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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第124話、大量のドロップ品


 俺たちが洗いざらい話した後、ラスィアさんは頭を抱えていた。


「すみません、情報を整理する時間をいただけますでしょうか?」

「どうぞ」


 俺とベルさんは、目の前のダークエルフ女性が困惑しているのを尻目に、笑みをこぼしていた。


「約束は守ってもらいますよ。あと、こっちの事情を話したので、もし何か厄介事になった場合、フォローしてもらえると助かります」

「オイラたちは静かに暮らしたい。厄介事が起きた時、オイラたちも身を守るために何をしでかすかわからんからな」

「……わかっています」


 ラスィアさんは顔を上げた。


「ちなみに、ジンさんが今回明かした事実は……他に知っている人は?」

「すべてを知っているのはラスィアさん、あなただけだ」


 俺は言った。


「ジン・アミウールだったのはヴィスタが知っている。ダンジョンコアや車の件はヴィスタとユナ……ああそうそう、王子付きの近衛隊の一部も知っている」


 ポータルの件はマルテロ氏が――もういいです、とラスィアが遮った。


「あの、ジンさん、まことに勝手な相談なのですが……」

「何でしょう?」

「その魔法車や、ポータルという転移魔法など、いくつか実際に見せていただくことは可能でしょうか?」

「いいですよ。秘密を守ってくださるなら」


 実際に見たほうが、理解も早いだろう。


「その代わり、ヴォード氏には上手くフォローしておいてくださいね」

「わかりました。お約束します」



  ・  ・  ・



 そんなわけで、俺とベルさんは、ラスィアさんをドライブに誘った。

 ギルド建物の裏手に、俺がストレージから魔法車を出すと、驚きつつもラスィアさんは複雑な表情を浮かべた。


「これが、魔法車……?」

「ああ、そうだった。ラスィアさん、魔力眼は使えます? それで見ればわかります」


 王都で走る際は、周囲の目からは馬車に見えるように擬装魔法をかけてあるのだ。ラスィアさんが、魔力を通した目で改めて車を見ると。


「こ、これは……何とも不思議な形をしていますね」


 魔法車(サフィロ)を見た時の彼女の表情は、好奇心と驚きが交じり合ったものだった。


「馬のない馬車のようにも見えますが……それよりもスリムで、ですががっちりしている。この車体は、竜の鱗……?」

「馬鹿でかいワニの鱗ですよ、さあ乗って」


 助手席を開けて、ラスィアさんに席を勧めた後、俺は運転席側に回りこんで車に乗り込む。


『おはようございます、マスター』

「やあ、サフィロ。エンジンスタート」


 俺の指示に合わせてダッシュボードの結晶体――ダンジョンコアのコピー・コアがエンジンを起動させた。ラスィアさんが目を剥いた。


「喋りましたよね、いま?」

「ああ、喋ったな」


 特等席について、ベルさんは何でもない調子で言った。俺は顔をほころばせ、安全確認ののち、魔法車のアクセルを踏み込んだ。


 王都を走る。周りは擬装魔法によって馬車にしか見えないので特別注目してくることはない。魔法車は自動車のような音は出さないしな。多少、聞き覚えのない音がするから、近くにいた人は不思議そうな顔をしていたが。


 南門は修理中ということで現在通行止め。なので西門へ迂回し、そこから王都の外へ出た。目指すは、魔獣軍を地の底に沈めた戦場跡。現場を説明するついでに、サフィロとコピー・コアゴーレムの発掘状況を見るためだ。

 助手席で周囲をきょろきょろ見回していたラスィアさんに世間話を振りつつ、俺は運転する。


「王都の軍がダンジョン攻略に乗り出したという話なんですがね」


 聞けば、ラスィアさんは説明してくれた。先日の魔獣軍は、最近発見されたダンジョンから現れたという。


「地下遺跡?」

「古代の地下都市らしいのですが」


 発見した冒険者は、そこから大量のオークやゴブリンが軍勢となって出陣する様を目撃したらしい。あの軍勢をやり過ごした後、王都に帰還し、それをギルドに報告した。


「なので正確にはスタンピードではなく、オークの軍勢だったというのが先の防衛戦における冒険者ギルド、ならびに王国側の認識ですね」


 オークジェネラルが率いていたと報告したから、オークの軍勢なのか。それにしても――


「新しいダンジョンね」


 そう聞いたら、行きたがる冒険者も多いだろうな。ただオークの巣窟と聞いて、どう思うかは別として。


 そんなこんなで戦場跡に到達。周囲に人の気配がないのを確認し、コピー・コアを通してサフィロに転送陣を要請。魔法車ごと、地下へと移動した。

 突然、視界が地下に移動して、ラスィアは目を回したが、俺とベルさんは窓から差し込む人工的な照明に気づき、車を降りた。


『お帰りなさいませ、マスター、それとベルさん』


 浮遊台に乗ってサフィロがやってくる。地下には、ルイーネ砦地下の神殿遺跡同様の青色の魔石灯が設置されて、地下の空間を照らしていた。

 ゴーレムたちが掘った空間は天井は高さは三メートルほどだが、奥行きがかなりあり、正直向こう側の壁が遠かった。


『あらかた掘り終えました、マスター。回収したリストはこちらになります』


 サフィロがホログラフ状のリストを表示する。


「魔石751個、武器約800点、兜、鎧、盾など合わせて2000点以上、その他もろもろ……」

「大量だな」


 ベルさんがニヤリと笑い、俺も釣られて笑った。これ俺たちの総取りだぞ。


「魔獣や亜人らの死体は? サフィロ」

『すでに魔力として吸収してあります』

「素材としての回収はなしか」

「まあ、ゴブリンやオークどもからとれる素材なんてないけどな」


 ベルさんが振り返る。車から降りたラスィアは、目の前の光景が信じられないような顔をしながらやってきた。


「ここは、ダンジョンなのですか?」

「まあ、そうなるな」


 俺は、広がっている一階層しかないが無駄に奥行きがあるフロアを指し示した。

 遠くでは大小ゴーレムが動いているのが見える。ヴィジランティ(仮)以外にも、複数の小型ゴーレムが動いているが、サフィロが魔力を払って作ったのだろう。


「魔獣や敵の装備や魔石は、基本的に倒した冒険者に所有権がある、というのが通例ですが――」


 俺はわざとらしく言った。


「ここでの回収物は俺たちの懐に収めますが、異論はないですね?」

「え、ええ。倒したのがジンさんやベルさんですから……ここでのことを黙っていれば、誰も文句は言わないでしょう」

「黙っていれば」


 ベルさんが意地悪く言った。ラスィアは「黙っています」と頷いた。


「魔石はともかく、武器や防具の類はどうしようかね」


 俺が直接装備するわけでもないし、売るというのが普通なんだろうが、あんな大量の武器を売りさばくとなると、ちょっと普通のルートでは難しい。需要と供給の観点から見て、必要としているところ――例えば戦争が近い場所のほうが売れるだろうが……俺、商人じゃないんだよねぇ。


「武器商人にでもなりますか?」

「ラスィアさん、相変わらず冗談きつい」


 ゴブリンが使ってるようなのは、どうせグレードが低いから、そのまま売るよりは溶かして金属として再生させたほうがいいかもしれない。

 追々、処分方法を考えるとして、とりあえず大量の魔石は、ひと財産だな。これだけでも充分な報酬だ。

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リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

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