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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 熔ける環銅

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胞008 精選する従姉妹


「へえ、貴女鉱山で働いてらしたの! それでそんな仰々しいメイスを?」

「おう。破砕杖アンドルギンっていうんだよ」

「雄々しい銘ね! 私のこのロッドは“王笏クロカラット”! 領内の腕利きの職人に作らせた芸術的な杖ですの!」

「ほー……私詳しくないけど、先端の石とか結構綺麗じゃん。宝石みたいで」

「そう! 我が領は宝石の加工技術も優れていますのよ! ジュエリーが御用の際は是非うちのお店に相談なさい!」


 私がシモリライトの石切りを上手くやってみせたおかげか、周りの石工の人たちから大いに気に入られたらしい。マルガリータも私の技が気になったのか、私に話しかけてきている。


「ぎゃー、かってぇー!」

「はは、ボウマそうじゃないよ。これは垂直に立てないと駄目なんだ」

「ヒューゴ詳しいじぇ……ロッカみたいなことやってたん?」

「いいや? それでも僕はこう見えて工作に詳しいからね。大事な基礎っていうのは、仕事が変わっても使えるもんなのさ」

「はぇー」

『むぅ。難しいな。俺には向かない仕事のようだ……』


 皆も私と同じように工具を持って石の切り出しに挑戦している。


「大昔は一つの岩礁が綺麗さっぱり無くなるほど大量に切り出したそうだが、今はぼちぼちだ」

「なるほどー、昔からのお仕事なんですねぇー」


 クラインとソーニャとマコ導師は総監督の老人からもうちょっと学術的? みたいな話を聞いているようだ。

 石切場の成り立ちとかそういうやつ。そこまでいくと私はちょっと興味が薄れるかも。


「ロッカ=ウィルコークス、といいましたか。どうかしら? ロッカから見てミネオマルタでの暮らしというのは。私、ほとんどこのクモノスを出たことがないので知らないことばかりですの」

「ん? ミネオマルタかぁ……私もそう長くいるわけでもないけど……でも、綺麗というか。でっかい建物がいっぱいあって、やっぱ都会って感じがするよ。そういう意味じゃクモノスよりもずっと栄えてるんじゃない? 私もこの街を全部見回ったわけじゃないけどさ」

「トロードス領の町並みと比べるといかが?」

「あー。建物の密集具合で言えば近いかもしんないけど、高さが違うね。ミネオマルタって普通に三階建てとかいっぱいあるもん」

「ま! それでは完敗ですわね! 斜面ばかりの我が領土ではとても真似のしようもありませんわ!」


 しかし、このマルガリータという女は本当に、喋り方や装いほど嫌味がないというか。話しやすい性格をしているなと思う。

 不思議と波長が合うんだよな。絶対に私とは似てないと思うんだけど。


「ところでロッカ。首都の方ではどうですの」

「どうって?」

「それはもう当然、男よ。男」

「当然なのかよ」

「田舎の男は肉体労働で良い身体に仕上がっていますけどもねぇ。何分狭い環境なものですから、選り取り見取りというわけにもいきませんのよ。町一番の男前はすぐに見つかれど、二人目以降とはそうそう出会えないのです。その点首都なら供給は無限でしょう? どう? 町を歩いてて日にどれくらいすれ違うの?」


 なんかすげぇぐいぐい来るなこいつ。やっぱり波長合ってないかもしれん。


「いや、いい男かどうかなんてわからねえし。町歩いててもすれ違うだけだし、別に話したりもしないから」

「え!? 町で良い男に合っても話しかけたり話しかけられたりなさらないの!?」

「何驚いてるのか知らないけどしないよ。……いや? 私がされてないだけか?」


 私の記憶ではミネオマルタの町中を歩いていると、たまに目が合う相手がいることはいる。男でも女でも。

 けど目が合うのがその瞬間だけならともかく、ジロジロとこっち見てくる相手には睨み返してやるからな。大体はそれで終わりだ。ずっと不躾に見てくる相手は喧嘩売ってるようなもんだし。


「はー……思っていたより刺激の薄そうな場所なのねぇ……」

「なに。マルガリータはそういう、男と仲良くなったりしたいの」

「それはもう! 大恋愛はトロードス家の素晴らしい伝統ですもの!」

「家の伝統」

「我が家では代々、男も女も色恋沙汰に命と金を燃やしてきましたの。家を高めるための結婚も当然大事ですけど、やはり一生に一度であるなら好きな方との恋愛結婚に限りますわ! そう思わなくて?」

