する。ここで見たものは必ず王都へ持ち帰らなければならない。全員無事に戻れれば最善だが、非常時には味方を置いてでも急いで戻らなくてはならないこともある」


 いわゆる、最悪の場合の話をしているのだろう。俺は先を促した。


「この魔法具があれば、その伝令役に打ってつけだ。もし非常時は、探索隊の中から伝令を出すからそれを乗せて王都へ戻れ。いいか? 必ずだぞ。逆に言えば、俺たちが戻るか伝令が来るまでは、ここにいろ。絶対だぞ」

「わかった」

「……よし。頼むぞ、Eランク。……いや、ジン――」

「トキトモだ」


 最後に俺の名前を言って、シャッハは洞窟へと入っていった。……へえ、非常時のことを考えてね。Aランク冒険者は伊達ではないってことかね。少し、俺はシャッハのことを見直した。


 さて、俺たちは待機である。


 リューグは黒髪で、狼のような好戦的な表情をした槍使いである。小悪党臭がするのは外見のせいか。

 一方で、エルフ女性のシルケーは、長い金色の髪をなびかせ、草色の革鎧をまとう戦士だ。淡々としているのは、典型的なエルフ戦士かもしれない。あまり感情で行動することをよしとしない種族だから。


 二人とも、馬車まわりで槍を手に周囲を監視している。特に打ち合わせをしたわけではないが、リューグが右側、シルケーは左側を見ている。

 俺はユナに場を任せると、一度魔法車(サフィロ)に戻り、ポータルで青獅子寮に戻る。アーリィーに無事ついたことを伝え、食堂で片手で食べられるパンを調達すると、再び現場に戻ると、リューグとシルケーにそれぞれおすそ分けした。


「白パンかよ」


 リューグは少々驚いた様子だったが、受け取った。

 保存の利くパンと言うのは大抵硬い。青獅子寮は王族専用ということもあり、食事は優遇されているし、パンも焼きたてか、それに近いものとなる。だから遠征中にはこんな柔らかい焼きたてパンは、貴重どころではなかった。

 シルケーは「ありがとう」と短い礼を言って、見張りを続けながらパンを口にした。

 俺がちょっと中の様子を見てくる、とそれぞれに告げた時、二人の槍使いは反対しなかった。


「あんま、離れ過ぎるなよ」

「気をつけて」


 それぞれに見送られ、俺はダンジョンに足を踏み入れた。

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