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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 燃え滾る熱血

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煮詰める血肉


「くっそー滅茶苦茶重いな……!」

「むしろロッカが引きずって運べてることに驚きよ……」

「む、無茶はよくありませんよ? 普通はまるごと運んだりはしませんから……」

「せめて川まで……!」


 ノラドは食えるらしい。しかも食べ方が色々あるんだとか。そう言われるとまるごと持って行きたくなるだろ?


「ある程度は山の中で解体して破棄するべきです。特に内臓のほとんどは食用になりませんから、重いだけで運ぶだけ損ですよ。ノラドはまず、背中を覆う鱗状の棘をまるごとくり抜くように刃を入れて……」


 結局重さに負けた私は、その場でノラドの解体を見学することになった。

 マコ導師は見た目にはそぐわないほどこういった作業に詳しく、大きめのナタを使って手早くノラドを解体してゆく。


「くっしぇ!」

「臭いですよねぇ。私も狩猟した相手はあまり解体しませんから、下手でごめんなさい。破いたらいけない内臓も傷つけてるかも……あ、ボウマさんそこです。そこで外側に打ち付けるようにすれば全部外れます」

「うぇ、うぇ、うぇーい」

「わあ、上手ですね! 良いですよ!」

「へへへ」


 ソーニャだけ少し遠い場所で苦そうな顔して見学しているけど、私とボウマはそこそこ興味深く解体作業を手伝った。

 私は山である程度似たようなことやったことがあるので、まあ大して目新しいものはない。

 背中をぱっくり外すのが変わった作業だなとは思ったくらいだろうか。それ以外はポルの解体に近いような気もする。


「はい流しますよー、“キューティ(水よ)ラテミルト(この地を覆え)”」

「うわーこういうの見ると水魔術すごい便利だよなぁ」

「なんでも洗い流せるのすごいじぇ」

「ふふふ。泥汚れも返り血も濯げますからね。便利さで言えば、他よりも長じているのはきっと間違いありません」


 マコ導師の構えたタクトの先から溢れ出る大量の水は、解体作業で汚れた手や道具、そしてバラした肉類を綺麗にするには最適なものだった。

 すっぱり諦めてはいるけれど、こうして体験すると自分じゃ水魔術が使えない体質だっていうのが惜しくなるな。ま、どうせ私の場合は勉強で躓くんだろうけどさ。


「……あら? なんだかここまで細かく切っちゃうとただの大きなお肉に見えてくるわね? これなら私も運べそうだわ」


 最終的に大きなノラドは数人で余裕で持ち運べる姿になり、可食部でない残滓はマコ導師の炎で燃やされた上、深めに掘った穴に埋められたのだった。

 穴掘りで活躍したのは当然私のアンドルギンだ。山の土掘るのもすげえ快適にできる。やっぱこのメイス最高だよ。




『お?』

「んりゃ? ライカンたちもノラド見つけたの?」


 そして川沿いに歩き、拠点を目指している時のこと。

 そろそろキャンプに戻れるなってところで、ずたずたに傷ついたノラドの死体を吊るして捌いているライカンの姿を見つけた。

 どうやら男たちも私達と同様にノラドを見つけ、解体に漕ぎ着けていたらしい。……クラインに自慢してやろうかと思ったのに、同点かよ。ちょっと残念だ。


「やあおかえり。僕たちの方はノラドを見つけて今解体を……って、その大荷物。もしかしてそっちも?」

「そうよ。ロッカとボウマが二人で頑張って仕留めてくれたんだから。私は追いつくだけで精一杯だったのに」

『おお、そいつは凄いな! よくやった!』

「うへへ」


 頭をワシャワシャされてボウマもふにゃふにゃしている。

 けどボウマは本当に頑張ったもんな。今日の討伐はボウマに満点をやるよ。私が。


「ようクライン、そっちは川で捌いてるのか」

「ああ。……最初は流水の中で寝かせて捌いていたが、どうにも難しくてな。思っていた以上にうまくはいかなかった。なので今こうして木から吊るして切っているところだ。これは上手くいっている」

「たしかに、結構やりやすそう」


 クラインは“スティ・レット”で生み出したらしい鉄剣を握りながら、乱暴な太刀筋でノラドの手足をガンガンと切りつけていた。

 なるほど、解体用のナイフがなくても鉄魔術なら自分で生み出せるわけか。鉄魔術にこういう使い方があるなんて驚きだ。


 ……でも考えてみれば、普通は剣って握って使うものだしな。投げて飛ばす方がむしろ間違っているのかもしれない。


「ノラドはあと一匹、この辺りのどこかに潜んでいるはずだ。あるいは仲間を殺されて逃げたのかもしれん。……群れない魔獣のはずだが、共生はしていたのかもな。オレたちを敵視している可能性はある」

