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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 燃え滾る熱血

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急造する野営地


「魔獣の出没する森における野営は、入念な準備が必要になります。言うまでもありませんが、寝込みを襲われる危険があるからです」


 渓流のすぐ側、井桁状に刻まれたノラドの特徴的な爪痕が残る樹木の前で、マコ導師が喋っている。

 学園での先生としてのものよりずっと真剣そうな、どこか軍人っぽさを思わせる表情だった。


「通常は近くの山小屋か管理小屋などを借りて寝泊まりします。そういった施設があれば、間違いなく安全ですからね。しかし、僻地などでテントを使わざるをえない場合はそれに加えて十分な防衛機能や警戒機能を持たせる必要があります」

「ふーん……この近くには山小屋とかないのかぁ」

「いえ? あるそうです。と言うより、このくらいの場所であれば近くの村で寝泊まりして派出するのが一番自然ですね。正直言って立地的にわざわざテントを建てて寝泊まりをする必要はないのですが、今回は本格的な野営の練習ということで、あえて設営します」


 ああ、このくらいの場所だとテントは必要ないんだ。まあ確かに、距離的にも人の生活圏は近いしな。

 けどこれが仙山の近くだとか、それこそデムハムドの僻地ともなると野営の必要も出てくるだろう。


「野営のポイントは三つです。いざという時にすぐ退避できるルートがあること。敵襲に備えた足止めの罠があること。そして何よりも迎撃に優れた場所であることです」


 ノラドの痕跡を辿るようにして、渓流沿いに歩いてゆく。

 次第に山道も険しくなってきた。川沿いだからここはまだマシな方だけど、ちょっと横にそれた山林の方は藪漕ぎする必要があるかもしれない。


「さてボウマさん。ボウマさんだったらどういう場所にテントを張りますか?」

「えぇ? こことかでも良いんじゃない? 近くに川あるし、水が使えるじぇ」

「僕もそう思うな。川沿いの方が歩きやすいし、いざという時に川を泳いで渡れば魔獣対策にもなるんじゃ?」


 ヒューゴの言葉に私は“おや?”と思った。

 なんというか、普段色々と物知りなヒューゴがそんな事を言うとは思っていなかったからだ。


「ちょっとヒューゴ、ボウマもだけど。川沿いにテントを張るのは危ないわよ。雨が降って増水したらどうするのよ」

「ああ、増水か。なるほど確かにそうだ……いや、そうなのか?」

「どゆこと?」

「はい、ソーニャさんの言う通りですね。もし山林で野営する場合、川の近くに拠点を置くのは可能な限り避けるべきです。増水によって簡単に流されちゃいますからね。魔獣がいない地域でも危険なんですよ?」


 ヒューゴの住んでいる風の国では水の豊富な渓流なんて少ないだろうからな。

 そう考えると私にとっては当たり前な知識でも持ち合わせていないのは当然なのかも。


「だが二人の言う通り、水場に近いのは利点でもある。水害に巻き込まれない程度に近ければそれだけで利便性は高いだろう。オレとしては向こうの……高い場所。その少し奥側に布陣したいところだな」

「へー、クラインはそっちか。ソーニャだったらどうする?」

「えぇ私? 平らなところが良いわ。傾いてる場所で眠れないもの」

「ふふふ。エスペタルさんの言う通りですね。テントはなるべく平らな場所に設営することが望ましいです。床が少し傾いているだけで居住性は大きく落ちますからね」


 そんなこんな渓流沿いに登り続け、少ししてから林の方に入ってゆく。

 マコ導師が背嚢をどすんと置いたのは、所々に樹木があるものの下草の少ない場所だった。


「というわけで、今回の仮拠点はここに定めましょう!」

「うーん? マコちゃん、どしてここ?」

「理由は色々ありますよ? 川にほどほど近い。地面が平坦。下草が少なく視界を遮るものが無いので警戒に向いている。しっかりした太さの樹木が周りに多いので盾にしながら戦いやすい。ほとんど獣道のようなものですが、一直線に渓流に続く避難路もある。私としては、理想的な場所だと思います!」

『高さのある木なら、いざという時に木登りできれば逃げられるしな』

「はえー……」


 そう言われてみると、確かにこの辺りなら戦いやすいかもしれない。

 足元で邪魔する下草や茂みが少ないのも良い。よくよく考えてみたら大事だよな、足元。


「次にやるべきは手分けして拠点の設営です! 同時に警戒網を敷いていきます! 警報魔具を樹木に縛り付けて、トラップロープを張り巡らせていけば大丈夫です! コツは来られたら困る方角に重点的に張り巡らせておくことですよ!」

