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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第99話、砦内部に入ってみた


 砦の中も、正直に言って朽ちていた。照明もないので昼なのに、真っ暗だ。


「ライト」


 ユナが杖を掲げ、照明の魔法を使うと真っ白な光が周囲を照らしたが、直後、天井から無数のコウモリが襲ってきた。

 慌てず騒がず。


「ファイアーウォール」


 全体がけバージョン。飛来した無数のコウモリどもが炎の壁に突っ込んで、勝手に炭になっていく。細かな火の粉が降ってきて、さらに焦げた肉の臭いが漂う。


「いきなり明かりをつけると危ない、っと……ん?」


 振り返ると、アーリィーとオリビアが驚いた顔をしていた。一方で、ベルさんとユナは平然としている。


「何と言うか、対応さすがだね」


 アーリィーが上げかけていたエアバレットを降ろせば、同じく盾を構えていたオリビアもそれに倣った。


「反応はできたのですが、ジン殿はさらに迎撃まで済ませてしまうとは……熟練の冒険者はモノが違います」


 まあ、俺は魔法使いだからね。近接系の戦士だったら、今頃アーリィーやオリビア同様、コウモリを追い払うべく頑張っていただろうとは思う。

 となると――ちら、と俺はユナを見やる。彼女は俺の視線に気づくと、ぶんぶんと横に振った。


「も、もちろん、防御用の魔法を準備してました」

「ユナ公、お前さんが防御魔法張ってる間に、ジンならやっつけてるぞー」


 ベルさんがトコトコと歩き出す。……黒猫の姿のままでいいのかい?


 正面の広いフロアは、奥への通路と左右にやはりひとつずつの通路がある。左側通路の向こうから光が見えるのは、おそらく壁が崩れていて日の光が入ってきているのだろうか。逆に右の通路は真っ暗。正面は……おっと、天井から微妙に光が差し込んでいるようだ。


「ユナ、ここの地図は持ってるか?」

「はい、お師匠」


 銀髪の魔術師は、蹂躙者の杖をその場に浮かせると、ローブの裏から地図を出して開いて俺に見せた。演習に使う砦ということだけあって、内部構造は壊れている箇所も含めて正確のようだった。


「演習は地下だけど、一階や上の階に何か潜んでいると厄介だから、一通り回るか」


 俺たちは廃墟の砦の中を進む。天井や壁から落ちたと思われる瓦礫がれきが床の上に散乱している。どこから入り込んだか土砂もあって、足元に気をつけないと転倒の恐れがあった。石床にしてもへこみや亀裂、落とし穴じみた穴まであった。

 広い部屋に出ればバサバサとコウモリらしき羽ばたきが聞こえ、時々、ネズミが走るのがライトの魔法で照らし出された。


「ひっ!?」


 ビクリとするアーリィー。顔に出てるぞ。まあ気持ちはわかるが。俺も初めてネズミを見たときはびびったもんだ。


『ケケケケ……』

『キキ……ッ』


 引っかくような鳴き声。ネズミではない。どこか嘲笑うかのようなその声にベルさんは呟いた。


「小悪魔どもが……」

「聞こえたか?」

「たぶん、グレムリンだろう」


 悪戯好きの妖精などといわれるが、この世界のそれは醜悪な外見をした小悪魔。数十センチほどの小柄な体格だが、羽を持って飛行して、人の手の届かない場所から飛び道具や魔法を放ってくる。


「……うーわっ、めんどくさ」


 思わず声に出た。どうせ追いかけても逃げるので、奴らが――おそらく複数いるんだろうが、比較的近づいてきたところで魔法で仕留めるのがよかろう。

 俺たちは見回りを続ける。グレムリンは、ところどころで俺たちへの性質の悪い悪戯、妨害をしてきた。天井の欠片を落としてきたのは、そのもっとも危険なやつで、直撃すれば人間だって簡単に死ぬだろう。近づいてきたところで仕留める? んな悠長なことを言っていると精神的に苛立ちが募るので、仕方なく奴らを誘い出すことにした。


