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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第四章 輝ける姿

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杁017 耐え凌ぐ劣勢

 ロッカとルウナによる闘技演習の結果は、当の属性科三年の間ですぐに広まった。

 もちろん、寮のベッドで手脚の療養に専念しているナタリー=ベラドネスの耳にも入っている。


「このままじゃ、水専攻の総手柄っすよ……」


 重い表情で学園内の近況を語ったのは黒髪の女性、ロビナである。

 新聞で作られた紙袋の口を握りしめ、彼女は顔を伏せた。

 ベッドの上でナッツを齧るナタリーの表情に、あまりにも大きな怒気が込められていたためだ。

 長年の付き合いとはいえ、ナタリーの激しい怒りは、変わらず恐ろしいものがあると知っているのである。


「ルウナ……あいつか。アタシが居ない間に、調子に乗ってやがるな」


 口の中でピスタチオが砕け散る。

 今日のナタリーは、やはり不機嫌であった。


 ロッカ=ウィルコークスとの闘技演習で、彼女は巨大な石柱から落とされて敗北し、右腕と右脚の骨を折る重傷を負った。

 片足だけならばまだしも、支えるための腕もとなれば、学園の長い階段を登ることは至難の業である。利き腕が使えない以上は板書も困難だ。

 それにナタリーとしても、そんなみっともない姿を苦労してまで大衆に晒したくはない。

 ここしばらくの間、彼女は寮内で静養を続けており、せめて治りが早まるようにと、少し高めの魔香草で茶を淹れるなどして過ごしていた。

 ロビナやレドリアなどが訪れては、毎日退屈しないようにと、市場で選んだ見舞いの品を持ってくる。

 自分を負かしたロッカに対する鬱憤の溜まる日々ではあったが、そこそこ良い生活は続いていた。

 そう、昨日あたりまでは。


「属性科の中の勢力も、今は水専攻が優位って流れです」

「クソ共が。あんな中途半端な魔道士が初心者に勝ったからって、何の順位が動くっつーんだよ」

「多分、率先して噂で水を引いてるのは水専攻のやつらっすよ。火専攻は実際の脅威である鉄専攻を蹴落とすために、ってことで、あえてそれに乗っかってるんだと」

「ハッ、くだらねえ。自分たちじゃ勝てねえからって、ありもしねえ外堀を埋めようってか」


 小さな机の上に、ピスタチオの殻が積み重なっている。

 ナタリーはさらにもうひとつ、殻を投じた。


「中身のねえでっちあげた風潮ではあるが……しかし、めんどくせえことになったな」

「はい」


 二人の表情は芳しくない。

 それは勢いに任せて高圧的に振る舞い続ける彼女らの、他人には見せない珍しい一面であった。


「ゾディアトス導師はいつやってくる?」

「もうすぐです。多分、何日もしないと思います」

「水の天下は……」

「その時までは、続くんじゃないかなって」


 ピスタチオの殻が、手の中で音を立てて砕ける。

 ナタリーの身体強化によって与えられた圧力が、硬い殻をも押し潰し、破壊してしまったのだ。


「まぁ、アタシだって向こうの立場ならそうしてるな」

「でもナタリーさん、このままじゃ!」

「ゾディアトス導師の目に留まらない、か? ハッ、元々アタシが負けた時点で望み薄だったんだ。気にすることはねーよ」

「そ、そういう意味じゃ」

「ホント、迷惑かけるな」

「そんなことないっす!」


 ロビナが勢い良く立ち上がり、弱音を否定した。

 つくづく健気な彼女の一斉に、ナタリーは自嘲するように笑う。

 が、そんな態度でさえも、ロビナの心はより強く締め付けられるばかりであった。


「ナタリーさんは私達を導き続けてくれたじゃないですか。弱音なんてやめてくださいよ。メインヘイムにいた頃から、訓練所の頃からずっと……」


 そこまで喋ると、続きはナタリーの手によって制された。


「恥ずいだろ。やめろよ、昔話は」

「でもまだ諦めるなんて!」

「誰が諦めるっつった。弱音も吐いてねーよ。人の話は最後まで聞け、バカ」

「あだぁっ」


 ピスタチオの鋭い破片がロビナの額に衝突した。


「闘技演習場で負けた分の汚名は、同じ闘技演習場でしか突き返せねえ。そりゃアタシもそうだし、ルウナだって同じこった。水天下ってのは、ほんの一時の気休めさ。どうせすぐに、まともな判断が主流になる」

「……これまでで一番勝っている勢力が、正当に評価されるようになるんすか?」

「そうだよ。それもわからねえほど、奴らもバカじゃねーさ」


 ナッツを真上に放り投げ、口の中に落とす。

 一口目を齧る彼女の一瞬の砕けた表情は、数少ないナタリーの、素のままの姿であった。


「要するに、今まで通り闘技演習場で負かし続けてりゃいいんだよ。こっちが負けたら負けたで、再戦を挑めば良い」

「戦って、勝つ。力をしらしめる」

「そこんところは、今までと変わらねーよ」


 もうじき完治する腕を掲げ、ナタリーが拳を握る。


「そう、アタシの標的が一人、増えただけでな」


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