『さあテント張っていくぞー。山の夜は早いからな、明るいうちにさっさと準備しないと泣きを見るぞー』


 ライカンに脅されて、私たちはテントを組み上げていく。

 金属のポールをまっすぐ縦に伸ばして、大きな天幕をそこから広げていくタイプのものだ。ロープはあちこちの幹や枝に巻きつけて縛り上げるようで、形はちょっと不格好かもしれない。


「おいロッカ。そこの綱を強く張りすぎだぞ。オレの伸ばす部分がずれてしまう」

「ぁあ? 頑張って引っ張れよ」

「んぁー、ロープの巻き方難しいじぇ……」

「ごめんソーニャ、こっちにハンマーもらえるかな?」

「ハンマーってこれでいいの? はい」

「ありがと」


 私もこういう天幕を設営した経験は、無いではない。たまに坑道近くで腰を据える時なんかはでかいのを幾つか置いたりするしね。

 けどこういう、夜を過ごすためのテントらしいテントっていうのは初めてかもしれない。

 クラインや他の皆も似たようなものだそうで、誰もが苦戦しながら慣れないテントを組み上げていった。


 畜生、私達のための勉強とはいえ、こっちを見てのほほんとしてるだけのライカンとマコ導師が恨めしい……。


「おーっ、おっきいテントだ!」


 完成したテントは“頑張れば”という但書が付くものの、一応ここにいる全員が寝泊まりできるだけのサイズを持っていた。支柱を中心に足を向けて寝れば、まあ大丈夫、みたいな。そんな寝床だ。

 男女別にできるよう内側で仕切る布のカーテンみたいなのもあるらしく、ぱっと見ると二部屋とリビングがあるようにも……見えないでもない。かな?

 今までずっと背負ってきた荷物を下ろすと、出来上がったばかりの内装に生活感が生まれるのだから不思議なものだ。


「いかがです? ボウマさん」

「んー……寝心地良さそう!」


 そうか? まぁ“聖櫃”での寝泊まりよりはずっと快適そうだよな、不思議と。

 あっちはあっちで風も雨もないのはマシだったけど、物資不足に悩まされ続けていた。そういう意味じゃ断然、森の中の野営がマシってもんだ。いざとなれば燃やせる薪も飲める水も食えるものも手に入るのだから。


「次に手分けをして薪拾いと、並行して痕跡集めです。途中で魔獣と遭遇すると危険なので、私とポールウッド君とで二班に分けていきましょう。薪拾いは夜を過ごすために必要ですし、痕跡集めは本来の仕事です。これから本格的に討伐任務が始まりますよー」

「あ、なんだかこれって聖櫃でのやり方を思い出すね」

「わかるじぇ。手分けして探すの大変だったなぁ」


 やっぱそう思うか。だよなー、探索ってやっぱそうなるんだよなー。


「お、おお……皆さん初めてのはずなのにどこか手慣れている反応ですね……」

『うむ。ここにいる皆、討伐任務は素人ではありましょうが、相応の場数と経験は踏んできましたよ。皆立派にやり遂げたもんです』

「よせやい、照れるだろ」

『褒めるところは褒めるさ、そりゃ』

「あたしも褒めて!」

「むぅ……私だけその時居なかったから、なんだか疎外感があるわね」


 ああ、そうだった。ソーニャだけ聖櫃は行かずにお留守番してたんだった。


「まあまあ、危ない所だったからね。仕方ないさ」

「拗ねてるわけじゃないわよ、もう」

「……エスペタルさんはこの後どうされますか? 留守番よりも、どちらかといえば私達と一緒に痕跡探しに行った方が安全だと思いますけど」

「ソーニャも行こうじぇ!」

「えー……足手まといにならないように気をつけはしますけど……大丈夫なんでしょうか? マコ先生」

「はい、問題ありません! 私と一緒に行動すれば安全ですよ!」


 マコ導師にそう断言してもらえると心強い。

 ま、ソーニャが危ない時は私もボウマも全力で守ってやるけどな。


「組分けは男性と女性に分けていきましょう。ポールウッド君の班はユノボイド君とノムエル君の三人で行動してくださいね」

『え……マコ先生……一緒じゃない……?』

「班の戦闘能力で考えれば妥当なところだろう。ライカン、森での討伐はオレも経験が薄い。案内は任せるぞ」

『……おう……任せてくれ……』


 そんな露骨にしょげるなよライカン……。


「じゃあ私も、闘いは出来ないと思うけど薪拾いくらいはやるから。頑張るわね」

「ん! しょがにぇ、あたしが守ってやる!」

「私も守るぞ」

「あら頼もしい」

「ふふふっ」


 ……そもそもマコ導師が男女別にした時に私達女組に振り分けられるのってどうなんだろう、とは誰も言わないのであった。


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