「逆に襲いかかってくるってか? 上等だよ、返り討ちにしてやる」

「ひとまず今日は一晩キャンプで泊まり、翌日の様子を見てまた決めることになるだろう。方針はマコ先生と……経験者のライカンに委ねるつもりだが」

「だね、それが一番だ」


 私もバッと前に出てぶっ飛ばすくらいならできるけど、ただそれだけだ。討伐と一口にいっても、山を歩いて、いい感じにキャンプできる場所を探して、痕跡を辿って……やることや知ってなきゃいけないことは思っていた以上に沢山あった。

 まだまだ二人の先輩の言うことを大人しく聞いてたほうが良い段階だろう。多分、それはクラインも。




 思いがけず遭遇し、どうにか討伐された二匹のノラド。

 それによって手に入ったのが、大きなノラドから切り出された食べごたえのありそうな赤身肉だ。いやぁ、解体してるときは“この巨体からこれだけしか取れないのかよ”とか思ったけど、元がでかいせいで普通に量は多いや。それが二匹分なのだから尚更圧巻だ。


「ノラドの肉は薄く切って串焼きにしてもいいですが、ぶよぶよした皮の一部ごと鍋に入れて煮ると美味しいですよー。実はノラドの血も新鮮なうちに処理しておけば健康に良い飲み物にもなったりします」


 念のために持ってきた大きめの銅鍋が早速役に立つ。

 山の散策中に引っこ抜いてきた野草と一緒に細かくした肉や皮を煮込み、ぐつぐつと温めてゆく。


「あら、すごく良い匂い。へえ、あんな不気味な顔してたのに……意外だわ」

「不味いってことはなさそうな匂いだねぇ。僕も苦労して闘った甲斐があるよ」

「ヒューゴも闘ったん? クラインだけじゃなくて?」

「お、ボウマ僕のこと馬鹿にするなよ? こう見えて結構いい感じに追い詰めてやれたんだぜ」

『うむ。目潰しに手足の広いダメージ、ノラドもなかなか怯んでいたな』


 外は既に薄暗く、高めに架けられたロープやテントの入り口では灼灯のランプが掲げられていた。

 それでも山の深い闇を打ち消すには心もとなくて、早い段階から焚き火も始めている。

 調理中の鍋を囲んで話すのは、ノラド討伐の一部始終だ。ボウマもヒューゴも活躍したとあって、話は弾んでいる。獲物もとれて気分も上向いてるしな。これで今日の成果が何もなかったら、きっともっとしんみりというか、静かな過ごし方をしてたんだろうなと思う。


「あっ、そうだウィルコークスさん。今日はお酒だめですからね! 仕事中は厳禁ですよ!」

「わかってますって……先生私のことなんだと思ってるんすか」

「意外とお酒飲みだって思ってます。気をつけてくださいね?」

「はぁい」


 さすがの私も仕事中に飲むことはない。夜だからって、キャンプ中は何が起こるかわからないんだからな。


「ふーん、ノラドの血ねぇ……先生、あとはこれに塩を加えて、あとは濃いお茶に混ぜるだけなんですか?」

「レイオネ草を濃く抽出したお茶で割っていただきます。お酒で割ることも多いそうですけど、今は任務中ですからね。それに、レイオネ草の方が身体には良いですよ」

「こっちもくちゃい」

「血というよりあれだよな、薬草の匂いがキツい感じだ」


 わずかにとれたノラドの血からはちょっとした飲み物が作られている。

 といってもゴクゴク水代わりに飲めるようなものではなく、お薬のような飲みにくいやつだ。


「んー……苦い……けど、思ってたよりも血の味ってしないのね」


 こういうのが一番苦手そうなソーニャが一番乗りで飲んでいたから意外だ。

 生き血よりも皮がちょっとついてるだけのノラドの肉の方が嫌らしい。


「私、こういう血の料理って結構いけるのよ。別に血が好きなわけじゃないんだけどね」

「……なんだかソーニャ、そういう魔族みたいだね?」

「そういう魔族ってコウモリかノミしか居ないでしょ……怒るわよ」

「ごめんごめん。僕にも一口だけちょうだい」

「はい」

「……うん、薬草の主張が強すぎてよくわからないや」

「ね」


 揺れる焚き火の灯りと、美味しそうな香りの湯気。

 鶏肉のように癖のないノラドの肉料理を楽しみながら、私達の野営の時間は明るく賑やかに過ぎていった。


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