 落し物トラップ。


 悪戯好きのグレムリンは、人の落し物や光モノ、小物などに釣られやすい。擬装魔法で宝石に見せかけた石ころを置いておくと、案の定グレムリンが引き寄せられ、ぎゃぁぎゃぁと取り合いを始めたところで、爆砕魔法で吹き飛ばしてやった。


 ほどなく砦内の観光ツアーは終了する。放置されてかなりの年代が経っているらしく、だだっ広い部屋だったり通路だったりで、特に見るべきものはなかった。宝物があるはずもなく、ただの廃墟でしかない。


 上を見終わったので、今度は地下へと向かう。演習では地下四階まで降りることになるので、むしろここからが本番だろう。だが上があんな調子では、特に期待するようなものはない。


 地下一階。石床どころか土がむき出している部分が多い傾斜を下っていく。おお、フォレストリザード並みにデカいのがおる……。

 とくに手間取ることなく奥へ。通路を進んでいると暗がりの中、動く気配。ジャイアントスパイダーが巣を張っていた。糸にさえ引っかからなければ、今のところどうってことはない……と思ったら、こっちへ来た!


「アーリィー、エアバレット」


 こういうのも経験だろうから、俺は突然、指名してやった。青い顔をしていた彼女だが、俺の指示に反応して、素早く前に出るとエアバレットを自分の身の丈ほどの大きさの大蜘蛛に叩き込んだ。渦を巻く風の弾は、大蜘蛛の頭から胴を一撃のもとにえぐり、引き裂いた。


「さすが。よくやった」


 彼女の髪を撫でてやる。褒められて嬉しかったのか、アーリィーは顔をほころばせた。しくじった時は、フォローするつもりだったけど、上手く処理したので褒めてやるのだ。

 オリビアが難しい顔をする。


「あの、ジン殿。最近、殿下に慣れ慣れし過ぎるのでは?」

「そう?」


 素っ惚ける俺。はい、もうすっかりアーリィーのことを王子様としてみていないので。 当のアーリィーはというと。


「ボクは、普通に接してくれるジンのことが好きだよ。もっとナデナデしてほしい」


 えへへ、と笑う彼女。嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

 そういわれてしまえば、オリビアは何も言えなかった。ユナが小首をかしげる。


「お師匠と、アーリィー様は大変仲がよろしいのですね」

「仲がよろし過ぎると言いましょうか。……王族なのですから、それなりに敬意というものが」


 だいたい、殿下のこと呼び捨てだし――近衛隊長殿は頭を抱えた。 


 そんなこんなで、アーリィーに魔獣との戦闘経験を一足早く積ませつつ、俺たちは地下四階を目指す。オリビアもブラッドスネークという大蛇相手の時は、前に出て上手く対処していた。あの細い胴体は、エアバレットでは狙い難いしな。


 それぞれが自分のできることをやって無難に突破していく中、目的の地下四階の祭壇の間へ到達する。

 祭壇の間には魔石灯がついている、とユナが言うので、俺はその魔力回路の場所を教えてもらうと魔力を流し込んだ。すると、室内が魔石灯の青い光に照らされた。

 パッと見えた室内は、広く、まるで教会の礼拝堂のようにも見えた。……うーん、回路が切れているのか、点かない魔石灯があるな。

 魔物の気配はなし。ここが終着点だから、あとは室内を見回って帰るだけだ。ユナは部屋を壁沿いにぐるりと周り、ベルさんはぼんやりと祭壇を見つめている。


 アーリィーはその祭壇へとゆっくりと近づく。


「こういう祭壇を見ていると、子供の頃に聞いた昔話を思い出すな」

「へえ、どんな?」


 俺は彼女のあとに続く。


「地下の神殿、その祭壇の奥には、さらに地下深いところに通じる地下迷宮があるって話。こう、紋章に触れると、秘密の入り口が開いて……」


 ゴゴゴッ、と祭壇の奥の壁が、音を立てて開いた。見れば、アーリィーが祭壇に刻まれた紋章を触れていた。そのヒスイ色の目をぱちくりさせた後、俺のほうへ向く。


「こんなところに扉があった……?」

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