「まあね。というか私は家の結婚とかそういうのはわからないから、恋愛結婚が普通じゃないの」


 うちの父さんと母さんも恋愛結婚だったしね。母さんも恋愛とかそういうの好きだったな。父さんは……自分で恋愛結婚したくせに、私の事となると色々注文つけてくるけど。なんなんだろうなあれは。


「そう、普通はそうなのです。誰もが恋愛し、それによって結ばれるべきなのです。だのに我が家のお祖父さまや兄さまと来たら、“トロードス家にはさらなる良家の血が必要だ”とか言うばかりで……全くもう! だから伯母上は真実の愛を求めて出奔したのです! “次は私が出ていってしまうかも”といくら脅しても脅し足りませんわ!」

「旧貴族は大変そうだなぁ」

「本当大変ですのよ! まぁ、良家で良い男がいれば全く問題無しなんですけど。けどウチがくっつけたがっているクラインはどうも私の好みとは違いますし……」

「クラインねぇ。あいつと結婚かぁ……」

「お姉さま!」


 そんな話をしていると、離れた場所からセシリアが部下の魔道士たちを連れて駆け寄ってきた。

 ちょっと慌てた様子だ。何か急用でも出来たのか。


「沖にアネモネアが座礁してるらしいです! アネモネア・ゴルゴンが!」

「まあ、なんと!」


 アネモネア・ゴルゴン?

 私が聞き返す前に、真剣な表情のクラインが振り向いたのが目に入った。


「アネモネア・ゴルゴンはこの海辺の沖に生息する、水棲の魔族です。人間三人分ほどの巨大なイソギンチャクを想像してくださいませ。その上、触手に強い毒針があり、力も強い」

「やべえな。でもイソギンチャクって動くのか」

「普通は動きません……! どうやら波のせいか、それとも別の要因か……岩から離脱し、そのままこちらへ流されてきたらしく……作業場からは遠いので危険も薄いですが、念のために駆除しなければ陸に近づくかもしれません。駆除に向かいましょう!」

「さあ、聞いてらして!? 守護隊の皆さん、お仕事ですわよ!」


 それまで石切り場の各所に散らばっていた守護隊の魔道士が集合し、引き締まった表情で沖の方へ歩いてゆく。

 が、途中でマルガリータが立ち止まり、思いついたように私達を見た。


「さて、私達はこれにて……と言いたいところでしたが、貴方がたも優秀な魔道士ですわね。危険が一切無いとは言えませんが、我々の活躍を見られる貴重な機会でもあります。部外者を危険地帯に近づけるとお祖父さまやお兄さまがうるさくなりそうではありますが、この場は非魔道士の作業者をより万全を期して守るためという口実で、皆さんをお連れしたいと思いますわ」

「ちょ、ちょっとお姉さま……!」


 どうやら“一緒に来ないか”と言ってるらしい。回りくどいな。


「面白そうじゃん、でかいイソギンチャクの魔族だってよ。私はいくぞ」

「守護隊とやらの実力を見るには良い機会だ。オレは見学に参加しよう」

「あたしも! こっちきたらぶっ飛ばしてやんじぇ」

「ええ……私も行かなきゃいけないやつかしら……まあこれだけいれば安全でしょうけど」

「念のために僕らは後ろの方で見ていようか」

『マコ先生も?』

「もちろんです! 私の知らない魔族ではありますが、現場の魔道士の方が対処法を知っているなら是非とも教えてもらいましょう。これも勉強の一環ですよ」


 全会一致である。まあ私らは珍しいものを見に来たんだからな。見せてもらえるならそりゃ見に行くさ。ソーニャも言ってたけど私達が全員揃ってれば大抵のことは危険じゃないだろうし。


「ああ、もう……お姉さま、後で小言を言われても知りませんよ!」

「全くセシリアは融通がきかないわね。それだから交際が長続きしないのよ」

「それは関係ないでしょ!?」


 ……どうやら色恋に熱中しているのは姉の方だけではなかったらしい。


 ま、それはともかく魔族退治だ。

 アネモネア・ゴルゴン。一体どんな奴なんだろう。



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